第89話 街への帰還(※)
無事に牛鬼を倒したアカとヒイロは他のパーティの援護に向かう。二人が駆けつけた時には既に気合魂も合流済で八人が二頭の牛鬼を相手にしていた。
「……下手に手を出すと邪魔になりそうだし、周辺だけ警戒しておきましょうか」
「そだね」
以前傭兵団と共に戦った時もそうだったが(※)きちんと連携できている集団に相談も無く交じると邪魔をしてしまい逆にピンチを招きかねない。アカとヒイロだって先ほど見事な連携で牛鬼を倒したけれど、あそこに別の者が混じったらああは行かない。だから戦況を見守りつつ周囲を警戒する役割に徹する事にした。
(第4章 第49話)
ここまでで二人で二頭の牛鬼を討伐してるから、残りは一致団結に倒してもらっていいかなぁと思う気持ちも無くはない……ちょっとだけ、だけど。
「斬撃ッ!」
「突撃!」
戦技も駆使して牛鬼に攻撃を重ねていく。ほほう、相手の攻撃は盾で防いだり逸らしたりするスタイルか。アカとヒイロは盾を持たずに全てかわしていく戦い方なのでそういった違いは見ていて面白い。
「終わるね」
ヒイロの言葉にアカが頷くと同時に、フーマの一撃が牛鬼の首を落とした。こうして横から見ていてもフーマの動きは他のものより一回り洗練されていて、クランリーダーは伊達じゃないなと思った。
「……ふぅ。そっちも終わったのか?」
剣を納めてこちらに訊ねるフーマに頷くアカとヒイロ。
「ええ、死体はあっちにあるわ」
「そうか。下処理は出来るか? 全部街まで持っていかないといけないからな」
「一通りできるけど。ちなみにこれ、担いで行くのよね?」
「ああ、七体も狩れたのは想像以上の成果だ。報酬の上乗せも期待できるな」
それは嬉しいけど、ここから街まで持って帰るまでが大変だ。
……。
…………。
………………。
全員で牛鬼の下処理――血抜きや内臓の処理、立派なツノを切り落としてまとめたり、を終える頃には真夜中を大きく過ぎていた。体重数百キロもある牛鬼を街に運ぶために即席で作ったソリに乗せていく。三つ作ったソリにそれぞれ二、三体の牛鬼を乗せたら、ソリの手前側で縄を引っ張る者と後ろから押すものに分かれてヨイショヨイショと運んでいく。
「ノロノロしていると肉が腐るからな、今日からは徹夜で街まで急ぐぞ」
血の匂いに釣られて魔獣が寄ってこないように獣避けの香を焚きながらひたすらソリを引っ張る。
朝が来て、昼が過ぎて、次の夜も街を目指し続けた。少し休憩を取っただけで丸一日以上歩き続けた甲斐があり、二日目の昼過ぎには街に到着することができた。
「ギルドまで持っていくの?」
「いや、この量だと取りに来てもらった方がいいな。ちょっと待っててくれ」
街の門の手前でフーマがギルドに報告に行くのを待つ。
「……疲れたね」
「うん。二徹はやったことあるけど、ひたすらソリを押して引っ張ってっていうのはしんどかったわ」
腰をトントンと叩くヒイロに同意する。訓練で三徹まではやったことがあるし、魔力による身体強化中は眠気を感じなくなるので徹夜自体はそこまで辛くないのだが、如何せん数百キロのソリを押す(引く)という重労働だ。これも魔力による強化のおかげで体感的な重さは十分の一ぐらいになっていたけれど、それでも数十キロの荷物を丸一日半、押し続けたのでヘトヘトである。
「アンタたち、すごい根性だったな」
「ああ。女二人で二足牛鬼を倒したってだけでも驚いたが、結局弱音ひとつ吐かずにこれを押し続けたんだもんな。フーマのやつが欲しがるわけだ」
同じく待機している気合魂と青空旅団のリーダーたちが寄ってきてアカ達を褒める。
「どうも。……でも正直に言うとしばらくはやりたく無いわね、コレは」
「ハッハッハ、同感だ」
「これだけ大量なら報酬の上乗せもかなり期待できるから暫くは仕事せずに遊べるさ」
嬉しそうなリーダー達と会話をしていると、フーマがギルド職員を連れて戻ってきた。七体もの二足牛鬼の素材に、ギルド側も大層満足そうであった。
……。
…………。
………………。
「さて、今回の依頼は基本報酬銀貨40枚。ただ、これは牛鬼の素材を三体以上という条件だったからな。更に四体の素材を上乗せした分として、一体あたり銀貨8枚で買い取らせた」
本当は10枚にしたかったんだがな、とフーマは毒付いた。そこはギルド側と交渉があったのだろう。
「ともあれ、合計で銀貨72枚。ひとりあたり銀貨7枚として、余りの2枚はクラン運営費としてプールする」
「ああ、問題ない」
「全員に銀貨7枚か! 苦労した甲斐があったな!」
喜ぶ一致団結の面々。
「クラン運営費はお前達には関係ない事になるが、いいか?」
「ええ、それで構わないわ」
「一致団結に入ってくれるなら、祝儀として余りの2枚もくれてやれるが、どうする?」
「せっかくだけど遠慮しておくわ」
