27.5話 夏海にお粥を食べさせた。
先ほどの『お願い』の真意は、ひとまず置いておくとして。
一時間ほどかけてお粥を完成させると、俺はさっそく夏海の部屋に向かった。
「起きてるか? 夏海」
「んあー、起きてるぞー」
ノックをして中に入ると、夏海はベッドに横になりながらスマホを眺めていた。学生の休日といった感じである。
だが、幾分か顔の赤みが引いてきた気がする。順調に快復に向かっているようだ。
俺は、お粥の載ったお盆を枕元まで運びつつ。
「夏海。眠たくないのか?」
「いまはまだ。ここに運ばれるまでに寝てたみてえなもんだからなー」
「ふむ。では、先にお粥を食べてしまおう。栄養を摂ってから寝たほうが治りも早いはずだ」
言いながら土鍋の蓋を開けて、オカカと崩した梅干しを投下。
レンゲで適量をすくってやり、夏海の口元に運んだ。
「ほら。熱いから気をつけろ。フーフーして食べるんだ」
「……え、えっと」
「? どうした。もしかして、腹が減っていないのか?」
「いや、減ってはいるんだけどさ……その、食べさせてくれるんだなあ、って」
「あ」
先ほど『ポトリスウェット』を飲ませた流れで、ついお粥も同じように食べさせようとしてしまった。
「す、すまない。子供あつかいしてしまったな……では、あとはひとりで」
「あ、あーん」
レンゲを下げようとすると、夏海が目をつむって口を開き始めた。
そのまま食べさせて、という意味だろう。
小さな口を目一杯開けて、頬をすこし紅潮させている。ちょっと恥ずかしいようだ。
どうしてもさっきの口移しの件を思い出してしまうが……まあ、さすがに同じ轍を踏むことはないか。というか、食べ物の口移しは俺もあまりしたくない。
「あーん!」
「わかった、わかったから」
催促され、仕方なくレンゲを夏海の口に運び、ゆっくりと食べさせる。
もぐもぐ、と咀嚼するその様は、どこかひな鳥の餌付けを想起させた。
「おいひい」
「それはよかった。まだ食べられそうか?」
「うん。あーん」
そうして。
次々にお粥を食べさせていき、あっという間に土鍋は空っぽになってしまった。
「ふぃー、ごちそうさまー。おいしかった」
「それはなにより。じゃあ、あとは寝るだけだな」
「だな。満腹になっていい眠気が襲ってきてるし……こ、これで、クロウが添い寝してくれたら一瞬で眠れちまいそうなんだけどなー」
「はいはい。それじゃあ、コイツを俺だと思って一緒に寝てやってくれ」
夏海の冗談をあしらいながら土鍋を片づけつつ、手近にあったブサカワぬいぐるみを布団の上に乗せてやる。
お盆を持って立ち上がると、夏海はそのぬいぐるみを抱きしめながら、なぜかジトッ、と俺のほうをにらんできていた。
「どうした?」
「……いま鈍感野郎に呪いの念を送ってる」
「お前、呪術使いだったのか……いや、そんなことはさておき。では、俺はリビングにいるからな。なにかあったらすぐに知らせるんだぞ」
「へいへい……おいお前、あたしの恨みを受けて熟睡できると思うなよ?」
俺が渡したぬいぐるみに、なんとも恐ろしい脅迫をささやく夏海。
呆れのため息をもらしつつ、俺は夏海の部屋を後にした。
その日の夕飯時にもなると、夏海の体調はほぼ万全の状態にまで戻っていた。
……時折、俺に恨めし気な視線を送ってきていたのが、すこし気にかかるけれど。




