別邸と内装と新居探しと…………。
お願いします。
【エレスト】に入ると、周りには山吹色の光が浮いていて、とても幻想的な風景であった。嵐の前、いや、祭りの前の静けさか、人通りは多くはなかった。
「精霊祭の中でも今回は特別だからな、正に嵐の前の静けさだ」
エドさんは、こちらの考えが解っているかの様に言った。
「やっぱり、そうなんですね」
「ああ。今は平日の1割ってところだな。祭り中は稼ぎ時だから、今のうちに休んで、本番で全て使い果たすって感じだな」
「凄そうですね」
「凄いぞ。今は一番静かな時だな。明後日から開門するから、一気に人が増えるぞ」
その風景を、思い出しているかの様な表情で、笑った。
「それじゃ、この幻想的な風景も、一先ずはお預けですか」
それは、残念だな。平日の夜明け頃なら、また見られそうだな。そっちの方が綺麗かも。
「そうだな。…………ん? ニズ嬢ちゃん。もしかして、この光が見えてるのか?」
「はい。見えていますが」
なんだろう? エドさんが驚いているぞ。シルフィは僕を抱き締めたまま、風景を楽しんでいるがね。…………シルフィ。耳と尻尾は弄らんといて。
「そうか。そういえば、そうだったな。この光が見えることは、妄りに話すなよ。場合によっては面倒なことになる」
「よくわかりませんが、わかりました」
「まあ、そのくらいでいい。気を張ってもしょうがないからな。………おっ。丁度着いたな」
そう言って、エドさんの視線の先を見ると、豪邸が建っていた。
「豪邸ですね」
「代々受け継いでいる別邸だ。確かに無駄に大きいが、まあ、我慢してくれ」
言葉遣いが、丁寧だったり、少し乱暴だったりするが、どっちが素なんだろうか?
「わかりました。…………って、僕、ここに泊まるんですか!?」
「他に行っても空いてないぞ」
「う~。わかりました。お世話になります」
「おう。お世話するぜ」
そう言って、豪邸内に入っていった。僕はシルフィに引きずられる様に、入っていった。
中に入ると、豪華絢爛な内装をしていた。てか、キンキラキンです。
うん。落ちつかない。
「うん。やはり、落ちつかないな」
げんなり、しながら言った。
エドさん。それは言ってはダメでしょう。
「はい。まったく落ちつけないです」
やはり、げんなり、しながら言った。
シルフィも落ちつかないって言いましたな。
やっぱりこれは、少々悪趣味なのでは?
「ニズ嬢ちゃんはどうだ?」
「まったく落ちつけないです。まさか、各部屋までこんな内装ではないですよね?」
僕は恐る恐る聞いた。
「そのまさかだ」
エドさんは苦笑いをしながら、そう言った。
「これは、俺の次男の趣味なんだ。勝手に改装してな」
笑い成分がなくなり、苦々しく言った。
これは、キツいな。そうだ!
「エドさん。宿屋はダメでも、不動産屋は開いてますかね?」
「不動産屋か。それなら開いているはずだ。祭りだからと予約するものでもないしな」
なるほど。ってか、宿屋は開いてない。ではなく、空いてない。だったか。
「わかりました。これから家を買いましょう。埃が溜まっている可能性もありますが、ここよりは遥かに落ち着けると思います」
これは名案ではないですか!?
「確かに。だが、そんな大金を持っていないぞ」
「大丈夫です。私が持っています。行きましょう」
お金は有り余ってます。
場所を聞いて、早速来ました不動産屋さん。
ちなみに、土地には力が宿っているため、不正などすると精霊の加護を失うので、悪質な不動産屋は存在できない。それに、その加護の影響で、不動産屋は1つの町に1つまでしか存在しない。
あと、エドさんとシルフィは、別件で用事があるらしく、別邸で別れました。
とりあえず、入りますか。
カランカラン、と小気味良い音を響かせて、中に入った。
「いらっしゃいませ」
入った途端に元気のよい声が、聞こえてきた。
「こんにちは」
今は15時くらいだから、こんにちは、であってるよね。
「何をお探しでしょうか?」
この男、できる。僕の容姿を見ても、対応するとは凄いな。迷子と間違われるかと思ったが。
「今日から住める家を探しているのですが、良い家はありますか?」
とりあえず、お薦めを聞いてみた。
「今日から住めるとなると、新築ですな。予算はどのくらいですか?」
「予算は気にしないでください。あと、大きくなくて良いので、良い家が欲しいです」
「予算は気にせず、大きくない。ですか」
う~ん。と、考え込んでしまった。
少し待とう。餅は餅屋と言うからな。
「ありますが、」
と、困った様な、それでいて、少し期待も含んだ様な表情で、数枚の紙を持ってきた。
「これなのですが」
僕な見せてきた。
「? これは?」
簡潔に言うなら契約書かな。
「この土地は、大きな力があります。ただ、力が強すぎて、並の精霊様ではここに耐えうる家を建てられないんです。ですから、契約書の金額も桁が違うのです。ただ、間違いなく良い家ができます」
精霊が建てる?
「精霊が建てるとは?」
「? ! もしや、異世界からいらした方ですか?」
「は、はい。そうですが」
「そうですか」
また、悩んでしまった様だ。なして?
