ホームと建造神と家精霊と…………。
お願いします。
結果から言うと、滞りなく契約は完了した。
ロイスさんは僕に何度もお礼を言っていた。なんでも、この契約をできたのは、創業以来のことらしく、世界で一番高い契約だったとのこと(次に高いのは1兆6000億Dらしい)。契約のことは、世界中の不動産屋に情報が自動で流れるので、ロイス・バーミングの名前は不動産業界で、トップになったと、凄い笑顔で言っていた。
ちなみに僕の名前も不動産業界に流れたらしく。不動産業界からは女神と拝められることになるのだが、これは少し先の話。
ロイスさん一家に見送られながら、不動産屋を後にして、建築地に向かった。
ちなみに、僕の友人が買う際に、僕の紹介状を持たせてくれたら、その友人に特典で家具や設備はサービスするとのこと。
(精霊が建てるのは、基本的には家のみなので、家具や設備は別途購入らしい)
紹介状は偽造防止のために、ロイスさんから貰った特殊な紙に書くことになっている。なんでも僕の魔力が染み込んでいて、僕以外は文字を書けない紙らしい。
ナツキさんやトーカさんに紹介状を渡そうかな。
「さて、ここか。なんか凄いところだな」
高級住宅地ではないが、少し特殊な空間が広がっていた。ちなみに、ロイスさんがここまで案内してくれなかったのは、精霊が建てる場合は付いていってはいけないからだそうだ。昔からの教えらしい。
『来たか』
ん? この声は? どこからだ?
キョロキョロしていると、また声が聞こえた。
『誰が契約したかと思えば、幼子であったか。しかし、その波動は?』
波動ってなんだろう? とりあえずは精霊かな? もしくは建造神オプスかな?
『どれ? …………なにぃ! 我よりも神格が上! 无極神だと! 高位の神か!?』
「まあ、そうなんですかね」
『まさか契約者が“同士”とはな。何故顕現できている。…………いや。我よりも遥かに高位の神格を持っているから、顕現するのも容易いか』
「そんなところです。冒険しようと思いましてね」
『そうか。いや、大きな力を持つものが考えることは、難解でわからないな。申し遅れた。我の名はオプス。建築・建造・造物の神だ。同じ神の1柱だ、オプスと気軽に呼ぶがいい』
楽しい雰囲気を醸し出してそう言った。
「初めまして。僕の名前はニズです。一応、全にして無の神です」
『全にして無の神。万物にして虚空の神か。そうか、貴方様が………。はははは。宜しくなニズ殿』
笑いながら、オプスは言った。
『まずは、契約の家を建てるか。まさか同士の家を現界に建てるとは思わなかったがな。どのような、家が良い?』
「落ち着いた家でお願いします。派手派手でなければ良いです」
『請け賜った。後からの調整や改築も可能だからな。それでは、ゆくぞ』
そう言って、目の前に長身の引き締まった男性が現れて、手を合わせた。
「ハッ」
手を開くと同時に掛け声の様なものを発した。
その瞬間には、家が建っていた。
「早いですね」
「私は、建造に特化した神だからな。建造に関してはどの神にも負けるつもりないな」
ご本人(神?)様でしたか。しかし、さすが神様。
「凄いですね」
「だろう? さすが、私」
ん?
「一人称が、変わってないか?」
変わってるよね? 最初は我だったよね? 口調も違うような気が。
「ん? ああ。あれは神様としての、こう、威厳を出すための口調かな」
なるほど。確かに。今の口調は、なんかフレンドリーだものね。
「それに、神同士なのに、わざわざ威厳を出す必要性も感じないし」
オプスは恥ずかしげに、頬をかいた。
「ありがとうございます」
色んな意味を込めて、感謝の言葉を。
「いえいえ。それでは、これで完成です。契約書の備考に書いた様に、“すべての町から出入り自由”“カスタム自由”“空中島付き”“その他特典多数有り”だ。特典は中に入ればわかるから、大事に使ってくれな。」
サムズアップして、そう言った。
なんか男前だな。さすが、建造神。なんだかんだで、ガテン系だな。
「わかりました。大事に使います」
「おう!」
そう言って、いい笑顔で、帰っていった。
さて、中に入るから。
僕はドアノブを掴み、ふと思った。
入るときは、“ただいま”か“お邪魔します”か。…………自分の家だから、“ただいま”だな。よし。
「ただいま」
ガチャリ、と音を響かせながら中に入り、そう言った。
中は、シンプルだった。そして、少し不思議な感じでした。
おっ? ここは土足でOKで、奥の方から土足厳禁か。
扉がいくつかあるな。この扉はなんだろう? 作業場、って、書いてあるな。
開けて入ると、さらに多くの扉がある部屋だった。
え~と。何か書いてあるな。“鍛治場”、“装飾・防具作製場”、“彫金”、“調薬”、“調金”、“調木”、“調理”だな。
文字どおり、作業場の部屋だった。
作業場部屋を出て、次の扉へ。
この扉は、“小道”?
中に入ってみたら…………。なんか、小型の“道”がある。はて? まさか!?
