碧の石は高価、紙も高価です。
お願い致します。
トコトコ、と歩いて行った。そう言えば何で歩幅が違うのに転ばないんだろ? 最初から転ばすに走れたよね。
今更なことを考えながら歩いた。
居間に入ると、
「おう。お帰り」
入った時、こちらに気付いたエドさんが笑顔で話しかけてきた。
「ただいま」
笑顔で返事をした。
その時、ぼふん、と後ろから衝撃を受けた。
「お帰りなさい」
シルフィに後ろから抱きつかれた。
「ただいま」
もはや抵抗はすまい。意味がないからな。
「お嬢様。お帰りなさいませ。丁度朝御飯を作っております。少々おまちくださいませ」
ティナがいつの間にかメイド服を着ていた。
そのメイド服は何処から仕入れた。いや、もとからメイド服だったっけ? 少なからず服のデザインが変わってるな。てか、精霊って服を着替えることができるのか?
「主。霊布を精霊が服に仕立てれば、精霊が着ることの出来るんだよ」
「なるほど。……スフィ? 僕、声出てた?」
まさかの読心術!?
「不思議そうな顔をしてたからね」
表情でしたか。
「そうか。……ん? 霊布なんてあったの?」
「風を編んだ霊布を貰ったんだよ」
「そうなのかぁ。……ん? 風って編めるの!」
普通に驚いてしまった。
もとい、誰に貰ったんだ。編める人にかな。顔が広いな。
「うん。出来るんだなこれが」
「出来るのか。凄い人もいたものだ」
感心して何度も頷いた。
そのタイミングで、ティナから「ご飯ができた」と言われた。
ティナとメイドさんが料理を運んできて、みんなで食べ始めた。
みんなでご飯を食べていると、エドさんが思い出したかのように話しをふってきた。
「ニズ嬢ちゃん。今日から精霊祭なんだが、“サフィラス”は用意したか?」
エドさんは唐突に聞いてきた。
「サフィラス?」
首を傾げながら、聞き返した。
「ああ、そうか。サフィラスって言うのは青い石のことだ。精霊祭では青い石を持って参加することで、その石に幸運が宿るとされているんだ。実際、石に神霊の加護が宿ったことも有ったそうだからな」
エドさんが説明してくれた。
「青い石ですか。青い石ならどんな石でも良いのですか?」
「青い石なら良いと言われているな。ちなみに青い石は実際には緑の石なんだけどな」
「え!?」
「昔は緑のことを青って言っていたからな。今は勘違いしてる人も多いがな」
嘆かわしいとばかりに言った。
「なら緑の石を持ってればいいのですね。え~と、あったかな?」
探してみると、緑の石はなかった。
「主。はい」
スフィが緑色(いや、翠かな)の石を持っていた。
「こんなこともあろうかと、用意しておいたよ」
「いいの?」
「うん」
スフィはそう言って手を出してきた。
「ありがとう」
僕はお礼を言いながら、手を前に出して受け取った。
何の石なんだろう?
じ~、っと見て観察。うん。分からん。石に詳しいわけじゃないからね。
諦めてエドさんに確認を取った。
「この緑の石で問題ないですよね?」
「あ、ああ。問題ない。……なあ、その石って……」
エドさんは驚いたような表情をしていた。
うん?
「この石は、“風翠碧”だよ」
何でもないようにスフィは軽く言った。
「風翠碧だと!? そんな色ではなかったはずだが」
エドさん、驚きっぱなしだね。
「それは不純物が入ってるからだよ。純粋な風翠碧だから綺麗な色なんだよ」
スフィ、物知りだな。それとも精霊には常識なのかな?
「そうなのか。………その風翠碧は何処で手に入れたんだ?」
「秘密だよ。主になら教えてもいいけどね。主、知りたい?」
こちらをチラリと見たあと、じっと見てきた。
「いや、一つでいいから知らんでいいよ」
「まだ、あるよ」
一つでいいと言ったら、スフィは更に風翠碧を出した。
あるのか!
