空白の三ヶ月間 一ヶ月目
この作品は、彼の進む道の本編で語られなかった物語。トシキが魔法学園を守るために戦った後の、三ヶ月間を第一章とします。
本編を読んでからのが、よくわかりますが読まなくてもわかるようになってると思います。
魔法世界のミッドガルド平原に50人以上の兵士と対峙する、一人の青年がいた。彼の周りや後ろには、倒れた兵士達。
彼は百人越えの兵士達を一人で相手にし、半壊させていた。
黒髪に赤のメッシュで整った顔立ちの青年。名は坂井俊貴。
ハイライト魔法学園を狙う‘世界を再生するもの達’の兵士達を、一人で撃退していた。
「テリル…ごめん」
手に握られた魔法媒体の欠片を強く握りしめる。それは、トシキの使っていた魔法媒体で、魔法使いが魔法を使うのに欠かせない物。それに名前をつけて、テリルと呼んでいた。
テリルは、トシキが数の多さに絶望し、生きるのを諦め、兵士達の魔法で殺されかけた時、身を挺して庇った。そのせいでテリルは全壊。バラバラに砕け塵と化そうとした。それをトシキが掴み、魔力で固定し欠片が手に残った。
それにより、トシキは再び立ち上がり自分のせいで砕けたテリルのために生き残ると決めた。
「オレは約束を守らなくちゃ…」
兵士か使っていた杖を兵士達に向ける。
「絶対に先へは行かせない!」
トシキが兵士達に駆ける。
「迎撃しろ!」
隊長がトシキへと迎撃命令をだす。兵士達が、槍を構えトシキに突撃する。その後ろでは詠唱を始める。
「うおおぉ!」
無詠唱で、魔法の球を数十個出現させ、兵士達に放つ。
「ぐあ!」「がっ!」
兵士達の武器や腕、足に直撃する。次々と武器や、体を攻撃され戦闘不能となる。
「無詠唱だと!?」
倒されていく兵士を見て焦る。
一度倒れたのに、再び立ち上がったら前よりも圧倒してくる。それに、背筋が、ヒヤッとする。
「止めろ!何としても殺せ!!」
隊長の激が飛ぶ。
再び槍を持った部隊が前に出て、魔法部隊が後に下がる。
「くそ…、あの魔法部隊を先に何とかしないと」
詠唱をされていることには気づいていたが、その兵士達まで中々手が届かない。
ふと、頭に一つ案が浮かぶ。
「…やってみるか!」
考える時間はない、やれることは全部やる!
トシキが魔力を研ぎ澄まし、杖に魔力を流す。魔力を受け、杖の先から黄色の光が伸びる。
「何だあれは…」
トシキが兵士達へと向かっていく。杖よりも範囲が伸びていて、当たった槍を吹き飛ばす。
「くっ!」
兵士達が怯む。
今がチャンスだ!
そう思い、一気に蹴散らそうとする。
詠唱されていることを忘れて。
「!しまっ」
気づいた時には遅かった。
四方を火の玉や水の槍などに囲まれて、逃げ場はない。
「全開っ!」
魔法障壁を全方向に展開する。
その直後に、魔法がトシキに押し寄せ障壁にぶつかる。
「まだだ!詠唱をしろ!」
隊長が再び詠唱を命令する。
爆煙でトシキの姿は見えない。だが、生きてる。そう確信して、詠唱させる。
ゆっくりと、爆煙が風で流れていく。
「…」
隊長の予想通りトシキはそこに立っていた。肩で息をしていたが、目はまだ諦めていない。
「!?」
トシキが自分達に手を向ける。
「吹き飛べ!」
トシキの合成魔法、暴風の雷閃光が兵士達を飲み込んでいく。
「ぎゃああああ!」
と、兵士達の悲鳴が響く。
「な、なんだと!?」
隊長が唖然とする。
目の前にいた五十もの兵士達が、今は十人いるかいないかまで減っていた。
背筋が凍る。額に汗が浮かぶ。
「くっ…!はぁ、はぁ」
全力の魔法障壁と、合成魔法で魔力を殆ど使い、地面に方膝をつく。
ヤバい…、魔力がきつい、後十人ちょい、いけるか?
