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1話 宣告

この世界では、

人の価値は「レベル」で決まります。


努力よりも、生まれよりも、

その数字ひとつが正義であり、身分であり、未来でした。


レベル50を超えた者は支配する側に立ち、

自分の適性にあった職業を選ぶことができ、自分の正しさを行使する資格を得ます。

逆に、それ以下それも数字を持たない者――レベル0は、

最初から数に入れられていません。

そんなレベル0の少年 「アルト」

彼は人間として生きることすら許されなかった。

しかしそんな彼のそばには異質な強さの気配を放つ「影」がいます。

レベルを持たず、

世界のルールに当てはまらないもの。

それでも彼を守ろうとする最強の存在です。


これは、

階級社会を壊す物語であり、

正しさを疑う物語であり、

そして――

最強に「選ばせる」物語です。


聖王都エリュシオン。

空を突くような白亜の尖塔が立ち並び、神聖な魔力の残滓が陽光に反射してキラキラと輝いている。今日は、この国に生きる若者たちにとって人生でもっとも残酷で、もっとも神聖な一日――『神託の儀』、すなわちレベル測定の日だった。

石畳が敷き詰められた中央広場には、何千人もの若者が並んでいる。

その誰もが、青ざめた顔で壇上の「真実の水晶」を見上げていた。

「次、カイル・ヴァン・アストレア」

神官の厳かな声が響く。

華美な刺繍が施された服を着た貴族の少年が、自信に満ちた足取りで進み出た。彼が水晶に手を触れた瞬間、まばゆい黄金の光が溢れ出す。

『――Lv62。聖騎士適正あり』

頭上に《Lv85》と表示されている神官の声が広場に響く。

広場にどよめきが起きた。Lv50を超える《支配階級》。彼はこの瞬間、一生涯の安泰と、他者を跪かせる権利を手に入れたのだ。少年は勝ち誇った笑みを浮かべ、控えていた従者たちの中へと戻っていく。

列の最後尾に近い場所で、アルトは自分の指先をじっと見つめていた。

爪の間に食い込んだ泥が、いくら洗っても落ちなかった。彼は孤児院で育ち、今日まで文字通り泥を啜るような生活を送ってきた。朝から晩まで荷運びをし、騎士たちの馬の世話をし、余った端切れのようなパンを分け合って生きてきた。

「……次。アルト・クロムウェル」

名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。

アルトは震える足を叱咤し、壇上へ上がる。周囲の視線が痛い。彼のボロ布のような服、痩せこけた頬、そして何より「労働階級の子供」という事実が、上位階級の連中には不快でたまらないのだ。

「早くしろ。汚らわしい」

壇上の神官が、鼻をつまむような仕草で促した。

アルトは息を呑み、冷たい水晶に両手を添えた。

(……お願いだ。せめて、せめてLv10……。市民として認められる数値が出てくれ……!)

この世界において、レベルは努力で変えられるものではない。生まれた瞬間に魂に刻まれた「定数」だ。Lv10を下回れば、法的保護すら受けられない《下層存在》として、一生を暗闇で過ごすことになる。


カチリ、と。

水晶の奥で何かが噛み合う音がした。

しかし、光は溢れなかった。

黄金でも、銀でも、安っぽい銅色ですらない。

水晶は、底なしの沼のような「漆黒」に染まった。

「……なんだ、これは?」

神官の眉が跳ねる。水晶の中に表示されるはずの数字が、バグを起こしたように明滅している。

やがて、その表面に浮かび上がったのは、見たこともない文字列だった。

『――《計測不能》』

広場が静まり返った。

計測不能。それは過去、この国の歴史において、測定器の故障以外では一度も記録されたことのない事象だ。

「エラーか? いや、そんなはずは……」

神官が慌てて再起動の呪文を唱える。しかし、黒い澱のような輝きは増すばかりだ。アルトの背中を、冷たい汗が伝う。自分の内側から、何かが引きずり出されるような、形容しがたい吐き気がした。

