六、悪者になる
翔が自分にできる事として考えたのは、耕平が真実を知らない内に麻奈と別れる事。
悪者になってでも良いから二人を別れさせようと思うのだ。
決断するまで随分時間が掛かった。耕平からすれば幸せを失うわけだし。嫌われるのは怖い。
今でも正しい事なのかは分からずにいる。
翔は麻奈と二人で良く会うようになった。勿論耕平に内緒で。
人伝いで耕平に知られるように巧妙に仕組んだ。
その間の麻奈との会話はほとんど麻奈が話している。
適当に聞いていたから、何を話していたかは覚えていない。
どうせ本当の気持ちのない言葉だろうから聞いても意味はない。
段々に耕平とは険悪になっていった。それは思っていたより辛かった。
遂に七回目、耕平が本気で怒った。
怒りの矛先は翔だけに向いた。
「いい加減にしろよ。お前何なんだよ。マジ見損なったわ」
「・・・」
言い返せなかった。それより自分がとんだ計算違いをしていた事に気付いた。
麻奈は状況を読みうまく怒りから逃れ、翔が耕平の彼女にちょっかいを出したという事になってしまったのだ。
「もうマジ顔も見たくないから。じゃあな・・・元木」
耕平と麻奈は別れる事はなく、耕平は翔と友達をやめた。
(最悪・・・俺何してんだろ)
後悔した。自分のしたことを。本当に悪者になってしまった。
帰りの駅のホーム、翔は最悪の気分で電車を待っていた。
耕平に絶交を告げられた後、教室でボーっとしていたら遅くなってしまった。
周りには同じ制服の姿は見えない。いない方が良いのだが。
フと改札の方を見ると、一番会いたくない奴が入ってくるのが見えた。
翔の元へ近づいてきた。
「あんたバスなんじゃないの?」
「いいじゃない。電車からでも帰れるのよ」
麻奈は翔の横に並んだ。
「耕平は?一緒に帰るんじゃないの?」
「今日は一人で帰りたいって言ったの」
「じゃあ俺の傍来ないでよ」
「元木君って馬鹿だよね。別れさせたいなら本当の私の事を言えばいいじゃない」
確かに自分の事は馬鹿だと思う。
「それ言ったら耕平傷つくでしょ?まぁ自分しか愛せない人には分かんない?」
「でも元木君が耕平君から私を奪っても傷つくんじゃない?」
「耕平があんたの事嫌いになれば良いと思ったよ。うまくいかなかったけど」
「そうね」
電車が来た。始発だから空いている。翔と麻奈は一人分空けて座った。
「元木君、まだ耕平君の事好き?」
「好きだよ。友達としてね」
「耕平君の事を思ってやって、それで酷い事言われたのに?」
「そうだよ。俺が嫌いなのはあんた」
「いいわよ別に。私は私がいれば良いもの」
そのままお互い何も話さなくなった。
翔は少し言い過ぎた気もしたが、謝らなかった。
次の駅で麻奈は降りた。もっと遠いと思っていたから少し意外だった。
「じゃあね、元木君」
「・・・バイバイ」
電車の窓から見た麻奈が泣きそうな表情をしていたのは気のせいではないと思う。
だけど、翔は見なかった事にした。