「申し訳ないのですが、家を売ることはできません」
少し困った顔で言った。
「え!? どうしてですか?」
「異世界の方は、まだ身分を証明するものをお持ちでないでしょう? 契約の際にどうしても、それが必要になるのです。確か精霊祭が開催されてからでないと、身分証は発行されないと聞いています」
なるほど。やっぱり期間に秘密があったのか。
ん? でも、確かあれは身分を証明できるとか言ってたな。え~とたしか………あった。
「すいません。これではダメですか?」
僕はそう言って、エドさんに貰ったメダルを見せた。
「…………なっ! これはっ!」
わなわな、と震えながら、目を見開いた。
「これに魔力を流していただけませんか」
ん? 魔力? こうかな。
魔力を流すと、メダルが光り、空中に何かの紋章(家紋かな?)と僕の肖像(いつ写したのかな?)が映し出された。ホログラムみたいだな。光属性の魔法かな?
「もう結構でございます。申し訳ないのですが、お名前を伺っても?」
「はい。僕の名前はニズと申します」
そういえば、名前を名乗ってなかったな。反省。
「ニズお嬢様ですね。申し送れました。私の名前はロイス・バーミングと申します。以後、お見知りおきを」
「はい。宜しくお願い致します」
急に言葉遣いが丁寧になったような。いや、もとから丁寧か。
「ニズお嬢様。こちらの身分証がございましたら、問題ございません」
「そうですか。よかったです」
ほっとしたよ。さすがにあのキンキラキンの家は無理だよぅ。
「それで、先ほどのご質問ですが、精霊様が建てるというのは、建造神オプス様の眷属精霊様が建てるということです。普通の家は人の手で建てますが、精霊様が建てた家のほうが、強い加護が付きます。そのため、精霊様が建てた家に住むのは、一般の方々の夢になっているほどです」
「そうなのですか。ではそちらのほうが良いですね」
そういうことか。確かに精霊が建てたのなら、縁起が良さそうだな。
「はい。ちなみに精霊様が建てる場合は、1時間と掛からずに完成します」
「凄いですね」
「ええ。その分お金も掛かりますから」
お金か土地代かな?
「お金が掛かる理由は、等価の原理が働くからです」
「等価ですか?」
確か、同じ価値のモノってことだよな。
「はい。硬貨には一定の加護と一定の価値が存在します。それを等価にて差し出さなければならないのです」
「道理ですね」
「はい。ちなみに、先ほどのものは800万Dのものです。精霊様の建てるものの中では、手頃なものです。最少額でも500万Dで、最高額ですと1200兆Dです。さすがに今まで1200兆Dの契約書にサインしたものはいませんが。ちなみに最高額の1200兆Dを除くと、次は1兆2000億Dまで下がりますから、一応存在するだけですね」
小さい声で、1200兆Dはもはや国家予算を軽く超えてますから。と言っていた。
「その最高額の契約書を見せてもらえませんか?」
お金あるから買えるな。
「はい。構いませんよ。少々お待ちくださいませ」
そう言って、ロイスさんは中に入って言った。
少し待つと戻ってきた。
「お待たせしました。こちらです」
「ありがとうございます」
見た目と内容は、他の契約書とほぼ同じで、値段の桁が違う。
ただ、備考欄に、“すべての町から出入り自由”“カスタム自由”“空中島付き”“その他特典多数有り”と記載がある。
ふむ。お金の使い道もないし、買おうかな。これ。
「いかがですか? 買えるものではないですが、話しのタネにはなるでしょう」
うん。買おう。装備は十分足りてるし。ポーションは自分で作ればいいかな。
「これ買います」
「…………え? ……えええ! 本当ですか!?」
驚愕をしているようだった。
まあ、話しのタネとして出して、買うって言われたら驚くか。
「ダメでしょうか?」
「いえ。ご購入頂くのは構わないのですが、大丈夫なのですか!?」
心配そうにこちらを見る。
疑わしそうに見ないのか。なかなか凄い人だな。
「はい。今ここでサインします」
「は、はい。只今ペンを持ってまいります」
そう言って、がたがたと焦って言ってしまった。
なんか、ガタごとがたゴト、やっているのですが、焦りすぎでは?
音が止んだと思ったら、こちらに戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ。こちらのペンです」
ロイスさんは、不思議な光沢と言うか、オーラと言うか、そんなものを纏ったペンを持ってきた。
「申し訳ないです。まさか、契約する方が、私の生きている内にいらっしゃるとは、夢にも思ってもいなかったもので」
「いえ。大丈夫ですよ。それで、これはサインするだけで宜しいのですか?」
「はい。サインすると、納金が出来るようになるので、そこで納金すれば契約完了です。ちなみに契約できない場合は、サインが消えます」
「わかりました」
僕はそう言って、サインをし、全額納金した。
ありがとうございます。
誤字を修正しました。
[王銀証貨]
ストレアシルバーで作られた身分証明をするメダル。王家が発行したもので、最高位の身分証明貨。ちなみに、硬貨としては使えない。
[友への手紙]
友人に手紙を送ることができる魔法道具のひとつ。一般流通している魔法道具の中でも一般的な物。




