戦う天使たち
操り人形の玩具
海と空の境にあるその町にその子供はおりました。
空を映す海と星の輝きを散りばめた目を持って、満月の光に照らされた花のような見事な金の髪を靡かせておりました。
その瞳と髪は誰も彼もを虜にし、その子供の両親はその子のためならなんでも与えました。その代わり、その子供はまるで着飾られた人形のようでした。
己から何かを発することは数えるほどで、その無口さはその子の儚げな印象をさらに強めました。
ある日、その家族は町で一番腕のいい人形屋を訪れました。
その店には大小、種類様々な人形たちが壁の棚にお行儀よく並んで座っておりました。その一つ一つの人形の出来のいいことと言ったら!まるで小さな精霊や動物が本当に大人しくいるように見えるのです。町の中に現れる彼らは、いつも忙しなく自分勝手で悪戯が大好きで、少し迷惑な隣人なのです。
その子の両親は店主にこう言いました。
「この子にそっくりな人形を作ってくださいませんか」
確かにそう言ったのです。
気難しそうな店主は渋々その子を視界に入れました。その子を一目見た瞬間、店主はひどくその子供に目を奪われてしまいました。それは自分が作ったどんな人形よりも美しく、まさに求めていた姿をしていたからです。
「嗚呼。いいとも。作ってやろう」
店主はその子の顔をよく見ようと屈みました。
「お前さまの顔を見せてはくれんか」
「・・・・・・」
無言のうちに子供はこくりと頷きました。
店主は人形を作っていました。机いっぱいに散りばめられた方陣の上、ありとあらゆる道具と滑らかで繊細な手つきで人形を作っておりました。
その様子をいつも見にくる悪魔がいました。
その様子を見た天使がいました。
悪魔はいつものように邪魔にならないよう小さくなって店主の手元を見ています。
店主はその悪魔をたまに構います。
天使は嫌に精密な人形を訝しみ、呪いをかけました。
店主は気付きませんでした。
天使のかけたその呪いは、持つ者の未来を奪うものでした。残酷な一本線の運命に軌道を変えたのです。
悪魔は天使がかけた呪いに気づき、その呪いに上書きをしました。それは崩れ去った幸福の後に永遠に変わらぬ心と姿、そして悪魔になる運命に軌道を凹凸にしました。
ほどなくして人形は完成し、あの子供の家に届けられました。
贈られたその子は初めて見たほどの満面の笑みを浮かべました。
それからというもの、その子とその人形はいつでも共におりました。
それから幾日か過ぎた頃、その子の両親は珍しい奇病で共に死皇様に連れ去られてしまいました。
その子に親戚などおりません。一人になってしまったのです。
ですがその子供の姿は誰も彼もを魅了するのです。瞬く間に引き取り手が多数手を挙げ、それで町を巻き込んだ争いが起きました。その子供を家に引き入れればどんなに見栄えが良いことか、考えないではいられないのです。
子供は逃げました。海辺を逃げました。草むらを逃げました。
いつしか路地裏の角に来たころ、もう誰も追いつく者はいませんでした。ですがそこには、見捨てられた他の子供たちがたくさん集まっていたのです。
その子供たちは人形を奪い釘を打ち付けました。
返して、と叫ぶ子供をたくさん殴りました。
星も眠るその夜、路地裏の隅で一つの死体がありました。周りにはいろいろなものが落ちています。
その中に青く光るものがありました。
朝が顔を出すころ、一羽のカラスがその青く光るものを啄みました。その刹那、カラスは羽根を無惨に散らして死にました。
その血を舐めたネズミの一家がおりました。そしてネズミたちは内臓をばら撒いて死にました。
ネズミの死体を食べに来たネコがおりました。そしてネコは肢体を分かたせ死にました。
いつもネコと遊ぶ子供が来ました。猫の体に触れた時、首と胴と足がバラバラになって死にました。
子供を探しに来た親がおりました。子供の血に触れた時、関節ごとにバラバラになって死にました。
一家を探しに来た町の人がおりました。靴が血を踏んだ時、跡形もなく潰されて死にました。
町の人を捜索していた警備員がおりました。灯りが死体を照らした時、体がひび割れて死にました。
噂を聞いた物好きがおりました。街に踏み入れた時、身体が燃えて灰になって死にました。
一人の旅人がおりました。
「天使の仕業か、悪魔の仕業か」
そう言って旅人は引き返して他の街に行きました。
死んだ命の数が六百六十六になった時、あの子供は起き上がりました。
体の節は球体でできていました。目は硝子玉でできていました。手には斧を持っていました。
人形の身体でした。
今宵も子供の人形は彷徨います。夜の中を彷徨います。瞳に心奪われた者たちはたちまちに死ぬのでしょう。
おしまい




