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君がいたからーー

君がいたからーー保月瀞の場合ーー

作者: 智遊

「口を挟みまして申し訳ありません。許可頂けますか、麻人様」

「なんだ、勝手に話せって言ってるだろ」


 それではーーと前置きをして

「こちらがわの不手際ですので、お茶会にお招きしてはいかがでしょう。温室は今でしたら色とりどりの花を愛でることができます」


 私の言葉に、麻人様はそれがいい!とホッとし、相手の少女に詫びを兼ねてどうだろうと聞いていた。

 結局、友達二人をつれて招かれてくれるようで、麻人様が投げたファイルに当たった哀れな被害者は可愛く微笑んで頷いてくれた。



※※※※



 私の名前は保月瀞。

 中間試験の順位が私たちに敵わなかったからと言って試験ファイルを後ろに放り投げたバカ…じゃなくて、如月麻人様のお世話がかりーー

ではなく。

 全教科満点をとるという偉業を成し遂げ、私と共に首席を獲得した相澤恭弥様のお世話付きでございます。

 もーさすがは恭弥様。原作どおり本当に頭がよくて性格も穏やかで当然イケメン!



あ い し て る !



 失礼しました。

 改めまして、私は保月瀞。高等部進学したての15歳。

 相澤恭弥様付きで、将来は父のあとを継いで相澤家の執事ーーは、性別のせいでなれないので秘書かなにかになりたいとおもいます。

 父は相澤家の執事、母はメイド長の一人娘で生まれたときから今まで恭弥様付きをしています。

 特技は、恭弥様とご友人の如月麻人様の好みのお茶を淹れれること。お二人とも好み煩いですから。

 長所は、恭弥様のためならなんだってできること。

 短所は、稀に暴走してテンションが急激にあがることでございます。


そして


 私には大いなる野望がございまして。



 ーー恭弥様の切ない恋を成就させるーー



 もうこのお話を読んでいらっしゃる方には言うまでもございませんでしょう。

 簡単に言いますと私は転生者で、この世界は私が前世でどっぷりはまっていた漫画『君がいたから』の世界でございます。

 転生云々はまた別の機会にお話しするとして、この所謂、全寮制ボンボン校に主人公・水戸愛華が入学してから始まる如月麻人との恋愛と、クラスメートや友人たちとの友情を描いた超ヒット漫画で目玉は、当然、何様俺様麻人様と水戸愛華の恋愛とご友人たちとの関係。

 恭弥様は、そんな二人のよき理解者で、二人を助けてくれるキャラなのです。


 そんな恭弥様。少なくとも私が生きている間は彼自身の恋愛は触れられてませんでした。

えー、実は、高2の春に思いが通じあった麻人様と水戸愛華がけんかして、水戸愛華が夜に走ってどこかにいくというストーリーで結局校内で見つかるのですが、校外を探していた瀞が交通事故にあったーーところで私は死んでしまい、先が気になります。

とーっても、先が気になるところで終わっています。

 そう。それで、恭弥様の恋模様は描かれていませんでした。

 しかし!恭弥様が恋をしてなかったというわけでなく、こっそりと誰かに恋をしていたようなのです。


 一年の秋。合唱祭のために各クラスが放課後に自主練を頑張っているところ、水戸愛華は中庭で恭弥様を発見します。

 木陰で恭弥様が目を瞑って微笑んでいるところに水戸愛華が声をかけて、なにをしているのかをといかけます。


『歌を聞いてるんだ……歌声を聞いてるだけなら許される気がして』


この時点で前世の私は誰だぁぁ!ってさけびましたから!

水戸愛華の友人の莉子か、はたまた莉子のクラスの担任神部千夏か!

それとも別の誰かか!

私はそのきょ……


「……瀞?なにを考えてる?」

「いえ、微笑ましい光景に和んでおりました」

「そう、まあいいけどお茶会の手配していおいてね。麻人、その辺頭になさそうだから」


 深いところで暴走しかけていたら、恭弥様に引きずり出されてしまった。この人、私が暴走しかけていたら必ず声かけてくるのです、もしかすると顔に出てるのかもしれませんね。気をひきしめなければいけません。

 と考えたところで、これが節目でございます。

 


今日この時をもって原作どおり、『君がいたから』が始まります。



※※※※



「保月さんも座って一緒にお茶しましょうよ」


 水戸愛華……改め、水戸様が私に声をかけてきます。どうも水戸様、別卓の側に立って控えている私が気になるようで先程からこちらをちらちら見つつ声をかけてくださいます。

 その都度やんわりお断りしているのですが、気になるのでしょうね。


「保月、水戸さんが気になるようだから下がって」

「畏まりました。温室の出入口のほうに下がっておりますのでなにかございましたらベルをお鳴らしください」

「え?え?ええ?」


 恭弥様の言葉に私は一礼をしてその場から即座に離れる。

 ささっと出入口まで歩いていると「保月は使用人だからね」と恭弥様が苦笑している声がきこえた。原作通りだとしたら、聞こえないが麻人様が「俺らだけだったらあいつが一番優雅に茶を飲んで菓子食ってるじゃねぇか」と小声で呟き恭弥様に持っているノートで叩かれる。

