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二、一目惚れ

翔に振られた理由が何だったのか聞いてみたが、教えてくれなかった。

正確には分からなかったらしい。翔の事だから聞き出せなかったという事はないと思う。

特別に振った理由はなかったという事なのだろうか。

でも翔ほど格好良い(認めたくないけど)男子に告白されて理由もなく振る女子なんているのだろうか。

憶測だけでは分からない事だった。


(気になるけど、執拗に調べて良い事でもねぇよな)


一日中この事を考えていたら、何だか早く終わってしまった。

耕平はバスに乗り込む。

耕平の学校でこのバスを利用する生徒は学年で五人くらいしかいないのだが、一般客で車内は混雑していた。何とか手前の二人掛けの席に座れた。まだ隣は誰もいない。


(何とか座れた。乗ってる時間長いからなぁ)


妙な達成感を覚えながら、肩に掛けていた鞄を下に置いた。


「あ、すいません」


声に顔を上げると、同じ学校の制服を着た女の子が困った顔で見ていた。

隣に座りたいようだが彼女の鞄も大きいため、耕平の鞄が邪魔らしい。


「あ、悪ぃ悪ぃ!今どけるから」


慌てて鞄を横ではなくて縦向きに置きなおす。


「ふふっ、ありがとう」


慌てる耕平を面白そうに笑う。単純に可愛いなあと思ってしまった。

女の子は少し遠慮がちに腰かけた。そして鞄を下ろす。


「あっ」


鞄に書いてある名前を見て耕平は声を上げた。

”小黒 麻奈”って書いてあったから。

当然麻奈は何の事だか分からないだろうから、怪訝に思うだろう。案の定こっちを見ている。

しまったと思うが、もう遅い。耕平はこのまま黙れる程太い神経の持ち主ではなかった。


「ごめん。友達から小黒さんの話聞いた事あって」


できるだけ愛想の良い笑顔を作った。心の中で引きつっていない事を願う。

麻奈の表情は怪訝なままだ。仕方ないので翔の事も話す事にした。

今の状況を麻奈の立場で考えたら不気味だろうから。


「元木翔って、昨日迷惑かけただろ?俺アイツの友達。翔って滅多に振られないから、小黒さんの事印象に残っちゃって」


ようやく納得してくれたようで、麻奈の表情から警戒の色が消えた。

耕平は安心してホッと息をついた。何だか麻奈に嫌われたくなかった。


「驚いたよな、ごめんな」


「ううん。そっか、元木君の友達だったんだ。あ、じゃあ私って印象悪いかな?」


「そんな事ねぇよ!たまに振られた方があいつの為にもなるし、うん。むしろ感謝してるくらいだから!」


声が車内に響いた。


「そっか、良かった」


麻奈は安心したように微笑んだ。やっぱり可愛い。


「元木君、昨日初めて喋ったの。好きって言ってもらえるのは嬉しいけど、付き合えなかったわ」


「それが翔を振った理由なのか?」


「ん、そうかな。それに付き合うんだったら自分の好きな人がいいな」


「うん、そうだよな。良く女子は翔の顔とかカリスマ性だけで付き合っちまうけどよ」


「確かに元木君人気あるものね」


「ナルシだけどな」


「あはは、そうかも」


麻奈が笑うので耕平も楽しくなって笑ってしまった。

それから教師の噂話や、テレビの話で盛り上がり、すっかり打ち解けた。

女子とこんなに自然体で話すのは初めてで、自分でも不思議に感じた。

彼女と話して分かったのだが、耕平の家と麻奈の家は割りと近くにあるらしい。

耕平の家は終点の一つ前で、麻奈の家は終点の近く。歩いて三十分くらいの距離だ。


「今まで会った事なかったのが、すごいよな」


「そうだね。あっ、耕平君ここ降りる所じゃない?」


「わっ、本当だ。すいませーん、もう一人降りまーす!じゃあな小黒」


「ん、バイバイ。また学校でね」


一回閉じたドアを開けてくれた運転手さんにお礼を言いながら慌ててバスを降りた。

振り返ると、麻奈が中から手を振っているのが見えた。

慌てて振り返すがバスが出発したので見えていたか分からない。

家に帰るまで、今日の麻奈との会話を思い出していた。


(・・・何か、好きかもしんねぇ)


自分の気持ちに素直な耕平がこの想いを確信すのに時間は掛からなかった。



















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