「そ、そうなの? ま、まあ、持っててよ」
「うん。わかった」
スフィは風翠碧を何処かにしまった。
「なんか、ニズ嬢ちゃんといると、常識が壊れていくな」
エドさんは苦笑していた。
「壊すようなことをした記憶は無いのですが」
「まあ、本人に自覚は無いものさ」
ため息をはきそうな雰囲気で、遠くを見た。
「ま、まあ、とりあえずこれで良いですよね」
「まあ、な。 ん? シルフィ何してるんだ?」
エドさんは気付いたように言った。
僕も後ろを振り向いた。スケッチブックに何かを書いていた。
「設計図を描いています」
設計図?
「設計図って何のだ?」
エドさんがシルフィに聞いていた。
「杖です」
「「つえ?」」
「はい! 前にお祖父様が護身用に何か持った方がいいと」
ニコニコ笑いながら楽しそうに言った。
「エドさん。言ったんですか?」
「う~ん、……あ、言ったな」
遠くを見たと思ったら、どうやら言ったことを思い出したようだ。
「はい。だから設計図を描いてます」
「そうか。どんな感じだ?」
僕とエドさんは見せてもらった。
……う、うん。これは凄いな。主に材料が、ね?
詳しくは分からないが、名前の字面で凄そうと思う。
「エドさん。この素材ってあります?」
「………難しいだろうな。特に風属性の魔宝石は何とかなるが、“風皇鷲の尾羽”と“風聖樹の枝”が無理だな」
「その素材はーー」
チラリとスフィを見た。
「“風聖樹の枝”はあるけど、“風皇鷲の尾羽”は捕ってこないとないね」
「ーーらしいです」
そして、エドさんに視線を戻した。
「そ、そうか。“風聖樹の枝”も簡単に手に入る物じゃないのだがな。それに“風皇鷲の尾羽”は伝承に出てくるような物だ。それに風皇鷲はそう簡単に見つかるものじゃないだろう」
「そうなの?」
エドさんが力説するので、スフィに聞いてみた。
「うん。確かに大変かも。……あ、それって“不死鳥の風切羽”で代用できないかな?」
そんな素材があるのか!? いつの間に集めたんだ?
「“不死鳥の風切羽”だと! どうやって手に入れたんだ!?」
エドさんは驚いて声を大きくした。
「いつの間にか持ってたから分からないよ」
「 な! 」
声を失っていた。と、思いきや、何かを小声で呟いている。
しかし、いつの間にか、か。
まあ、アムルゼスが何かは分からないが。風切羽ってことは鳥の仲間なんだろうな。
「それで代用できるのかな?」
「大分すれば、どちらも王鳥なので大丈夫じゃないかな?」
「代用は可能だ! いや、代用というか、代用と言う言葉に違和感を覚えるぞ」
エドさんは早々に復帰した。
呟いているエドさんは少し怖かったな。
「なら、素材は何とかなりますね」
「だな」
なんかエドさん、開き直ってないか。遠い目をしている。
「ハイ、コレ」
スフィは素材を持ってきていた。
持ってたの? どこにしまってた?
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑いながらエドさんはスフィから受け取った。
さてと、それじゃ、
「シルフィ。これで作ろうか?」
「はい!」
「エドさん。伝はありますか?」
多分、僕は杖は作れないな。作ったことないし、スキルないし。
「大丈夫だ。私の知り合いにいる。エルフで、素晴らしい腕の職人だ」
「エルフですか」
「そうだ。国宝も手掛けた人だ。これほどの素材なら喜んで作ってくれるだろう」
「なら、問題ないですね。それじゃ他のスケッチを片付けますか」
「そうだな」
失敗作か試作品は分からないが、画用紙が散らかっていた。
特にシルフィの周りに。
「しかし、画用紙は高価だから、捨てるのは勿体無いな」
「ごめんなさい。どうしても納得できなくて」
ふむ。画用紙は高価なのか。
「大丈夫だよ」
そこでスフィが画用紙を拾って、こちらに渡してきた。
? なんだろ。
僕は受け取りながら、首を傾げた。
「ただの画用紙じゃないから、生活魔法“ウォッシュ”を使えば綺麗になってまだ使えるよ」
「それは……もしや、伽藍紙か!?」
エドさんは驚いた様に声を大きくした。
がらんし? どんな漢字だろ。
「似てるけど、違うもの。解浄紙って言って、伽藍紙よりも安価な紙ですよ」
かいじょうし?
