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11話 制御と特訓

ー season2 ー

聖王都を囲む「沈黙の樹海」。

日光さえ遮るほどに生い茂った古木の合間で、アルトは荒い息を吐きながら地面に膝をついていた。

国家から『指定広域危険存在』として指名手配されてから、数日が経過した。都から放たれた追手から逃れ、アルトが辿り着いたのは、皮肉にも魔物が蔓延するために誰も近づかない死の森だった。

「……はぁ、はぁ……。もう一度だ、影」

アルトが声を絞り出すと、足元からゆらりと黒い揺らぎが立ち上がる。《影位存在シャドウ・オーバーロード》――自分自身の「完成形」であるその怪物は、主の呼びかけに応え、音もなくその背後に現れた。

聖王都エリュシオンでの絶望を経て、アルトは一つの結論に達していた。

影の力を拒絶し続ければ、自分はただ影に「守られ、生かされるだけの肉塊」として死ぬ。世界が自分を怪物と呼ぶのなら、せめてその怪物ちからの手綱を、自分の意志で握らねばならない。

「君の力は、あまりにも強すぎる。……だから、僕が扱えるサイズに『分割』してくれ。僕の意識が届く範囲で、僕の代わりに動く手足が必要なんだ」

『――非効率です、主よ。私の全能をそのまま振るえば、この森の脅威など一瞬で塵に……』

「それじゃダメなんだ! 君が勝手に動けば、また誰かが死ぬ。僕が……僕の心が壊れないために、協力してくれ」

アルトの必死の眼差しに、影はしばし沈黙した。

やがて、影の巨大な輪郭が、霧のように細かく霧散し始める。

『……承知しました。貴殿の精神負荷コストを考慮し、出力を分散・固定します』

影の本体から、三つの黒い塊が分離した。

それらは泥のように地面を這い、やがてアルトの周囲で、小型の狼のような、あるいは漆黒の兵士のような歪な形へと固まった。

「これが……」

『私の欠片――《影の分隊シャドウ・スクワッド》です。一体あたりの強度はLv20相当に設定しました。これならば、貴殿の脆弱な精神でも同時に制御が可能でしょう』

アルトは集中を研ぎ澄ませた。

三体の影と、自分の感覚を繋ぐ。最初は泥酔したような目まいに襲われたが、特訓を繰り返すうちに、徐々に「自分の指を動かす」ような感覚に近づいていった。

「右、旋回。前の大岩を砕け」

アルトの命令と共に、三体の影が弾丸のような速さで動いた。

ドォン! という衝撃音と共に、巨大な岩が見る影もなく粉砕される。

Lv20。それは都の一般的な兵士を凌駕し、隔離区を襲った魔物と同等の力。それが、今のアルトの手足として動いている。

(これなら……戦える。誰かを殺すための暴力じゃなく、僕が生きるための『術』として)

特訓を始めて一週間が過ぎる頃、変化が現れた。

三体のうちの一体、特に俊敏に動かしていた個体の色が、より深く、重厚な黒へと変質し始めたのだ。

『ほう……。主の意志を反映し、影がこの世界の経験を吸い上げているようです』

影の本体が、珍しく感心したような声を出す。

『Lv20は固定値ではありません。貴殿がこの力を使えば使うほど、これら分隊もまた、私の「完成形」へと近づくために成長を始める。……レベルアップの兆しが見えますね』

アルトはその言葉に、一筋の光を見た気がした。

自分自身のレベルはLv0のままだ。ステータスボードを何度見ても、無情な数字は変わらない。

けれど、自分の影――自分の可能性の断片は、確かに成長している。

「僕が弱いままでも……君たちが強くなれば、いつか……」

いつか、この世界に自分の居場所を認めさせることができるだろうか。

それとも、この成長の先に待っているのは、やはり主をも飲み込む巨大な闇なのだろうか。

アルトは、黒い輝きを増していく分隊の一体を見つめながら、拳を握りしめた。

森の奥から、都の追手とは異なる、強力な魔物の咆哮が聞こえてくる。

「行くぞ。……僕たちのやり方で、生き残るために」

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