ふと、アルトは自分の足元を見た。

真昼の太陽の下、くっきりと伸びるはずの自分の影。

それが、まるで生き物のように「蠢いて」いた。

まるで足元から這い上がろうとする黒い泥のように、粘り気を持って震えている。

「ひっ、……化け物か!?」

隣にいた補助神官が悲鳴を上げた。

アルトの手が触れている水晶に、亀裂が入る。ピシ、ピシ、と不吉な音が広場に響き渡った。

「鎮まれ! 静粛に!」

最前列に座っていた高位魔導師が立ち上がる。彼は鋭い眼光でアルトを射抜いた。

「鑑定の結果を上書きする。数値が出ないということは、即ち『存在しない』も同然。この者は、制度の外側にある異物だ」

「異物……?」

アルトの声が震えた。

「《Lv0》だ。この少年は、人としての最低限の魂すら持ち合わせていない。《下層存在》――いや、それ以下の汚染源として定義する。衛兵! 直ちにこの異物を排除せよ!」

その言葉が引き金だった。

「Lv0だってよ」「気持ち悪い」「さっさと消せ」

周囲の若者たちから、嘲笑と拒絶の罵声が浴びせられる。先ほどLv62を出した少年カイルが、こちらを見て「ゴミが」と吐き捨てた。

「待ってください! 僕は、僕はただ、一生懸命働いて……!」

アルトの叫びは、屈強な衛兵たちの革靴の音にかき消された。

左右から腕を掴まれ、強引に引きずられる。石畳に膝を打ち付け、痛みが走るが、それ以上に心が凍りついていくのを感じた。

「離せ! 僕は何もしてない!」

「黙れ、レベルなし。貴様の居場所はここにはない。この聖なる都を汚す前に、吹き溜まりへ帰るがいい」

衛兵の冷酷な声。

アルトは引きずられながら、何度も振り返った。白亜の塔が遠ざかっていく。光の当たる世界、自分がいつかその一員になれると信じて努力し続けた「正解の世界」が、音を立てて閉ざされていく。

街の端にある、巨大な鉄格子の門。

そこは『隔離区』への入り口だ。一度入れば二度と戻れない、法も秩序も届かない、文字通りの掃き溜め。

「行け」

背中に強い衝撃を感じた。

アルトは無残に突き飛ばされ、泥濘んだ地面に顔を伏せた。

背後で、重厚な鉄門が閉まる。ガシャン、という絶望の音が、彼の鼓動を打ち消した。

腐敗したゴミの臭い。湿った空気。

遠くで聞こえる、獣のような笑い声と、誰かの悲鳴。

アルトは泥にまみれた顔を上げ、震える手で地面を掴んだ。

「……どうして」

何も悪いことはしていない。誰かを傷つけたこともない。ただ、レベルという「数値」がなかった。ただそれだけで、彼は人間であることを否定された。

その時だ。

アルトの視界の端で、地面に落ちた自分の影が、ふわりと持ち上がったように見えた。

誰もいないはずの暗闇の中で、一瞬だけ。

自分よりも背が高く、圧倒的な威圧感を放つ「何か」の輪郭が、月明かりに照らされた壁に投影された。

だが、アルトが目を凝らしたときには、そこにはただの歪んだ影があるだけだった。

「……あ、はは……」

アルトは力なく笑った。

あまりのショックに、幻覚まで見始めたらしい。

空を見上げると、都を覆う防護結界の輝きが、まるで遠い星のように冷たく光っていた。

《Lv0》。計測不能。

アルト・クロムウェルの物語は、この世界における「死」から始まった。

しかし、彼はまだ知らない。

彼の足元に潜むその影が、《本来到達し得た最終形》――この不条理な階級社会を根底から食い破る、最凶の絶望であることを。

そして、影は静かに待っていた。

主の心が、絶望で完全に塗りつぶされるその時を。

ー season1 ー

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― 新着の感想 ―
ぬうう、開幕から不遇すぎる展開。 でもあらすじを見る限り、 逆転の可能性はありそうなので、 ここからの巻き返しに期待します!
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