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17話 進化する三影

「――修復、完了!」

アルトの咆哮が、静まり返った森の空気を震わせた。

その瞬間、彼の足元から三筋の、噴火にも似た濃密な闇が立ち昇る。先ほどゼノビアの神聖魔力によって無残に霧散させられたはずの《影の分隊》たちが、今、以前よりも深い、光すら吸収する「真なる漆黒」を纏って再誕した。

その再誕の衝撃波で周囲の草木が凍りつく中、影は、主の魔力が分隊の芯まで行き渡り、その霊基が劇的に強化されたことを瞬時に悟った。

『……よろしい。守るだけでは退屈が過ぎるというもの』

影は、ゼノビアが放つ絶え間ない白銀の刺突を、まるで見えない壁があるかのように左手一本でいなし続ける。そして、空いた右手を天へと掲げた。彼が携えていた、存在そのものが次元を切り裂くような「漆黒の大剣」が、主の意志に呼応し、無数の黒い粒子となって分散していく。

黒霧となったそれは、再構築された三体の分隊の手へと吸い込まれ、それぞれの戦闘適性に合わせた最適な「死の器」へと再構成された。

「壱」には、相手の装甲ごと断ち切る重厚な**【黒鉄の重剣】。

「弐」と「参」には、神速の刺突を可能にする、流線型の【深淵の長槍】**。

影がその権能の一部を分け与えた「特化兵装」が、分隊たちの手中で凶悪な輝きを放つ。

「交代だ。……行けッ!」

アルトの鋭い合図とともに、最強の影は音もなく一歩下がり、再び主を護る盤石の盾へと戻る。

入れ替わるように、新たな武装を施された三体の分隊が、爆発的な踏み込みでゼノビアへと肉薄した。その初速は、先ほどまでの彼らとは比較にならない。

「な……武器まで変質したというの!? させないわっ!」

ゼノビアは焦燥を力に変え、愛剣を振るう。しかし、その剣が影に届く直前、彼らの頭上に浮かぶ数値が、まるで狂った時計の針のように書き換わった。

『――経験値が上限に到達。個体:壱、弐、参……Lv22へ上昇』

『――特殊能力《影の貯魔核シャドウ・リザーブ》が解放されました』

「レベルが……上がった!?」

これまでの分隊は、常にアルトという「供給源」から直接魔力を引き出すしかなかった。だが、Lv22への昇華に伴い、彼らは自らの内に魔力を一時的に貯蔵し、主の意識を介さずとも自己修復と強化を完結させる「独立回路」を手に入れたのだ。

魔力の循環速度が劇的に跳ね上がり、彼らの輪郭がより鮮明に、より鋭利に研ぎ澄まされる。

「壱、右から牽制! 弐と参は交差して喉元を狙え!」

アルトの指揮が、戦場をチェス盤のように支配する。

「分かっている、あなたの狙いなんて!」

ゼノビアは全魔力を解放し、白銀の閃光を乱舞させる。Lv67の誇り。彼女の剣技はもはや芸術の域に達していた。

ガキィィィィン!!

壱の重剣をゼノビアが先ほどまで対峙していた影の動きを真似し、最小限の動きで受け流し、その反動を利用して弐の槍を弾く。空中で身を翻しながら参の突きを紙一重で回避し、逆に影の胴体を一文字に両断してみせた。

「はぁっ、はぁっ……死なないのなら、消えるまで斬り刻むだけよ!」

数分間に及ぶ、超高速の攻防。ゼノビアはLv67の地力を遺憾なく発揮し、三体の波状攻撃を完璧に凌ぎ切っていた。しかし、戦いが長引くほどに、残酷な「真実」が彼女の喉元を締め上げ始める。

アルト側は「無限」だが、ゼノビアは「人間」なのだ。

影たちはどれほど斬られ、肉体を欠損させようとも、貯魔核から供給される闇によって瞬時に再生し、一歩も引かずに襲いかかる。対して、ゼノビアの額からは汗が滴り、その呼吸は確実に重くなっていった。

(剣速が……落ちてる。……今だ!)

アルトの脳内に流れる「最適解」が、ゼノビアの防御姿勢がわずか数ミリ秒、疲労によって崩れた瞬間を赤く強調した。

「そこだッ!!」

アルトの叫びに呼応し、壱の影が肉を切らせて骨を断つ覚悟で肉薄する。ゼノビアがそれを迎撃しようとした瞬間、弐と参の長槍が交差し、彼女の細剣を強引に、そして無慈悲に跳ね飛ばした。

「しまっ……!?」

白銀の剣が宙を舞い、月光を反射して輝く。

無防備になったゼノビアの視界を、三つの巨大な闇の影が覆い尽くした。

「終わりだ!」

三体の影の連携が、彼女の残された全防御を完全に突破する。槍の柄による重厚な打撃と、重剣の平打ちが、彼女の鳩尾と側頭部を正確に、かつ圧倒的な質量で打ち抜いた。

ドォォォォォォン!!

凄まじい衝撃波が森を駆け抜け、Lv67の女総監の体は木の葉のように吹き飛ばされた。幾重にも重なる巨木をなぎ倒し、彼女の体は森の奥深くに沈み、沈黙した。

静寂が戻る。

アルトはその場に膝をつき、激しく肩で息をした。自分の意志、自分の戦術、そして自分が育てた分隊の力で、国家の精鋭を、あの恐るべき「数字」を退けたのだ。

「……はぁ、はぁ……。殺して、ないよね……?」

アルトが震える声で問いかけると、最強の影は自身の「大剣」を再構築しながら、闇の底から静かに応えた。

『――急所を外して気絶させたに過ぎません。……全く、非効率極まりない戦い方ですが。……主の望み通りに』

最強の影は、少しだけ満足げに、だが相変わらず不敵な笑みを湛えながら、未熟な「王」の成長を、より深く、より濃い闇の底から見つめていた。

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