〔 “小道”を繋ぐ場所を選択してください〕
≪ファスト≫
≪ソラルル≫
≪エレスト≫
≪ノエアイナ≫
≪枢要罪の地≫
うん。これは確かに、すべての町から出入り自由だな。
便利だな。
部屋から出て、次の部屋へ。
え~と。次は、“天空への道”?
扉の中に入る。床一面に魔方陣があった。
〔“空中島”へ転移しますか?〕
こう言うことですか。今は行かなくていいな。
転移せずに部屋を出た。
さて、次の扉は、“フリールーム”か。
扉を開けて、中に入った。何も置いてなかった。
うん。確かにフリーなルームだ。自由な部屋だ。あっ! これは、あれを使うのに良くない? …………良いな! あとで、使おう。
部屋から出た。あとは、奥の土足厳禁エリアに扉と、2階にあがる階段がある。
簡単に言うと、1階の土足厳禁領域には、みんなで使う感じの部屋があり、2階に個人の部屋があった。ちなみに客間も完備。
とりあえずは、一通り確認したので、エドさんに手紙を送っておこう。
地図も同封して、発送!
来るまでの時間、何してようかな。
ひとまず、リビングに行き、ソファーに座った。
ソファー。マジふわふわです。なにこれ! 弾力感はあるのに、このふわふわ感! 現実では有り得ない触感だ!
そんなことを考えていると、突然目の前に何かが現れた。
「! 何だ!」
すると、その何か(多分、精霊かな?)は、頭を下げた。
「はじめまして、私は家精霊と申します」
「シルキー?」
聞いたことがないな。個人の名前なのか? それとも、種族の名前なのか?
「主。シルキーは、家精霊です」
後ろから、いきなり声がした。危険がないから、気づかないな。
「家精霊?」
「はい。ご主人様。簡単に言うなら、座敷童子ですね。と、言っても、あちらは妖怪で幸運を運びますが、こちらは精霊で家の手伝いをしてくれます」
「そうなのか」
なるほど、座敷童子か。って、スフィはまだしも、ファノは何で知っている。もしかして、この世界にも座敷童子はいるのか?
ちなみに、ベルは、
「主殿。ここは家か。買ったのか。なかなか、いい家だ」
と、言って違うソファーで丸くなっている。
「しかし、珍しいですね」
首を傾げながら、スフィはそう言った。
「どういうこと?」
「家精霊は、本来は他の使用人に紛れて働く精霊なのですよ。人前に名のりながら姿を現すのは、なかなかないです」
「そうなのか」
そう言いながら、家精霊に視線を移した。
「あなた様に。この家に仕えたいと思い、姿を現しました」
「どうしてまた」
この子に何かしたかな? いや、初対面だな。
「この家は、他の家にはない、澄んだ力が宿っています。それに、惹かれてしまって」
少し照れた様に、そう言った。
「スフィ。どうしようか?」
「この子は、(色んな意味で)安全ですね。悪意もないし、ある種の家事や手伝いのプロだから、いいと思うよ」
主もわかっているのでは? とばかりにこちらを見た。
僕は苦笑した。
「わかった。それじゃ宜しく」
そう言って、家精霊に目を向けた。
「はい。それでは、私に名前を下さいませ」
家精霊は、そんなことを言った。
「そうすれば、一生お仕えできます」
そうなの?
スフィが横で、家精霊が契約をお願いするなんて、やるわね主! とか言っていた。そうなのか?
「名前か。う~ん。…………ティエナなんて、どうかな? 略称はティナで」
そう提案すると、家精霊は満面の笑みをうかべて、
「はい! 私の名前は、ティエナです。宜しくお願い致します。お嬢様!」
嬉しさいっぱいな、返事をくれた。
ポーン
〔[家精霊:地水火風光]と契約しました〕
「うん。宜しく」
お嬢様か、僕は男なんだが。まあ、いいか。
そんなことを考えていると、ピロリン、という音と共にアイテムボックスに、手紙が配達されました。
ちなみに、後日聞いた話しでは、手ぶらの場合、普通は手紙がいきなり目の前に現れるらしい。
どうやら、アイテムボックスは鞄と同じ扱いの様だ。
とりあえず、手紙を開けて見る。
エドさんからだな。まあ、手紙を送ってくる人は、他はシルフィくらいしかいないがね。
内容は、
〈分かった、ニズ嬢ちゃん。今すぐに向かいたいところだが、もう少しかかりそうだから、のんびりしててくれ。用事が済んだら、手紙を送るよ〉
そうか。ならどうするか。
…………そうだ! フリールームで、あれを使おう。
みんなはどうするか聞いたところ、スフィ以外は家の中を見て回りたいらしい。ベルはソファーを堪能中。
早速、僕はスフィを連れて、フリールームに行き、アイテムボックスから[知られざる島への鍵]を取りだし、使用する。ちなみに、使い方は、扉を開ける動作をパントマイムの様に行うこと。
すると、魔方陣が展開されて、床一面に広がった。そして、白い扉の様なものが現れた。
「凄いな。これで、行けるのかな」
白い扉を触りながら言った。すると、
〔扉を開き、転移しますか?〕
と、いう表示が、現れた。
よし。行くか。
ありがとうございます。