「はは、残念だ。じゃあ今回はこれで」
アカとヒイロの二人分で銀貨14枚を受け取った。流石に全員疲労の限界なのか、このあと一杯どうだといった誘いもなくその場で解散となった。
◇ ◇ ◇
宿に戻った二人は風呂で汗を流すとそのままベッドにダイブする。
「おわったぁぁぁ……」
「お疲れさま」
「アカもね。あ、ありがとぉ」
横になってぐっと伸びをするヒイロの腰をマッサージしてあげるアカ。ヒイロは腰をほぐされると気持ちよさそうに目を細める。
「……ん、そこ、気持ち良い……」
「わざとイヤらしい声だしてない?」
「そんなこと、ないけど……んっ」
ちょっと扇情的な声をあげるヒイロに跨り、脚のマッサージへ移行する。太腿、脹脛、足の裏まで十分に揉みほぐしたら、また太腿へ戻ってくる。
そのまま腰へとマッサージする手を移していくと、ヒイロの脚の付け根のあたりがじっとりと湿ってきている事に気付いた。それが汗だけでない事は分かったが、気付かないふりをして腰、背中、肩とマッサージ先を移動させていく。一通りマッサージが終わりアカがヒイロから降りると、ヒイロは待ってましたと言わんばかりに起き上がってアカを抱きしめる。
「アカ……」
ヒイロは潤んだ目でアカの顔を見つめるとそのまま唇を重ねる。マッサージの最中にスイッチが入ってしまったらしく、そのままアカに体重をかけて押し倒そうとしてくる。
「ちょっと、ヒイロ……」
「む、今日は抵抗が強い……」
倒されないようにグッと踏ん張るアカにヒイロは不満そうに眉を寄せる。だってこのまま押し倒されたら、そのままされちゃうじゃない。
「まだ昼間だし……」
「あ、そうだった。窓閉めないと」
ヒイロは一度アカから離れて立ち上がり、部屋に一つだけある小さな窓を閉める。薄暗くなった部屋でこれで良し、と得意げな顔を戻ってきたヒイロは改めてアカの隣に座り抱きついてくる。
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな……」
「じゃあ今度は私がアカのカラダをマッサージしてあげるね」
楽しげに笑うと背中に回した手を服の下に滑り込ませてくる。抱き合ったまま背中の手を肩や首、腰のあたりまでまさぐってくるヒイロが面白くてアカは笑ってしまった。
「むぅ、これじゃダメか?」
「ダメじゃないけど、マッサージにはなってないかな」
「じゃあこっちは?」
手をカラダの前に持ってこようとするヒイロ。アカはヒイロを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めてガードする。身体が密着して、ヒイロの手が入る隙間が無くなった。
「そっちはマッサージじゃないでしょ」
「そうだけど。じゃあもうえっちしよ?」
「ストレートに来たか」
「最近ご無沙汰じゃん」
「だってこの宿、隣の部屋の声が聞こえるんだもん」
そう、宿を選ぶ際に「壁の厚さ」は考慮していなかった二人だったが、この宿では夜になると隣の部屋の声がボソボソと聞こえるのだった。壁が薄いと言う事で防音が甘いのだろう。何を話しているのかまでは聞き取れないので、普通に過ごす分にはそこまで気にならないのだが、喘ぎ声とならば話は別である。
過去の失敗(※)もあるので最近のアカはちょっと過剰なくらいに音漏れを気にしており、ヒイロもそんな状況で無理にしようとはしない。結果的にこの街に来てからはする機会がなかったのである。
(※第6章 第71話)
しかしヒイロはマッサージ中に気付いてしまった。逆にいま、この真っ昼間という時間であれば隣室に人は居ないではないかと。そう思ったら俄然ムラムラしてきてしまったというわけだ。
「いまはお隣さん、仕事に出てるから」
「あー……そういうことかぁ」
ヒイロの意図を理解したアカは、抱擁を緩める。それはつまり、ヒイロを受け入れるという合図で、
「やった!」
「わぷ!」
勢いよく飛びかかってきたヒイロに押し倒されてしまう。アカを押し倒したヒイロはそのまま服をたくし上げるとやや乱暴に胸を揉みしだく。
「……んっ」
「あ、ごめん。痛かった?」
「ううん、大丈夫……そのまま続けて……」
ヒイロはアカの言葉に頷くと、改めて胸を弄ぶ。多少乱暴なくらいの方が、求められているという実感を得られて気持ちが良い。しばらくされるがままに、快感に身を任せてるとヒイロも服を脱いで、アカの手を取り自分の胸に沿わせる。
「アカ、私にも、おねが……ぁ、」
言い終わる前に手に力を込め、身を捩ったヒイロに覆い被さった。攻守交代である。
――久しぶりの情事はとても燃え上がり、隣人が仕事終えて帰ってくる直前まで二人は思う存分身体を重ねあったのであった。
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