ドッペルゲンガー
【ねーねー今さ、ある都市伝説が大流行してるんだって】
【えーなになに?今時都市伝説ぅ?】
【うん、ドッペルゲンガーっていうんだけど】
【えええ、ドッペル?めっちゃ昔のやつじゃん】
【でもね、案外馬鹿にならないらしいのよ】
【見たら死ぬとか、自分に成り代わっちゃうとか…対処法はない!とかよく騒ぎたてられてたよねww】
【新ドッペルゲンガーはそれだけじゃないらしいよ…】
【ドッペルゲンガー】
ドイツ語のドッペル(二重、分身)という意味からきている。正体については様々言われているが、未だ解明されていない。見たら死ぬということから過去には恐れられていた。出会った人間は自分自身を見てしまったショックで、心臓麻痺を起こして即死する。または数日から1年以内に徐々に体調をくずし、あるいは精神に支障をきたして死を迎えるといわれている。自分の精神が蝕まれていくことに耐えられず、自殺するともされている。特徴として周囲の人間と話をしない、本人と関係のある場所に出現するとも言われている。
「やっば!遅刻だぁ!! 」
少年はまだ食べかけのパンを握りしめたままもうダッシュで走り出した。
少年の名は椎名 一巳。
小柄で痩せ形の童顔で、首元にヘッドフォンをかけている。
高校登校初日からまさかの遅刻。
えっと携帯携帯
一巳はズボンから携帯電話を取り出すと走りながらメールを打った。
(ちなみに一巳はスマホではなく普通の携帯電話(俗にいうガラケー)で前はきちんと向いたまま画面を見ずに打つ(唯一の取り柄)という器用なやつである)
〈遅刻した、お前今どこ?〉
待ち合わせをしていた友人にメールを送る。
(この友人もかなり遅刻しているらしい)
しかしいくらたっても返信がない。
「マジかよ、あいつ普段なら返信鬼早いのに…お前からメールの早打ちとったら何が残んだよ!!てか遅刻メールお前からだろー 」
少しイライラしながらもどうせ遅刻と割り切り、友人との待ち合わせ場所へと向かった。
駅近くの商店街の一角にある曲がり角が彼らの集合場所。
「あれ…あいついなくね?」
あたりをきょろきょろ見渡しながら不満そうにつぶやくと角の周辺を捜し始めた。
「元はといえばあいつのせいで遅刻した訳だろ…起こしてやるって言ったのに… 」
とりあえず角の奥の方へ入っていく。
「へえ…ここら辺ってこんな風になってんだな。初めて来たww 」
友人、岸賀崎 康介はこの商店街の生まれで母が呉服店をやっている。
よく二人は子どもの頃にこのあたりで遊んでいた。
「どこだよ~コウ(康介)~このままだと最強に遅刻だぞー 」
少し愚図りながら奥へと進んでいく。
すると奥の角の方から生っぽい鉄のにおいがした。
「ん、血?ま…まさか動物でも死んでんのか…。朝からはちょっとなぁ… 」
しかしそこは活気盛んな高校生、少し気になりこそっと角をのぞいてみた。
それにグロ画像や映画はよく見るため大丈夫であるという自身はあった。
暗くてよく見えないが、二人の人影が見えた。
暗順応の効果により少しずつ目が慣れてくると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
壁のあちらこちらに血が飛散し、地面にも全身の血液が流れだしたのではないかと感じるぐらい大量の血がべっとりとついていた。
あまりに濃い血液のにおいに嗚咽しながら暗がりに慣れた目を無理やり現場に向けると、二人の人影の正体があらわになった。
「コウ・・・スケ・・ 」
二人の人影は寝転がっている人の上に膝をついたもう一人がまたがっているという状態で、上の人というのが友人の康介であった。
話しかけようとしたが、恐怖と複雑な感情、嫌な想像が邪魔をして言葉が出ない。
動かぬ口の代わりに目を動かし、状況を飲み込もうとした。
すると康介の下にいるもの恐ろしい姿が目に入った。
全身の皮がなくなっており、全体に赤く輝く10cmはあろうかという針のようなものが刺さっている。
その針の先がだんだん血管のように伸び、筋肉繊維を破壊している。
破壊された組織はミンチ肉をこねたような状態になっていた。
あまりに恐ろしく気持ちの悪い光景に全身の血が逆流し、意識が飛びそうになった。
ふらふら地面に膝をつく。
康介はその光景を真顔で見つめていた。
ある程度筋肉の分解が終わると、康介はおもむろに腹部に手をねじ込んだ。
そこからいくらかの肉をつまみ上げると口へと運ぼうとした。
(見たくない見たくない見たくない…)
一巳は下を向き、ヘッドフォンで耳をふさぎ、ずっと同じ言葉を繰り返した。
何回言ったかわからない。
不意にほっぺをたたかれた。
「へ… 」
抜けたような間抜けな声が口から洩れた。
「お、起きたか少年! 」
そこにはいかにもチャラそうな男がにやにやしながら顔を近づけてきていた。
男は背が高く年齢は20歳前後、髪の色は金髪で少し長めの髪をしている。
前髪も長く鼻下ぐらいまで伸びている。
灰色の瞳で外国人のような雰囲気だ。
「うおおおわあああ 」
一巳はあまりの驚きに男の鼻に頭突きをお見舞いするとすぐに男のそばから離れた。
「いいいいってええええええええ。なにすんだテメー。くぅううううそガキいい 」
