十、愛せない
翔と麻奈が一緒に弁当を食べているのはすぐに広まって、耕平の耳にも届いた。
あれからすっかり大人しくなった麻奈は耕平に本当の事を告げたいと言う。
翔にも今はそれが一番良い事に思えた。
どんなに辛くても、いつかは知る事になる真実なら早い方が良いだろう。
麻奈は屋上に耕平を呼びたいそうだ。そういう事ならと翔は鍵を貸した。
聞いてはいけないとは思ったが、どうしても気になって翔は屋上に来てしまった。
昔作ったスペアの鍵を使った。
ばれない様に物陰に隠れる。罪悪感はあるが、いなきゃいけない様な気もした。
しばらく待つと、耕平と麻奈が来た。
姿は見えないけど、足音で分かった。
「私、これ以上耕平君と付き合えない。ごめんなさい」
「・・・翔が好きだからか?」
「・・・私ね、自分以外愛せないの。耕平君と付き合ったのは、自分のステータスを上げるため」
「・・・っ」
「元木君はそれに気付いてわざと耕平君と私を別れさせようとしたの。耕平君のために」
何言ってるんだ。そんな余計な事言わなくていい。翔は二人の方を覗き込んだ。
耕平も麻奈も俯いて下を見ている。麻奈は泣きそうだ。
翔は胸がしめつけられるような思いがした。
「だから、元木君とは仲直りして。私の事は無視してくれて構わないから」
「・・・何で俺じゃ駄目なんだよ。俺麻奈の事好きだ。麻奈も俺の事好きになって欲しい」
「ごめんっ。本当にごめん。でも誰も愛せない」
「俺は・・・愛して欲しい」
翔は耳を塞ぎたくなった。
耕平の想いも、麻奈の想いも充分すぎる程伝わってくるから。
「頼むから、好きになっ、て」
「・・・ごめんっなさい。誰も、愛せない」
遂に麻奈は泣いてしまった。崩れるようにしゃがみこんだ。
翔は見てられなくなり、二人の前に飛び出した。
「元木君っ?」
「翔っ・・・」
耕平は逃げるように屋上を出て行った。
翔は追いかけようとしたが、今は泣き崩れている麻奈が先だと思い直す。
「小黒」
「元木、君。どうしよう。でも、私、愛せない」
「分かった、分かったから落ち着いて」
「でも、耕平君、愛せなかった、傷つけた。私、愛せない」
「・・・麻奈、愛せないなんて言わないで」
「愛せない、誰も。ごめん、なさい」
「俺は麻奈が好きだよ。俺を、愛して」
「!」
夕日が照らす中、二つの影が重なった。
「今すぐじゃなくて良いから、俺の傍にいて、ゆっくり好きになって」
麻奈は泣きながらその時確かに頷いた。