 そのシーンは是非とも目の前で見たかったのですが、しょうがないですね。

出入口の死角にーーそしてお茶会の場所からも木が邪魔して見えないところ……当然私も見えませんがーー隠してあった折りたたみの椅子を出して、これまた隠していたお茶ポットからお茶を注ぎ、隠し持っていたスコーンで一時のお茶タイムです。

 当然、両親に知られたら烈火のごとく怒られますし、通常ならば下がったとしても気配を消して主人の動向を伺ってなければいけません。

 しかし、そんなことをしていると恭弥様より麻人様が大暴れしかねーー


「ええええ!?保月さんって女の子!?」

「なんで男子の制服着てるんですか!?」


 愛華様と遠見沙穂様の絶叫がいきなり響き渡ります。

そうですね、お二人は外部生ですからご存知ありませんでしたね。ベリーショートの髪と男子の制服、凹凸のない悲しい身体。そう見えても仕方ありません。

もう一方、櫻井莉子様は中学より当校にいらして尚且つ、現在私とクラスメートですので驚いてないようでした。

 すみません、使用人ですが恭弥様と同じ年で旦那様に気に入られているので同じ学校にいれていただけました。

しかし、この話題が出るということは、やはり原作どおり私をお茶会にいれるいれないという話でもりあがっているもでしょう。いけない、呼び戻されますね。

 私は静かに立ち上がって椅子とお茶を隠しーーお菓子はもう食べたーーすぐにベルがなった。この雑な鳴らし方は、麻人様ですね。


 早足で恭弥様の後ろに立ち、軽く礼をしたまま「お呼びでございますか」と声をかけた。


「水戸と遠見がお前も一緒にとゆずらねぇから同席しろ」


 麻人様は元々私が使用人として場をわきまえようとすると、あまりいい顔をなさらないし、簡単に思っていること口にされる。そんな麻人さまに恭弥様は止めないけれど渋い顔をなさる。

やはりここは主人の意向に沿うべきでしょうね。


「水戸様、遠見様、私は皆様のご相伴にあずかりますより、私が作ったスコーンやらマフィンを私が淹れた紅茶で召し上がっていただいて、そして笑ってくださるのをこうやって眺める方が好きなのですよ」

「瀞、お前堂々と口説くな。つか、女が女口説くな」

「ちょっと保月。スコーンとか言ってたけどスコーンないよ、今日。どこやったの」


 麻人様が苦い顔で訳のわからないことをのたまい、恭弥様が……あ、そういえばスコーンは数が少ないので私が食べたんでした。


「クラスでも皆暗黙の了解ってかんじでしたけど、なんで男装してるんですか?」

「女子の制服ないんですか?」


 櫻井さまが小首をひねって、遠見さまも乗ってきます。女子の制服……ですか。


「いえ、一応持っていますよ。本当にどうしようもないときのみ着用することにしています。例えば男女別の校外活動のときなどのためにですね。さすがに男子に混じりたいわけではありませんから」

「じゃあなんで男装してるんですか?」

「似合わねえんだよ、壊滅的に。もうそれこそ女装してる変態ですってくらいに」


 麻人様が頬杖をつきつつ横から口をだす。麻人様お行儀が悪いです。紅茶を継ぎ足しながらテーブルを回りつつ麻人様にだけ聞こえるように腰をかがめて小声でたしなめる。

 麻人様は頬杖とは逆の手で私にてを振る。気にするなと言いたいのでしょう、小さくため息をおとした。


 私の背は、恭弥様や麻人様に比べるとやや低いですが並んでも見劣りするおとはありません。おかげで女子の制服似合わないのですが。

 襟元に深い緑のラインが入った白いブラウスに膝下までのラインと同じ色のスカート。これに本当は丈の短い赤のブレザーがついているが、ほとんどの人は白いカーディガンかセーターをきている。

 もうこの時期だから薄手のカーディガンか着てないかだが、総じてこの年代の女子は寒がりで既に校舎はうっすらと冷房がついている。

 男子は着てベスト。麻人様は着ずに、恭弥様はベスト、私はカーディガンを羽織っている。寒いんです。寒いんですよー。勿論、下はラインと同じ色のパンツです。


「失礼だなぁ、和装は似合うんだけどね」


 ため息をついて恭弥様が私をフォローしてくださった。

と、同時に手を伸ばして麻人様の頬杖を手刀ではずした。勿論、麻人様の頭は支えをなくし、今手にしたばかりのティーカップもバランスを崩して大きく揺れる。


「あっ!」

「ああっ!」


 丁度ティーカップを持っていた側に座っていた水戸様に紅茶がとんでいく。さすがに恭弥様も焦って立ち上がって「瀞!冷やすものを!水戸さん大丈夫!?」と叫ぶ。

 恭弥様、焦りすぎて呼び方間違っていますよ。あとその手にあるものは台拭きです。

ですが、そんな恭弥様がとっても可愛らしくて仕方ありません。

 こんなところまで原作どおりなんですね。と思いつつ恭弥様から台拭きを取り上げ、濡れたタオルで水戸様に……



 というところであることに気づきました。

あれ?このまま行くと私、来年事故したりします?



 もしかして死にます?



嫌だー!まだ恭弥様のお相手が誰かわかってないですし!恭弥様の恋を実らせるのですー!


 保月瀞。今日も恭弥様のために奮闘します。





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