汗を手で拭い、兵士達を見る。まださっきの魔法でパニックになっているようだ。
「杖が…」
さっきので杖が魔法に耐えきれず折れた。もう魔法は使えない。
媒体がない
魔法
何か
何か
武器
刀
無意識に刀を脳にイメージする。
「!」
何故か手に黄色の刀の様な物が握られていた。
なんだ、これは…
…今はいい、目の前の壁を、越える!
トシキが兵士達に突っ込む。彼の手に握られているのは、エレメンタルブレード。後に彼がよく使う魔法を、ここで初めて使った。
「うおおぉぉ!」
エレメンタルブレードを振り回し、兵士達を叩き伏せる。
「ぐっ!」
兵士達も黙ってやられるはずもなく、反撃があり、トシキの体を傷つける。
「く、くそがあぁぁ!」
トシキが無理やりエレメンタルブレードを振り、どんどん兵士達を気絶させていく。
「…」
そして、残るは隊長一人。
隊長はトシキを見下ろす。
「まさか、貴公一人に我らが壊滅するとは思っていなかった。」
馬から降り、槍を抜く。
「だが、貴公はここで死ぬ!」
隊長が、肩で息をするトシキに駆ける。
「はぁ、はぁ…っ、」
エレメンタルブレードで、突こうとする槍を反らす。
「くっ!」
隊長が焦る。虫の息のトシキに攻撃が通らない。
「ぐお!?」
いきなり、地面から魔法の球が隊長目掛けて飛んできた。
その球を槍で撃ち落とす。
「小癪な!」
その隙にトシキが隊長の懐に入り込み、思いきりエレメンタルブレードを振り抜く。
「がっ!」
「ぐっ!」
隊長が地面に膝をつきながらも、ナイフでトシキの腹を刺す。
「ここで、死ぬわけには!」
腹のナイフをそのままに、隊長の顔面を蹴り飛ばす。そのまま倒れて、起き上がらない。
「まだ、死ねない」
よろよろと、魔法学園へと歩きだすトシキ。
その足跡には、彼の血も混じっていた。
・・・・・・・・・・・
スルノの森の入り口付近の木の根本にもたれてトシキが座っていた。
「はぁ……はぁ……」
視界が霞む
傷から血が流れているが、既に痛みはない。
「…」
段々と眠くなる。
眠い…
体動かないや
考えるのやめた
ちょっと眠ろう
トシキが目を瞑る。
「む?」
長くフワッとした金髪を揺らし、美女がトシキを見つけた。
エルフのカガリと、トシキの出会い。
カガリがトシキに駆け寄り、顔に手を添える
。
「まだ温かい。急げば間に合うじゃろうか…」
カガリが心臓に手を置く。
トクン、トクンと弱く脈打っている。が、次第に間隔が長くなっていく。
「婆や!」
「何じゃ?」
カガリが大声を出し、森の奥から一人の老人が出てくる。見た目八十代の老婆だが、足元がしっかりしており、老人とは思わせない。
「おや?」
トシキを見て、怪我の方も見る。
「ふむ、ここで死なせてはならん者じゃな。家まで運ぶぞ。」
魔法を使い、トシキを宙に浮かせた。トシキが手にもっていたテリルの破片を落とす。
二人は家へと駆ける。
・・・・・・・・・・・
家まで急いで戻り、トシキの怪我の手当てをする。
腕や足、顔に火傷や凍傷、切り傷が多かった。が、衣服を斬り裂くと、お腹が一番ひどかった。刃物による傷が何ヵ所もつき、突かれた様な傷から未だに血が流れている。
「まずいのぅ…、血が流れすぎておる」
老婆が焦る。家に補充できる血液が有るわけもなく、血液検査する機械もない。
「どうするのじゃ、婆や?」
焦りだすカガリ。
「とにかく止血じゃ。」
魔法で傷を塞いでいく。
・・・・・・・・・・・
トシキの傷は二人の処置で綺麗にふさがり、血は止まった。
だが、流した血が多すぎて顔色が白い。
「婆や!このままでは死んでしまう!」
カガリが焦る。
「じゃが、何もできんのじゃ。」
婆やが椅子に座る。
今いる場所はスルノの森の奥。そこから街まではかなりの距離がある。唯一近いのがハイライト魔法学園だが、補充できる血液を取りに行って帰ってくる間に、トシキは死んでしまうだろう。
それだけ、トシキは血を流しすぎていた。
「見つけた時点でもう死にそうだったのに、なんでわざわざ家に運んだんじゃ?」
