表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

常務桜井 誠のロマンス小説な日々?

実里に色々と誤解されて(させて?)いますが、実は常務、結構頑張って仕事してます、なハナシ。

いやまさか、彼女の言ってることを まるごと信じているわけじゃあるまいな。


実情は同族会社とはいえ、株式会社の体をとっており、しかも我が社ほどの規模であれば、単に社長のムスコであるというだけで、簡単に社長の椅子が回ってくるわけではない。


逆に社長のムスコであるからして尚更に、小うるさい親戚連中の口を黙らせ、虎視眈々と社長の椅子を狙う側近の野望を打ち砕くには、それなりの実力と実績が必要だ。


つまりだ。

俺はもの凄く忙しい。


いち営業部員として入社した当時から、質も量も他人の倍、働いてきた自負がある。

足を引っ張ろうとする奴らを足蹴にし、日々の細々とした実績を積み上げる。

派手な大物で一発勝負なんて狙わない。

案外、堅実なのだ、根は小心者だからな。


一体どこに、ロマンス小説もどきの情事が入り込む隙間があるのか、教えて欲しいくらいだ。

いや、是非そんな隙間にロマンスのひとつも欲しい、寂しい34歳独身男だ、悪いか。


まぁ、最初の出だしからして間違っていたと、よし、それは認めよう。


言い訳をさせてもらうならば、今まで周囲にいた女たちがひどすぎた。

学生時代から始まって、同僚、部下についた者、アメリカで秘書についた者。

俺が誰であるか知った途端に、社長夫人の座を狙うギラギラした野望に取り付かれるのがわかった。

野心家は嫌いじゃないが、他人任せの野心はどうかと思うね。

色仕掛けあり、策略あり、醜い女同士の争いあり、

そういったものにいちいち巻き込まれるのにうんざりしてしまったわけだ。


俺が、彼女達を勘違いさせる何かをしているのか?

あるいはつけ込ませる何か隙があるとか?

全くもって身に覚えがないね。


友人の久世が言うには

「お前、そういったありがたいフェロモンがだだもれしているんじゃないのか」

とシニカルに笑うのだが、勘弁して欲しい。


そんなわけで、入社2年目の、若い女が秘書につくと聞いたときには、

そいつを推した田村を、余計なことを!と恨んだものだ。

オトコの使える秘書を側におくつもりだったからな。

まさか、そっちにまで俺のフェロモンは影響しないだろうよ、久世。


で、のっけから

「お前、使えない奴なら、とっとと尻尾を巻いて出て行きやがれ」

な雰囲気で押してみた。


何と。


俺はやり込められてしまった。


田村よ。何故もっと詳細を述べなかった。

鷹揚に微笑んで

「いや、有能な子ですし、一年しっかり面倒を見ましたからとってもお役に立つと思いますよ」

じゃわからんだろうが・・・。


俺のことを「まるっきり対象外」として扱う女は、正直新鮮だ。

仕事は出来、言いたいこともストレートに言い放つ。

対外的には俺を立てることを忘れないが、心中「けっ」と思っていることは丸わかりだ。


面白い。

面白すぎる。


ついつい、彼女が妄想する、ロマンス小説の登場人物を装いたくなるだろう?


キリシャ人だとかロシア人だとか言っているが、

俺としてはラテンなイタリア人あたりを目指したいところだ。


仕事で遣い物にする花も、ほんの少しそれっぽいニュアンスをくわえると

途端に愉快な反応が返ってきて、俺としては実に楽しい。


「お別れのジュエリー」とか噴飯ものだが、彼女がそう考えるならば、それも良し。

おう、もちろん、用途は違うぞ、俺の母親のためのものだ。


俺のスケジュールを全て管理し、その事前準備をしている彼女は、俺と同じように忙しい。

正直、俺にそんな暇がないことに思い至らない所が不思議なのであるが、

ギスギスしがちな俺の日常を潤してくれる出来る秘書、谷口 実里。

俺のロマンス小説な日々は、お前と一緒にある。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