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第0話 プロローグ
そこは、夜に包まれた一つの街。
頂点から見下ろす月の下、本来ならば静粛が包んでいるはずの、今は怒声が響く街。
「いたぞ、追え!」
「絶対に殺すな!捕まえた奴は10億与える!」
後ろから聞こえる怒声を耳に、僕は夜の大通りを走り続ける。
振り返ったそこには、目を血走らせた何十人もの多種多様な人間たち。
恐怖で足が震え転びそうになったのを、ひとりの男が支えた。
「振り向くな、前を見て走れ」
そいつは茶髪と黒目をもつ顔の整った少年。
同年代と言っておかしくないその少年は、今頼れる唯一の存在。
僕と少年はただ走る。
この街から逃げるために、この王国から逃げるために。
この異世界から逃げ出すために。
元の世界に、戻るために。