トシキを発見した時点で、血が大きな円形を描くように溜まっていた。
それを見た時点で、カガリはもうすぐ死ぬだろう、と判断。一応報告をと婆やを呼んだ。
そして、婆やは家に運ぶと予想外の事を口にした。
「学園を守るために戦った者を見捨ててはおけんじゃろ?」
「!じゃあ、この者が」
婆やは頷く。婆やはトシキと兵士達の戦いを初めから見ていた。
トシキがいなければ、代わりに戦っていたのは婆やだったのだ。
「じゃが、遅すぎた…」
婆やがうつ向く。
婆やは自分の代わりに戦った者の治療をと、ミッドガルド平原にカガリと行った。だが、そこにトシキはいなかった。
無事なのだろう、と祈り帰路に帰る時、カガリがたまたまトシキを見つけた。戦闘が終わって十五分は過ぎていた。
「罪のない人達を守ったこの者が、死んで良いのか!婆や!!」
カガリが怒鳴る。
「…方法は無くはないのじゃ。」
と、婆や。
「なら…」
一つの魔法が頭に浮かぶ。カガリが苦いかおで婆やを見た。
婆やはわかったか、とやさしく微笑む。
「そうじゃ。転生の呪文じゃ。」
転生の呪文。
名前の通り、再び新な人生を生きることができる呪文。だが、それは完全な場合に限る。
「賭けじゃな。」
婆やがカガリの表情を見て笑う。
「じゃが、それをしたら…」
カガリがうつ向く。
「ワシが死ぬ、か?」
カガリが弱くうつ向く。
「じゃろうなぁ。ワシももう長くない。この者みたいな奴のために命を散らしても後悔はない。」
「婆や…」
「ホッホッホ、気にするでない。未来のために役立てるならそれでいい。」
「待って…くれ」
トシキが目をさまし婆やの腕をつかむ。
目が覚めると思ってなかった二人は驚き呆然とする。
「お主!」
「もうすぐオレは死ぬ…だから…無駄に…命をすてるな」
婆やを掴む手の力が次第に弱くなる。その手は冷たい。
「残される者…考え…」
最後まで言えずに、手が離れる。
婆やがトシキの脈を図ろうと、手首に手を添える。
脈はない。
「済まんのぅ…、その言葉は聞けん」
婆やがトシキの手を戻す。
「婆や!」
「カガリ、聞いたじゃろ?まだこんな考えをする人間が残っておる。死なせる訳にはいかん。」
「っ…」
わかっている、心ではわかっているが、やはりただ一人の身内を死なせるのに抵抗がある。
「婆や!」
カガリが婆やを抱き締める。ただ一人の大切な身内。失いたくないかけがえのない大切な家族。
止めても無駄。婆やの意思は固い。
止められない、そう悟り大切な家族を抱き締める。
「すまんの…カガリ。」
優しく頭を撫で、カガリを放す。
「目をさましたこの者にキツくあたってはならんぞ」
優しく微笑む婆や。その目には涙が溜まっている。
その表情を見て、カガリの涙が流れ出す。
スッと杖をとりだし、呪文を唱え始める。
トシキを中心に魔方陣が顕れる。
「……婆や」
魔力が魔方陣の中心に位置するトシキに集中する。
そして、眩い光を発した。
・・・・・・
白い世界。
周りが白一色の何もない世界。
「ここは…」
手。シワが入った手。
婆やが自分の体を確認するように触る。
ー申し訳ありません、トシキのために命をー
白い世界に清んだ美しい声が響く。
「誰じゃ?」
上を見上げて問う。周りには婆や以外誰もいない。
ー私はトシキの器に宿る者、訳あって彼に宿らせてもらっていますー
「ふむ…、ではここはどこじゃ?」
ー…狭間とだけー
「狭間…」
ー他に何か質問は有りますか?ー
「深くは答えてくれぬのじゃろ?」
婆やが笑う。
ーはい、申し訳ありませんー
「なら聞くことは特にないのぅ」
ホッホッホ、と笑う。
婆やは悟っていた。ここがあの世とこの世を繋ぐ狭間であると。この空間は、その者の心の中を反映する。
「ワシは死んだ、そして、ここからあの世に行くのじゃろ。」
ー本来ならそうですー
「本来なら?」
ーあなたは死すべくしてしんでいないー
「それはそうじゃが、寧ろ必然ではないかの」
ー…ですが、私はあなた程の人を死なせるのは惜しいー
