番外編、出会う日のために
しょうと麻奈が公園で出会った時の話。
麻奈は自分の家が好きじゃなかった。
お父さんもお母さんも、麻奈のことを好きじゃないから。
同じ幼稚園の子が普通に感じているような「愛されている」っていう感覚が
どんなものなのか分からなかった。
きっと妹が普段感じているような感覚なんだろうと思う。
麻奈は自分の部屋で一人で鏡を見ていた。
長いまつ毛。漆黒の大きな目。綺麗な二重。すっとした鼻。
笑うと小さな弧を描く唇。白い、ふくらんだ頬。
(・・・何が駄目なんだろう)
ちょっと前までは自分の顔も嫌いで仕方なかったけど。
今は鏡を見ていると気が紛れるから好きだ。
「麻奈ー。お夕飯食べに行くんだから、部屋から出てらっしゃい」
お母さんの呼ぶ声がした。
「はーい」
リビングに下りると、よそ行きの格好をした妹が
母親に髪をおしゃれに結ってもらっているところだった。
「麻奈も外用の服に着替えなさい」
「ん、分かった」
お母さんはそれだけ言うと、妹の髪に視線を戻してしまった。
妹はたまに痛がったりしながら、幸せそうに笑っていた。
(・・・麻奈の方が髪長いから、色んな髪型出来るのにな)
麻奈はわざといつもの服に着替えた。
「麻奈、お前は相変らず外用の服を着ないな」
お父さんが苦笑した。
***
外にお出かけするのは、家にいるよりは好きだ。
「ねえ見て。あの子可愛いー」
「目大きいー」
周りの視線は、おしゃれな髪型をした妹じゃなくて
普段着の麻奈の方にいつもそそがれる。
妹だって普通に可愛いが、麻奈は飛びぬけていた。
まだ六歳の子供なのに、将来は美人になるというのが分かる。
パーツがそれほど整っていた。
妹はまだ小さいから良く分かっていないのか、気にした様子はない。
「あの子可愛いねー」
「まつ毛すごーい」
(やっぱり、私って可愛いんだ)
でも、お母さんやお父さんには、私より妹が可愛く見えるらしい。
でもきっと、見た目だけなら二人とも麻奈の方を可愛いと思っていると思う
昔、夜中に二人が話しているのを聞いてしまった。
「麻奈は私達の子じゃない。枝里子と比べて、どうしても贔屓してしまう」
「しかし、産まない方がお前の身体に負担がかかったんだ」
「でも、麻奈自体に罪は無いの。私が駄目なの」
「泣くなよ。お前のせいじゃない。親戚の誰かに、預かってもらえないか、聞いてみよう」
よく分からなかったけど、とても悲しかった。
やっぱり愛されてないんだと思った。
知らない人に「可愛い」と言われたって、意味はないと思っていたけれど。
少なくとも、自分の顔は好きになれた。
幼稚園のない日は、鏡を見て、時間を潰せるようになった。
麻奈は外出した時に、「可愛い」といわれる度に
もっと自分の顔が好きになれる気がしていた。
「枝里子ったら、またこんなもの拾って」
「なんだこれ。ビービーダンか。懐かしいなあ」
お父さんとお母さんは、妹に夢中だ。
***
春休みになった。4月になったら幼稚園ではなく小学校に行くのだ。
麻奈はなるべく家から出て過ごすようにしていた。
友達と遊びたかったけど、親に言わないと
友達の家がどこか分からなかったので遊べなかった。
公園に行って、その時いた人が仲間に入れてくれれば
その人達と遊んだ。
でも一人になってしまう日もたまにあった。
いつもの公園でさっきなったばっかりの友達と遊んでいた。
夕日が出ると、その友達の親が迎えに来てしまって、帰ってしまった。
「まなちゃん、ばいばーい!」
「ばいばい、あずさちゃん」
あずさちゃんとそのお母さんは手を繋ぎながら、角を曲がって見えなくなってしまった。
さっきまですごく楽しく遊んでいても、皆、麻奈より親の方が好きなのだ。
仕方のないことだけど、少し寂しかった。
(まだ帰りたくないな。・・・はげ公園に行ってみよう)
はげ公園には、はげた小さな山とブランコしかしない。
ブランコも2つしかないので、あまり人気のない公園だった。
(誰もいないんだろーな)
公園に着くと、予想が外れて、男の子が一人。
ブランコの上で泣いていた。
「びぃいん。ひっく・・・ぶぅううん」
”元木 しょう”と書いてある名札を服につけていた。
(しょう君かあ)
男の子なのに、人目を気にせず泣いている。
麻奈はあまり泣いたことが無い。
「どうしたの?男のなんだから、泣かないの」
「ひっく・・・。なんで男が泣いたらいけないんだ」
男の子の顔はびっくりする程綺麗だった。
泣き顔なのに綺麗だった。
鼻水が出てきそうなのを見て、麻奈は慌ててティッシュを渡した。
「鼻水出ちゃうよ。どうしたの?けんか?」
「けんかだったら負けねーよ。俺、強いもん」
「ふーん。じゃあどうしたの」
「迷子なんだよ!」
「え、迷子なの」
麻奈はポカーンとしてしまった。
こんな綺麗な少年が迷子で泣いているというが、何となくおかしかった。
自分にとっては住み慣れた街。
こんな簡単な場所をどう迷えるんだとうと思ってしまった。
「交番、近くにあるよ。そこに行ってみよう?そうしたらお母さんもくるよ」
「・・・ほんとかよ」
「ん、行こ」
「・・・ありがとう」
しょうは泣き止んで、麻奈と一緒に歩き出した。
横に並ぶと、しょうは結構背が大きかった。
「お前、いいやつだな」
「別に。しょう君こそ、綺麗な顔だね」
「男が顔綺麗だって、意味ねーよ。男は強くなきゃいけないんだ」
(さっきまで迷子で泣いてたのにね)
麻奈はへへへっと笑った。
しょうもニカっと笑った。
「もし、お前に何かあったら、今度は俺が助けてやるから」
「ほんとに?」
「おう」
「・・・私さ、顔は可愛いよね?」
「は?普通じゃね?」
(ガーン!)
「・・・でも、皆は可愛いっていうの」
「そうなの?ふーん。顔は普通だけど、優しいから、俺はお前のこと好き」
しょうはニカって笑った。
麻奈の中に温かいものが流れてくる気がした。
「でもね。お母さんとお父さんは、私のこと嫌いなんだ」
「・・・そうなのか」
「・・・うん。あ、交番着いたよ」
角を曲がると交番があった。
空を見ると夕日も沈んで、青くなっていった。
「私、家に帰るね」
「おう。ありがとな」
「ううん。ばいばい」
「またな」
そう言って片手を挙げてしょうは笑った。
しょうの笑顔は綺麗だった。
(また、会えたらいいな)
小さなときめきを抱えて、麻奈は家まで走った。
読んでいただきありがとうございました。
「LOVE MYSELF」は3年前に書いた話です。
あの時は、安易に書きましたが
麻奈が屈折した性格になったのは、それなりの理由があったはずだと思い、
翔に惚れた理由も曖昧だったので、番外編という形で書きました。
思い入れのある作品なので書けて楽しかったです。
もし、3年前に読んで、また今読んで下さる方がいたら(いないと思いますが・笑)
すごく幸せです。
翔のは、昔からモテモテだけど、今より漢キャラでした。
翔の性格が屈折したのは、ナルシストの翔の性格ゆえです(笑)




