表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

8話 反逆の火、絶望の雨

尋問室での凄惨な事件から数日。アルトは再び、あの忌まわしき隔離区へと叩き戻されていた。

「人殺しの化け物」という噂は上層部にも伝わっていたが、彼を処刑しようとした兵士たちが「原因不明の怪死」を遂げたことで、逆に当局はアルトに触れることを恐れたのだ。

しかし、隔離区の空気は一変していた。

「今夜だ。門の警備が交代する隙を突く」

崩れかけの倉庫。そこには、数十人の《下層存在》たちが集まっていた。手には農具や、拾った鉄屑を削り出した粗末な武器が握られている。

「アルト、お前も来い。あの黒い力を使え」

リーダー格の男が、アルトの肩を強く掴んだ。以前、影に襲われたLv8の男だ。彼は影への恐怖を、今は都への憎悪へと塗り替えていた。

「無理だよ……あれは僕の意志で動かせるものじゃない。それに、こんな無謀なこと……」

「無謀だと? 黙ってここで飢え死にするのを待てってのか! お前のその『呪い』でも何でもいい、都に一太刀報いてやるんだよ!」

アルトは無理やり反乱の列に加えられた。拒絶すれば、今度は同族であるはずの彼らに殺されかねない殺気が満ちていた。

深夜。反乱軍が鉄門へと殺到した。

「開けろ! 俺たちを人として扱え!」

怒号が響く。だが、門の上から見下ろすのは、前回の一般兵とは比較にならない装備を纏った男たちだった。

「――《中級執行官》か」

アルトは息を呑んだ。

現れたのは五人の中級兵士。その頭上には、整然と並ぶ《Lv45》の文字。

《準支配階級》の中でも、戦闘に特化した処刑人たちだ。

「……汚物共が。秩序を乱す害虫には、対話など不要だな」

一人の兵士が、無造作に銀色の長剣を抜いた。

「殲滅を開始する」

それは、戦いなどではなかった。

Lv45という「強者の真実」が、Lv一桁の民草を蹂躙するだけの作業だった。

銀閃が走るたびに、反逆を叫んだ者たちの首が飛び、胴が裂ける。

アルトの目の前で、先ほどまで肩を掴んでいた男が、一瞬で物言わぬ肉塊へと変えられた。

「あ、あぁ……っ!」

圧倒的な力の差。レベルという絶対的な壁。

「次はお前だ、Lv0の欠陥品」

兵士の一人が、返り血を浴びた剣をアルトに向け、冷酷な歩みを進める。

(死ぬ。また死ぬんだ。こんなところで……!)

その瞬間、足元からあの「冷気」が噴き上がろうとした。

影が、主を救うために牙を剥こうとしている。

「だめだ……っ! 出てくるな、影!」

アルトは叫び、あえて影を抑え込むように地面へ身を伏せた。

ここで影が暴れれば、兵士だけでなく、生き残っている隔離区の住人さえも「最適化」の巻き添えになる。

兵士の剣がアルトの喉首を狙って振り下ろされる――その直前。

反乱軍が持ち込んでいた火薬樽が、兵士の放った火炎魔法の余波で大爆発を起こした。

「がはっ……!?」

爆風がアルトの体を吹き飛ばす。

視界が真っ赤に染まり、耳鳴りが響く。

だが、その混乱が幸いした。瓦礫と砂塵が舞い、中級兵士たちの視界からアルトの姿が消える。

『――主よ! このままでは死に至ります。私に権限を!』

脳内に響く影の悲鳴のような忠告。

「……黙れ……! 走るんだ……。戦うんじゃない、逃げるんだ……!」

アルトは血を吐きながら、朦朧とする意識の中で立ち上がった。

足元の影が、まるで物理的な補助を行うように、彼の筋肉を闇の糸で強制的に駆動させる。

爆煙の中を、アルトはひた走った。

背後では、生き残った反乱者たちが、中級兵士たちによって無慈悲に「抹殺」される絶叫が響き続けている。

暗い下水道の入り口を見つけ、アルトはそこへ転がり込んだ。

冷たい汚水に顔を浸しながら、彼はただ、遠ざかる戦火の音を聞いていた。

命からがら、逃げ延びた。

けれど、アルトの心に残ったのは、助かった喜びではなかった。

自分の無力さと、自分を守ろうとする影の狂気。そして、レベルという絶対的な正義に、完膚なきまでに叩き潰された同胞たちの死。

「守られているのに……救われていない……」

暗い地下水路の奥底で、アルトは独り、震える手で自分の体を抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