「じゃが、ワシは満足しておるよ。これから先、トシキ君の様な者が必要じゃ」
嬉しそうな婆や。
嘘はない。満足はしている。
ーでは、あなたの心を縛る物は何なのですか?ー
「…ホッホッホ、お見通しという訳じゃな」
苦笑いする婆や。
心残りな事、それはカガリの事だった。ただ一人の家族。血は繋がっていないエルフの、大切な娘。婆やを今まで支えてきた大切な娘を、挨拶なしで来てしまった事。
ーあなたのおかげで、彼は助かった。元通りではないにせよ。ー
「?やはり失敗したのか」
婆やがうつ向く。
ーいえ、彼は生きてます。ですが、不完全な魔法のため性別が変わってしまっていますー
「!おやおや、酷な事をしてしまったのぅ」
ーそこで、あなたに一つ相談がありますー
「相談?」
ーはい、あなたに娘さんとお別れを告げる時間を与えましょうー
「!」
婆やが珍しく驚く。
ーそのかわり、彼いや彼女に教育を願いたいのですー
「教育?」
ーはい、彼女は元は男。女としての礼儀振る舞いを教育して欲しいのですー
「ふむ、いいじゃろう」
婆やが微笑む。
そんなことなら、拒む理由はない。むしろ、よろこんでやる。
ーやってくれますか、ありがとうございますー
「ホッホッホ、任しておくのじゃ、立派な女に育て上げておくのじゃ」
ー助かります、では、あなたに2ヶ月の命を与えましょうー
「2ヶ月?」
ー…はい、これ以上は伸ばせませんー
「多いぐらいじゃ。」
ー!?ー
「そこまでいらんかもしれん、充分だと思ったら迎えに来てくれるのかのぅ?」
微笑む婆や。
ーそれは構いませんが、良いのですか?あなたの寿命はそれ以上あったのですよ?ー
「ホッホッホ、長生きしても迷惑かけるじゃけじゃし、ワシは別れをちゃんと告げれればいいんじゃ。」
ーわかりました、意思は固いようですし、これ以上は無粋ですー
ーでは、2ヶ月の命を与えましょう、迎えは願えばいつでも来ますのでー
白い世界に一筋の光が差し込む。
婆やは目をつむりその光を受ける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スルノの森の奥に建つ木造の家。その家に新に一人家族が加わった。
「こら、トシキ!またそんな座りかたをする!!」
婆やがトシキの頭を軽くはたく。
「あたっ」
頭をさするトシキ。転生の呪文で無事生き返ることができたトシキ。ただ、性別がかわり元通りとは言えない姿だった。
肩にギリギリかからない長さの黒髪、黒い瞳、柔らかそうな唇。トシキの事を知らない人が見たら、確実に女の子と思える見た目をしていた。
そんなトシキは今椅子にスカートで足を開いて座っていた。それを婆やに怒られた。
「むぅ…」
足を揃える。
ちくしょー…20年男として生きてきて、これは流石に慣れないぞ
「全く、ワシは情けないぞ」
婆やがため息をつく。
トシキが生き返り、既に一週間経っていた。振る舞いやしゃべり方は、何とか様になったが、はしたない動作を未だにしていた。
男のため無理はないが。
「トシキ!私と外へ行くのじゃ!」
カガリがトシキの腕を引っ張り外へと連れていく。
「晩御飯には帰ってくるんじゃぞ!」
婆やの声が聞こえ、二人は返事を返す。
「と、トシキ」
家の近くの池。そこは、森の奥にあるのにも関わらず明るく、綺麗な花が咲いている。
「私のお気に入りの場所じゃ」
カガリが池に近い場所に腰を下ろす。
「へぇ…、綺麗な場所だ」
トシキもカガリの隣に座る。
「…私がエルフなのはもう知ってるじゃろ?」
カガリがうつ向く。
エルフは生まれつき魔力が高く、耳が人より尖っており、古代文字を読むことができる。人と違う所が多いため、段々と薄気味悪がれ、有らぬ噂を立てられて迫害されるようになった。人間により、大衆の面前で人を喰う化け物扱いされて殺されたり、奴隷として売られたりと酷い扱いを受けてきた。
そして、エルフは人間の迫害から逃げるように姿を消した。今も彼らが何処にいるのかはわかっていない。
「うん、知ってるよ」