男は鼻を押さえて転げ回っている。
その光景に先ほどの恐怖が嘘のように薄れていった。
あたりをよく見るとどこかの建物の屋上のようだ。
「なんだ、…え、大袈裟じゃね… 」
「はあああ!!お前命の恩人に対してなんだよその態度!もう一回連れて行ってやろうか?あ 」
「恩…恩人!? 」
「おうよ!ってそれより、お前なんであんなとこいんだよ…一般人だろ? 」
「っん、えっと…質問の意味が… 」
「わっかんだろうよ!!さっきのグロ現場だろうが! 」
グロ現場という言葉に少し前の光景が思い出された。
「っう… 」
「あああ、す、すまんて。えーとあれだ、あれはな…その…撮影なんだよ映画の 」
男はとりあえず落ち着かせようとあんまりにも下手な嘘をついた。
「っえ…さ…っきと矛盾… 」
「そうなんだよ。いやさ来年の夏の映画撮ってたんだよー。だからなんで現場に関係者でもないお前がいんのかな的なww 」
「あの…嘘っすよね… 」
「ほんと俺がいなかったらさ、監督超絶怖い人だからお前マジでやばいことになってたわマジで 」
(よし、これでいける、俺嘘つく才能最強だわ)
「あの、その映画に俺の友人出るんスか?それにカメラ回ってたっけ… 」
自信に満ちて嘘をつく男に一巳は一突きをくらわした。
「え、友人…カメ… 」
(マジかよー友人!?…カメラ…ええええ)
男は少し動揺して、顔を歪ませたが、すぐに元の表情に戻った。
「ぅおほん、まあな」
「嘘だ…確実に嘘だ…。今日高校の登校初日だし 」
男と一巳の間に変な空気が流れた。
「あああ、なんでもいいけどよ、忘れろいいな。じゃねえと… 」
男はそう言いかけて目線をそらした。
「じゃねえと・・殺されるんすか、俺。」
「……」
「ちなみにコウ…友人は… 」
「まぁあれだ。気にすんな 」
「どういう…まさか、殺され… 」
「てねえから大丈夫だ。 」
「彼は病気なのよ」
急に女性の声が聞こえた。
声の方を見るとセクシーな格好をした金髪美女が立っていた。
男と同じ灰色の瞳。
「っち。テメーかよ 」
「なに?あんたが間抜けだから私が出なきゃいけなくなったのよ。弟くん 」
「あぁ?弟じゃねえよ。歳一緒だろうが 」
この二人よく見ると顔が似ている。
「双子なんですか?」
「そうよ」
「…ッチ 」
「そんなことより!本題に入るけど、先ほどの件ね。あなたたちの会話、聞かせてもらったわ。ご友人さんなのね。彼はある感染症に侵されているのよ、それであんなことに…。私たちはその研究をしている研究者。いろいろ気になるかとは思うけど、これ以上は言えないの。ごめんね。」
「… 」
一巳は彼女が言っていることにも多くの矛盾と疑問を感じたが、自分の見たものがあまりにも浮世離れしており説明ができないため、考えることを放棄した。
「怖い思いさせちゃってごめんね。こいつ馬鹿だから 」
美女はそういうと一巳の頭を撫でてくれた。
「い、いえ、大丈夫です 」
「はあ、なんだよ。俺のせいかよ。しかもバカってなんだよ。テメーもさっきと態度違うじゃねえか!! 」
「友人のことは必ず私たちが助け出してあげるからね! 」
「無視かよ! 」
「もう家にお帰り。今日は疲れたでしょう。送るわ 」
気付けば夕方になっていた。
二人に連れられ建物を出るとそこには高級そうな車が止まっていた。
「乗って 」
「あ、ありがとうございます 」
一巳は不審には思いながらもせっかくの行為なので自らの住所を運転手に伝え家まで送ってもらった。
「いいのよ。今日はゆっくり休んで。」
「あんま、気にしすぎんなよ。少年!じゃあな 」
「はい!ありがとうございました 」
二人と別れ自分の部屋に戻ると、どっと疲れが押し寄せ、そのまま眠りについてしまった。
「おい、お前研究者てなんだよ。信じるか?普通… 」
「仕方ないじゃない。確かに無理はあるけどあんたのよりはまだましでしょう。それに信じる信じないは関係ないわ。あのことが表に出ることもない、話しても誰も信じないだろうからね 」
「でもよ。あいつの友人助けるとか、無理だろ絶対に。てかそんな嘘残酷すぎんじゃねえかよ 」
「何度言わすの。仕方ないでしょ。こんな事例ないんだから。元はといえばあんたが助けたからこうなったのよ? 」
「はぁ?じゃあ、あいつ見殺しにしろってのかよ!?人命最優先だろうが!あのままだと確実にヤツに気付かれて… 」
「はぁ…機密の方が最優先だけどね。それにヤツはもう気付いてるでしょう。成り代わり前で動けなかっただけで…あの時あんたが狩ってたらよかったのよ。あとは何とでもなるんだから。まぁ友人君については早急に処分して、助けられなかったってことにすればいいんだから 」
「最低だな。お前 」
「じゃあ、救ってあげたら? 」
「ッケ。嫌な女だな 」
「どうもありがとう」
【新ドッペルゲンガーはそれだけじゃないらしいよ…】
【それだけじゃないって?】
【実はね最重要機密とかで規制されてる情報らしいんだけど】
【新ドッペルゲンガーの正体って、
人類支配を行おうとした天才によって生み出された失敗作。
意思を持った人間〈本人〉を消すためだけの化け物。
今さ、何人ソレが存在しているかわからないよww
もしかしたら…】