スフィは人差し指を立てながら説明を続けた。
「伽藍紙は半永久的に再利用可能だけれど、解浄紙は10回くらいしか使えないからね」
よく分からないが、10回再利用出来るだけでも凄くない?
スフィは落ちている画用紙を拾い、更に説明は続く。
「ちなみにこの紙だけは解浄紙じゃなくて、悠久紙だね」
ゆうきゅうし? また分からない単語が………。
「なに!? 悠久紙だと! 何故ここに!」
エドさんは紙を凝視して驚いている。
ちなみに使った本人はよくわかっていない様だ。
「そうです。悠久紙です。しかし、これは特性上再利用できないですね」
「そうだな。しかし、なんで混ざってたんだ?」
エドさんは残念そうに紙を見た。
「それは分からないよ」
スフィは首を傾げた。
僕は何となく、ちらり、と横にいるメイドさんを見てみた。
ふと目が合い、気まずそうに逸らして俯いた。
う~む。これはあれかな? まあ、この話はここら辺で止めるか。僕は殆ど理解出来てないし。
「二人とも、とりあえず片付けようか。ゆうきゅうしとやらは……うん、紙質は良いみたいだから、いっそハリセンにでもしよう。ほら、片付けよう」
スフィとエドさんは「まあ、そうだな」と片付け始め、シルフィとメイドさんは「はい」と片付け始めた。ちなみに生活魔法はこちらの住人なら誰でも使えるので、特に問題なし。
その時、メイドさんにお礼と謝罪をされた。
やっぱりですか。まあ、許しましたが。価値は分からないし、メイドさんも悪気があった訳じゃないしな。
片付けが終わると、僕はゆうきゅうしを手に取った。
さて、まずは確認からかな。
[ 悠久紙(使用済) ]
悠久に記録する紙。劣化や破損などに極めて強く、1度書き記したものが失われることはない。別名“最強の紙”
なるほど、こう言う漢字か。最強なのか。
って、ことで、マジでハリセンを作ってみた。
シルフィ曰く失敗作だからいらないらしいし、勿体無いので使いました。
ハリセン[ウェンペリペル]
よい音がなるハリセン。攻撃力はほとんどないが、精神ダメージを与える。ネタ武器の定番の品。作った人にしか使えないが、使うのに特にスキルは必要ない。使いこなすにはある意味でスキルが必要。
効果:Agi+10 ダメージ固定(最大HPの0.1%) 行動制限解除(セーフティエリアでも使用可能)
スキル:[耐火][耐水][耐刃]
アーツ:〈クラクションアタック〉〈MPアタック〉
どっからみてもハリセンだな。てか、ハリセンはハリセンと言う区分なのか。それに、使うのにスキルが必要なし。
………ある意味でスキルが必要。ってなんだろか?
ハリセンを眺めていると、エドさんに話しかけられた。
「ニズ嬢ちゃん。それはなんだ?」
シルフィも興味深そうにハリセンを見つめていた。
あれ? ハリセンってこの世界に無いのか?
「画用紙の様な厚い上質な紙は高価だから、それが何か分からないが、そんな風に使うことはないな」
「はい。そうです。特に悠久紙は名のある人でも滅多に使うことのないものです」
僕が不思議そうにしていると、エドさんとシルフィが理由を説明してくれた。
顔に出てたかな。まあ、この世界での感情は我慢しにくいからしょうがないな。
「そうなんですか。捨てるよりは良いと思ったのですが」
残念そうな顔をした。
「まあ、確かに捨てるよりは良いな。それでそれは何なのだ?」
エドさんは僕の顔を見て、少し慌てていた。
さてと、これはなんと説明すれば。……こちらの世界にも劇団はあると思うから、そこから説明すれば良いのかな?
と、言うことで説明した。どうやらサーカスや演劇といった娯楽は普通にあるらしいので、そこで使われるような道具と、簡単な実演付きで説明した。
説明したところ、こちらの世界にも似たようなものがあった。こちらの名前は《フェイクソード》と言う、切っても切れずに音がなる競技や芸に使われるものらしい。
世界が変わっても、人は変わらないってことだね。
ありがとうございます。




