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4 潜入1日目‐2

面接官(田所主任と名札に書いてある)は爆発したパソコンの部品を集めて、無事なものがないか慌てながら確認し始めた。私は放置された形になって、ボーッと主任さんの作業を見ていた。あー半泣きだぁ、かわいそうに。大事なデータでも入ってただろうか?安らかに眠れ、南無南無。


と、事務所にエプロンをした女の人が入ってきた。急いでいるようだ。


「主任、現場が回ってません!ヘルプお願いします!」


「今それどころじゃないよ!そっちで何とかして!」


主任は女の人を見ることも無くパソコンに向かい続けていた。私は女の人がかわいそうになったので、少しぐらい手伝おうと思った。どうせ主任はパソコンの相手で私のことは忘れているだろうし。


「私がヘルプに入ります。」


そう言うと女の人は不信な顔をした。この忙しいのに新人教育までやってられないと、顔に書いてある。まぁ、任せなさいって。


私は厨房で働く人たちを観察し、階段の下まで続いている長蛇の列に並んでるお客さん達が、メニューを見て料理を取って席に座り、会計を済ませるまでの動きを一通りみて、並列思考に没入した。食堂を上から見ているようなイメージが頭の中で構築され、お客さんと厨房スタッフの動きのあらゆる可能性を考えて、一番スムーズに行きそうな動きを割り出す。


「まず、ボトルネックになってるご飯の盛り付けですが、極大盛りと極小盛を無くします。あと、盛ったあと重さを量るのをやめましょう。」


「え?何の権限があって変えようとしてるの?」


不安そうにするスタッフに自信に満ちた笑みを返す。


「大丈夫、私を信じて。」


どうせパソコン壊しちゃって雇われることは無いから、私に失うものはない。私があまりにも堂々としているので、あれ?もしかして主任より権限持ってる?どこかのコンサルタント?と、私が偉いという勘違いが広まり、指揮する体制が整った。ということで名札を見ながらバンバン指示を飛ばす。


「田中さんはフライが揚がるまでの5分間、ご飯盛り付けのヘルプに入って。ミカエルは定食をあと10食盛り付けたらお箸の補充に行って。佐竹さんはB定食の食器から洗ってね。」


私は定食毎の並ぶ列を整え、見本のメニューの配置を変えて注文数をコントロールし、お箸やドレッシングの配置を変えてお客さんの動線をスムーズにし、待ち状態のスタッフを無くすように小まめに仕事を振り替えた。あと、フラフラとしてたお客がいたので危なそうなところで控え、つまづいた瞬間にお盆と体を支えて事なきを得た。その人はこれまでも食事をこぼしてしまったことがあるようで、未然に防いだ私はまるで手品を披露したみたいに、周りの人から拍手をもらった。


新たなお客さんが少なくなって、落ち着いた頃、主任が疲れた顔でやってきた。あまりの順調さにエッと驚き、近くのスタッフに声をかける。


「今日ってお客少なかったの?」


「いえ、いつも通りでしたよ!主任が連れてきてくださった寺谷さんが仕切ってくれたら見たこと無いぐらい順調に行きました!何ものなんですか?!明日からも来てくれるんですかね?」


「え?あ、あぁ、そうだね。寺谷さん、明日からもよろしく。」


てなかんじで私の首は繋がった。さて、片付けも終わったし帰ろうとしていると、イヤリングから声が聞こえてきた。カメラとスピーカーマイク付いてるの忘れてたわ。


「よ、大活躍だったな。パソコン破壊も含めて。」


やかましい。


「上の訓練施設行ってみろよ、スナオの戦うところが見られるぜ。」


スナオさんは警備部門に採用予定だ。バトルのテストがあるのだろうか?ロボットに乗ってる時は信じられないぐらい強かったけど、生身でも強いのかな?


そんな事を思いながら3階に上がると、人だかりが出来ていた。ソーマを見つけたので声をかける。


「どうしてこんなに人が集まってるの?」


ソーマはギョッとした顔で私を見て、


「さぁ、何でも警備部の人が、新人に女の人を採用したのが納得出来ないって、騒いでるらしいです。」


なんて、他人行儀に応えてきた。女の人ってスナオさんでしょ?それに丁寧な言葉遣いなんてらしくない!ちょっと絡んでやろうと口を開きかけたら、耳元で声が聞こえた。


「おい、ミンク、分かってると思うが潜入中だからな。ソーマと知り合いとバレるような会話すんなよ?」


ふー、危ない危ない。そーか、初対面だとすると、


「そーなんだ。で、僕はどこから入ったの?ここは子供が来ていい体育館じゃないんだよ?」


こんな感じかな?見た目小学生だもんね。ソーマは文句を言いたそうだったが、


「僕、こう見えても成人してて、ここの社員なんですよ。身分証見ます?」


と初対面らしく丁寧に返してきた。


「あらぁ、ごめんなさい。知らなかったものだから。失礼♪」


「半笑いですよ、お姉さん。性格悪いんじゃないですか?」


ソーマが引きつった笑顔になってるので、からかうのはこのぐらいにしておいた。スナオさんに視線を戻す。体のゴツい格闘家風の男の人がスナオさんに勝負を挑んでいるところだった。


「こんな弱々しい女にここの警備は勤まらん!仲間になるということは、命を預けるということだ!我々の仲間になりたいと言うなら、実力を見せてみろ!」


そう言って木刀をスナオさんに渡した。スナオさんは固まって動かない。彼女はイレギュラーな状況に対応出来ないのだ。動かないスナオさんを見て格闘家風の男はフフンと鼻で笑った。ビビってると思ったのだろう。


「戦うのが怖いのか?腰抜けは家に帰れ!」


その時、イヤリングから司令の声が聞こえた。というのも、司令からの通信は全員に聞こえる設定になっている。


「この通信はスナオへの命令だ。前の男を全力で倒せ。以上。」


停止していたスナオさんが動き出す。


「了解」


スナオさんがそう言った瞬間、ザワザワしていたフロアが静まり返った。素人の私たちにすらビリビリと伝わってくる気迫に、周りの野次馬達が圧倒されて黙り込んだのだ。あれ?大丈夫?全力出させて?と心配になった。


「お、おぉ。いい気迫だ・・・」


と、さっきまで威張り散らしていた相手も警戒し、木刀を構えた。


「どこからでも、かかってこい!!」


ぱーん!!


「ぎゃー!!」


かかってこいの゛い゛を言った瞬間に乾いた破裂音が鳴り、男が叫んでいた。うーん、見えなかった。イヤリングからゲイルの笑い声が聞こえてくる。


「いやー、相変わらずアホ強ぇ。映像撮ったし、後でスローで見ようぜぇ。」


色々あったけど、こうして私の潜入1日目が終わったのだった。


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