2 新しい仲間
軍の本部とソーマが言ったのは、車で10分くらいの距離にあるホテルの一室だった。前回私がロボット戦に巻き込まれた時には、お城の敷地内に仮設で司令部が作られていて、周りにはロボットが配置されていた。今回はロボットが見当たらないが、別のところにあるのだろうか?ソーマもスナオさんもパイロットなので、ロボットなしで活動してるとは思えないけど。
ソーマが自分の携帯に暗証番号を入力したあと、部屋のノブ下にあるカードキーの読み取り部に当てて解錠した。部屋の中にはソーマの上司(司令と呼ばれているが名前は知らない)が待っていた。
「やぁよく来てくれた、久しぶりだなミンク。ソーマのことだから強引に連れてきたんだと思うが、また会えて嬉しいよ。さて、われわれとしてはミンクに協力して欲しいと思っているが、話を聞いてくれるかな?」
「聞いた後に断ってもいいですか?」
「もちろん。だが、その場合は情報が漏れるのを防ぐため、一ヶ月ほどこのホテルの中で過ごして欲しい。その間、外部との連絡は取れない。ご両親と学校にはこちらから説明させてもらう。」
「誰にも言わなければ、外に出てもいいでしょう?」
「ダメだ。これは例え話だが、明日学校が爆発するとミンクだけが知っていたら、誰にも言わないなんて無理だろう?自分の周りの人を助けたいと思うのは自然なことだ。だがそうした動きを個人でされると、我々の作戦が狂って全体の被害が大きくなる可能性がある。だから外には出せない。」
「学校が爆発するんですか?!」
「例え話と言ったろう?これ以上聞くと帰れなくなるぞ。どうする?話を聞くか?」
「私の周りが危険なんですよね?」
「その質問にはまだ答えられない。話を聞くか、帰るかをまず選んでくれ。」
何も分からない状況で選べと言われても困る。聞かなかったら、私の周りで何かあった時に後悔しそうだし、聞いてしまったら協力しない限りホテルに閉じ込められる。なにこれ?協力するしかなくない?ソーマにはめられたの?
「ソーマ!やり方がズルくない?!」
「え?飛び火した!僕が決めたんじゃないよ!」
慌てるソーマを手で制して、司令が穏やかに、私に向き直って話す。
「決めたのは俺だ。ソーマとスナオに、俺にはこの作戦は出来ないと散々言われ、断腸の思いでミンクを巻き込む事にさせてもらった。ミンクの名前を思い出させてくれたのもソーマだが、責任はすべて俺にある。」
ほぼソーマのせいじゃん!くそ、食い逃げした時に放っておけばよかった。まぁもう今回は仕方ない。覚悟を決めて話を聞くことにした。
・・・
「シーガ町の外れにRBインダストリというロボット工場があるのは知ってるか?」
私は首を横に振る。
「表向きは工事用のロボットを製造しているが、購入している材料に比べて販売数が少なすぎる。調べるとルーラント国との繋がりが見えてきた。」
ルーラント国は過激な国で、宣戦布告無しに戦争を始めて市民に被害を出している。今の時代の戦争は、避難が終わった戦場で遠隔操作のロボットで戦うのが一般的なので、人の被害を出すなんて狂ってるとしか思えない。ニュースで見てなんてひどい国だと憤っていたが、まさか身近に関係してくるとは思ってなかった。
「RBインダストリアルがルーラントのために兵器用ロボットを秘密裏に開発している可能性が高いが、今のところ証拠がなく踏み込めない。そこで我々が潜入捜査し、証拠をつかんでルーラントの計画を潰すのが今回の作戦だ。」
おぉ~、スパイ映画みたい。潜入捜査だって、ロボット工場に。出来るか!
「ちょっと!なんで私に出来ると思ったのよ?!工場の機械なんて私が触ったら大惨事でしょ!」
ソーマが両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。
「だ、大丈夫だよ。ミンクさんが潜入するのは社員食堂だから。」
「それに工場の機械はそんなヤワじゃねーよ」
ソーマに続いてそう発言したのは、聞き覚えのない声だった。と言っても部屋には私とソーマとスナオさんと司令の4人だけしかいなかった。声は机に置かれたスピーカーから聞こえているらしい。不審に思っている私の表情に気づいて司令が紹介する。
「あー、ミンクに紹介がまだだったな。この声は引きこもりメカニックのゲイル村雨だ。引きこもりすぎて俺も実際に会ったことがない。実在してるかもわからん。」
「実在しとるわ!よ、ゲイルでいいぜ。よろしくな。シーガ防衛戦で大活躍したんだってな。機械を壊す専門家だって聞いてるぜ?だが、仮設の軍司令部と敵のロボット一体を壊したぐらいでいい気になられちゃ困るな。ロボット工場の設備は大抵、二重三重に防衛システムが入れてある。テロ対策もされてるからな。素人が少し操作したくらいじゃあ誤動作の一つも起こせねーよ。ウソだと思ったらその部屋にあるスピーカーを壊してみな?俺の作った特別製だ。宇宙船に使えるクラスの信頼性を持った部品で、世界最高の安定性と安全性能を実現した。頑丈さにもこだわったからな、直火で炙ろうがトラックに轢かれようが壊すことは出来ねーぜ。これを壊せるってんならお前の実力を認めてやってもいいが、まぁ無理だろうな!ギャハハ!」
おっと、すごそうな人が出てきた。私にも操作出来るスピーカーですって?ついに音楽を聴きながらウーロン茶で休憩とか出来ちゃう?あっそうだ!私のために電卓作ってくれないかな?なんか偉そうでクセのある人みたいだけど、逆にそんな人のほうが腕は確かなんじゃないかって期待しちゃうよね!
私はワクワクしながらスピーカーについている電源ボタンらしきものを押した。
ズパーン!!跡形もなくスピーカーが吹き飛ぶ。ソーマは腹を抱えて笑っていた。
私の機械オンチは宇宙船を破壊するレベルだったか・・・