トシキもその事を理解して、カガリと接していた。彼女らはなにも悪くない、そう思ってエルフと接する人間がここに二人いた。
カガリも、普通に接してくれる二人のことが好きだった。トシキが初めて見た異性と言うこともあり、カガリはトシキの事を意識するようになっていた。
「婆やが、お前に転生の呪文を使うと聞いた時、正直嫌だった」
「うん…」
カガリ達と一週間暮らしてみて、カガリの婆やへの愛情の強さを知ったため、薄々感づいていた。
「それでも、何の罪もない人達を守ろうとするトシキを死なせるのも嫌だった」
「うん…」
「だから、こうやって二人とも生きてる事が私はとても嬉しいんじゃ。」
カガリが自分の腕をぎゅっと掴む。だが、その顔にはなにかを悟ったような表情を浮かべる。
「…」
その表情を見つめるトシキ。
「じゃが、あの時婆やは死んでいた」
トシキに転生の呪文を使ってから、婆やはその場に倒れた。カガリが駆け寄り、脈と呼吸を確認したが、どちらも止まっていた。
なのに、婆やはいきなり起き上がり、トシキも呼吸をするようになった。
「今かろうじて生きているのかもしれん。いつ死んでもおかしくないのかもしれん。」
「じゃから、いつそうなってもいいように覚悟を決めようと思ってるんじゃ」
カガリの目に涙が溜まってくる。
「…」
「でもな、そう思うと不安になってくるんじゃ。また独りになるんじゃないか、って」
カガリは両親と一緒に今の家に住んでいた。だが、両親はカガリが物心ついた頃に、家を出たきり行方不明となっていた。
カガリの両親は、街へと調達に出て、人間に招待がばれ処刑された。それを知らないカガリは、両親が帰ってくるのをずっと待ち続けていた。
が、日にちが経つにつれ食料が無くなっていく。食べるものがなくなっていき、次第にやつれ始めた。
そして、三ヶ月後にカガリの元へ婆やが現れた。カガリは、人間の事をまだよく親から聞かされてなかったため、人間への恐怖心がない。そのため、二人はすんなりと生活を共にし始めた。
「婆やのおかげで今まで生きてこれた。婆やがいたからやってこれた。」
「じゃから、また独りになるのがとても怖いんじゃ!誰もいなくなるのが嫌なんじゃ!」
カガリの目から涙が流れ始める。
「…」
「と、トシキ?」
トシキはカガリを抱き締めていた。それに戸惑うカガリ。
「カガリの言う通り、婆やはもう長くないかもしれない。」
トシキもそれを感じていた。
「っ!」
「でも!もう独りじゃないよ」
震えるカガリを強く抱き締める。
「今はオレがいる。それに、オレの仲間達がいる。」
「なか、ま?」
「あぁ、仲間。だから、カガリはもう一人にはさせないよ。」
「トシキ…」
カガリがトシキの服を握り締める。
「トシキ、一つ頼みたいことができたんじゃが、よいか?」
カガリが上目使いでトシキを見上げる。
「何?」
くっ、この表情は反則だ…
トシキはカガリにドキッとする。
「私と契約してくれ」
「いっ…!」
トシキがあせる。
できることなら叶えようと思っていたが、まさかの契約。できなくはないが、カガリとキスすると思うと恥ずかしくなる。
「だめ、か?」
上目使いで潤めになる。
ちょっ!?それマジで反則
トシキの頭がクラクラ来る。
「…えぇい!」
腹をくくったトシキ。ここまでさせてしないのは逆に失礼だ、と判断。
カガリと唇を重ねる。
柔らかい唇の感触。
二人の足元に魔方陣が顕れ、光る。
光が次第におさまり、魔方陣も消える。
二人が唇を離した。
「どうやら、カガリがマスターみたいだな。」
トシキがカガリのスカートに載っかる指輪を見つける。
裏にはマスターカガリ、パートナートシキ、と名前が彫られている。
トシキよりも、カガリのが魔力が高い。
「…よろしく、トシキ」
恥ずかしそうにトシキを見上げるカガリ。
「あぁ、よろしく」
微笑むトシキ。
二人の帰りが遅いと、様子を見にきた婆やが、微笑み先に家に向かう。
と、いうことで戦争直後の話です。次は一ヶ月目をよろしくお願いします。