五、小黒 麻奈
翔は最近女の子と付き合わない。
理由は耕平に言ったとおり、もっと重要な問題ができたから。
翔は自室のベッドに寝転がった。
目を閉じて思い出すのは、麻奈に振られたあの日の事。
耕平と別れた後、麻奈の教室へ行った。
麻奈は数人の女友達に囲まれていた。楽しそうに笑っていたけど、何だか違和感を感じた。
しばらく見ていたら一人の女子が気付いて手を振ってきた。別に親しくもない奴。
愛想の良い笑顔で適当に振り返した。そして麻奈の元へ近づく。
「小黒 麻奈さん。ちょっと話があるんだけど来てくれる?」
自分からすれば此処でも良かったのだが、麻奈の事を考えて中庭にでも行こうと思った。
麻奈は嫌がるかと思ったらすんなり来てくれた。
中庭で麻奈はベンチに座り、翔は距離をあけて近くの石段に腰掛けた。
「それで、話って何?告白なら断ったはずだけど」
「うん。別にも一回口説こうってわけじゃないから、安心して」
「そしたらまた振るだけだけどね」
笑顔で嫌味を言ってみたら、言い返されてしまった。何か告白した時と雰囲気が違う。
それでも翔は笑顔を崩す事なく喋る。
「俺さ、振られたの初めてなんだよね」
「らしいね。どうして振られなかったのか不思議だな」
「ははっ、俺の魅力が分からないなんて可哀想な子だね」
麻奈の態度は明らかに今までと違う。
「小黒ってそんな人だったけ?友達の前と性格違うね」
「当たり前じゃない。猫かぶってるんだから」
「俺にそんな事言っちゃって良いの?皆にバラすかもよ」
本当にバラす気はない。麻奈の事なんてどうでも良かったから。
少し麻奈を試してみたくて言ってみた。
「バラさないわよ。元木君は」
「あ、そ。つまんないの」
麻奈は馬鹿にしたように翔を見た。
からかいがいのない相手だということが分かった翔はそれ以上は言わない。
「まぁいいや。俺を振った理由、教えて」
「あなたが嫌いだから」
「わぁ、キツイなぁ。それだけ?」
「後は、好きな人がいるから」
「へぇ」
普通は好きな人の話って皆食い付くんだろうけど、どうでも良かった。
「教えてあげようか?」
「教えたいならどうぞ」
もう行こうと思って石段から腰を上げていた。
聞くだけなら良いかと思って麻奈を見ると、今まで見たことない程の笑顔をしていた。
「小黒 麻奈。私自身」
「・・・フザケてんの?」
何の冗談だ、面白くも無い。そう思った。
だけど麻奈は本気だった。
「本気よ。私は私が好きなの。私は両想いよ」
真剣な口調と目。翔は寒気が走るのを感じた。
「自分を愛してるの。自分以外誰も愛せない」
「・・・変な子だね」
「変?そうかな?」
麻奈はベンチから立ち上がった。
「話は終わり。じゃあね、翔君」
「名前で呼ばないで」
麻奈は残念だなと笑った。それが本当の笑いかどうかは分からなかった。
立ち去ろうとする麻奈に思った事を言ってみる。
「ちょっと良い?自分しか愛せないんだよね。じゃあ何で友達と一緒にいんの?」
「孤独な自分より、人気者の自分が好きだから。自分のステータスのため、かな」
「なるほどね。じゃあ俺を振った事でステータス上がったんじゃない?」
「自意識過剰よ。まあ否定はしないけど」
今思い出しても嫌な気分になる。
耕平と麻奈が付き合うのはどうにかして防ぎたかったが、できなかった。
麻奈は耕平の事を好きなわけではない。
もしそれを耕平が知ったらどう思うんだろう。きっと傷つく。
耕平は自分におとって大切な友達だから、そんなの見てられない。
自分にできる事は何だろう。
翔はかけ布団を頭まで伸ばした。
自分にはしたい事が他にあるけど、今はこれが一番重要な事。




