3 面接、潜入1日目-1
スピーカが吹き飛んだあと、司令がイヤリングを部屋にいる三人に配った。目立たない無難なデザインで、おしゃれに関心が無さそうな格好のソーマがつけていても、違和感が無いように見えた。司令は私に渡す時に少しためらって、
「ここがボタンになっているから、ミンクはくれぐれも押さないように気をつけてくれ。イヤリング型のカメラ兼スピーカマイクになっていて、着けているとゲイルが周りの様子を確認できるし、会話もできる。潜入捜査中はつけていてほしい。間違ってボタンを押さないようにだけ気をつけてくれ。」
と、短いセリフの中でボタンを押すなを二回も盛り込んできた。私は恐る恐るイヤリングを耳につけた。気をつけろと言われなくても、耳元で爆発するのはゴメンだ。着けるとゲイルの声が聞こえてきた。
「なんだ、その、調子乗って悪かったな。ミンクの実力はよく分かったぜ・・・俺もまだまだ未熟だってこともな。」
なんか元気がない。ごめんね、自信作だったんだよね。跡形もなく爆散しちゃったよ。ちょっと後ろめたさを感じつつ、なんと声をかければいいか分からなかったので、
「元気出してよ。いつか私に爆発しない電卓を作ってくれたら嬉しいな。」
と励ましつつ要望をさらっと伝えてみた。
「そもそも電卓に爆発する要素はねぇ。」
ゲイルの声はまだ暗かったが、そう言って乾いた笑いを立てた。ほんの少し元気が戻った気がする。司令が仕切り直しとばかりに話をもとに戻す。
「先ほどソーマも言ったが、ミンクに潜入してほしいのは社員食堂だ。食事中の社員が兵器開発につながりそうな会話をしていたら、気づかれないように近づいてくれ。イヤホンを通じてゲイルが会話を録音する。ソーマは開発部に、スナオは警備部に侵入する予定だ。怪しい人物が特定できたら部屋なりコンピューターなりに侵入して、証拠となるデータを確保してもらう。ミンクは危険なことはせず、食堂での情報収集に専念してくれれば良い。」
ソーマとスナオさんは作戦内容を知っているので、特に質問は無いようだった。私は疑問に思ったことが山ほどあったが、とりあえず一番気になることを確認することにした。
「ソーマは児童労働にならないの?」
「その質問が最初でいいの?!僕はれっきとした成人だよ!」
ソーマは免許証を突き出した。身長は私と変わらないし、童顔なので小学生だと思っていたが、免許証の生年月日をみると私より年上になっている。偽造だな。
「よく出来てるわね。さすが軍隊。」
「よく出来てるって何?偽造だと思ってるの?本物だから!」
本物かどうかに興味はなかったので、次の質問に移った。
「潜入はいつからですか?」
「明日面接予定だ。履歴書はすでに送ってある。面接場所はここに書いてあるからよろしく。」
準備が良すぎる!完全にはめられた!ソーマを睨むとスッと視線をそらされた。
次の日は面接に向かった。RBインダストリの敷地に入ってすぐ右に3階建ての建物があって、二階が食堂になっていた。ちなみに一階は更衣室、浴場、シャワー室で、三階はトレーニングジムのようになっていた。なかなかに広い。司令からもらった資料では従業員数が1000人ぐらいいるらしく、食堂も大型商業施設のフードコートくらいの広さがあった。
ちらほらと昼休憩に入っている従業員がいる食堂で、すみっこのテーブルにて面接をする。司令の話では人事部門にもすでに潜入してるメンバーがいて、面接に落ちることはないらしい。面接してくれたのは神経質そうな中年のおじさん社員で、採用が決まってるからか質問は住んでるとことか名前とか、履歴書に書いてそうな項目を聞いてくる適当な内容だった。
「じゃあ、さっそく会計に入ってくれる?お皿によって金額が違うから、この表みて計算してね。レジが調子悪いから電卓でお願いね。」
さっそく仕事をすることになった。面接の意味とは?まぁいっか。それより電卓がまずい。
「電卓は使えません。」
「え?暗算に自信があるの?まぁ使わなくても間違わないなら良いけど。」
とか言ってるうちに最初のお客さんが来た。70円のお皿が4つか。九九苦手なんだよな。
「7✕4はえーと、27。270円です!」
「280円だよ!計算苦手なら電卓使ってくれる?!」
「惜しかったですね。あ、次の人どうぞ。8✕3はうー、56?560円お願いします!」
「240円だよ!なんで頑なに電卓使わないの?いったん会計やめよっか!」
という事で事務所に連れてこられた。パソコンが机に置いてある。嫌な予感がする。私にとってパソコンはただの巨大な爆弾だ。
「簡単な入力作業があるから、お願い出来るかな?パソコンは使ったことある?」
「いえ、機械オンチなので使わない方が良いと思います。」
「今どき使ったこと無いの!?まぁ大丈夫だよ、紙の数学をうつすだけの猿でも出来る仕事だから。」
だとすると猿を連れてきた方がいい。少なくとも爆発はしないだろうから。
「私の機械オンチを舐めない方が良いですよ。」
「なんでちょっと偉そうなの?!心配しなくても僕はパソコン得意だから。壊してもすぐ直せるし。じゃあまず電源入れよっか。電源ボタンぐらい分かるよね?」
口調と表情から、なんとなくバカにしてる感じが伝わってきて腹が立った。電源ボタン?わかるわよ、起爆ボタンのことでしょ?私の実力を見せてやろうじゃないの。直せるもんなら直してみなさい!てぃっとボタンを押すとズバーンとパソコンが吹き飛んだ。ちょっとスッキリ、まぁクビだわね。まだ採用が決まる前だしクビとかないのか?