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元スパイ、家政夫に転職する  作者: 秋原タク
第二章 ハチバンの月、二重の嘘

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27.5話 夏海にお粥を食べさせた。

 先ほどの『お願い』の真意は、ひとまず置いておくとして。

 一時間ほどかけてお粥を完成させると、俺はさっそく夏海の部屋に向かった。


「起きてるか? 夏海」


「んあー、起きてるぞー」

 

 ノックをして中に入ると、夏海はベッドに横になりながらスマホを眺めていた。学生の休日といった感じである。

 だが、幾分か顔の赤みが引いてきた気がする。順調に快復に向かっているようだ。

 俺は、お粥の載ったお盆を枕元まで運びつつ。


「夏海。眠たくないのか?」


「いまはまだ。ここに運ばれるまでに寝てたみてえなもんだからなー」


「ふむ。では、先にお粥を食べてしまおう。栄養を摂ってから寝たほうが治りも早いはずだ」

 

 言いながら土鍋の蓋を開けて、オカカと崩した梅干しを投下。

 レンゲで適量をすくってやり、夏海の口元に運んだ。


「ほら。熱いから気をつけろ。フーフーして食べるんだ」


「……え、えっと」


「? どうした。もしかして、腹が減っていないのか?」


「いや、減ってはいるんだけどさ……その、食べさせてくれるんだなあ、って」


「あ」

 

 先ほど『ポトリスウェット』を飲ませた流れで、ついお粥も同じように食べさせようとしてしまった。


「す、すまない。子供あつかいしてしまったな……では、あとはひとりで」


「あ、あーん」

 

 レンゲを下げようとすると、夏海が目をつむって口を開き始めた。

 そのまま食べさせて、という意味だろう。

 小さな口を目一杯開けて、頬をすこし紅潮させている。ちょっと恥ずかしいようだ。

 どうしてもさっきの口移しの件を思い出してしまうが……まあ、さすがに同じ轍を踏むことはないか。というか、食べ物の口移しは俺もあまりしたくない。


「あーん!」


「わかった、わかったから」

 

 催促され、仕方なくレンゲを夏海の口に運び、ゆっくりと食べさせる。

 もぐもぐ、と咀嚼するその様は、どこかひな鳥の餌付けを想起させた。


「おいひい」


「それはよかった。まだ食べられそうか?」


「うん。あーん」

 

 そうして。

 次々にお粥を食べさせていき、あっという間に土鍋は空っぽになってしまった。


「ふぃー、ごちそうさまー。おいしかった」


「それはなにより。じゃあ、あとは寝るだけだな」


「だな。満腹になっていい眠気が襲ってきてるし……こ、これで、クロウが添い寝してくれたら一瞬で眠れちまいそうなんだけどなー」


「はいはい。それじゃあ、コイツを俺だと思って一緒に寝てやってくれ」

 

 夏海の冗談をあしらいながら土鍋を片づけつつ、手近にあったブサカワぬいぐるみを布団の上に乗せてやる。

 お盆を持って立ち上がると、夏海はそのぬいぐるみを抱きしめながら、なぜかジトッ、と俺のほうをにらんできていた。


「どうした?」


「……いま鈍感野郎に呪いの念を送ってる」


「お前、呪術使いだったのか……いや、そんなことはさておき。では、俺はリビングにいるからな。なにかあったらすぐに知らせるんだぞ」


「へいへい……おいお前、あたしの恨みを受けて熟睡できると思うなよ?」

 

 俺が渡したぬいぐるみに、なんとも恐ろしい脅迫をささやく夏海。

 呆れのため息をもらしつつ、俺は夏海の部屋を後にした。

 

 その日の夕飯時にもなると、夏海の体調はほぼ万全の状態にまで戻っていた。

 ……時折、俺に恨めし気な視線を送ってきていたのが、すこし気にかかるけれど。


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