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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第7章 山の麓の大きな街で
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第81話 顔合わせと最初のクランの仕事

 翌日。指定された朝九時の大体15分ほど前にギルドを訪れる。ちなみに街では3時間おきに鐘がなるが、それより細かい時間は分からない。持ち運びのできる小型の時計は白金貨数枚(数億円)するようなものなので当然アカ達は持っておらず、陽の傾きや体内時計が頼りだがこの世界に来て二年も経てば大体分かるようになる。慣れって怖い。


 ギルドの戸を開くと、二の鐘(朝九時)に貼り出される依頼を待っている冒険者達が既に詰めかけていた。


「アカ! ヒイロ!」


 昨日のテーブルに座っていたルシアが声を掛けてきた。呼ばれた声の元へ移動すると、ルシアの周りには女性冒険者達が集まっていた。


「よく来てくれたな。みんな、この二人がさっき話した期待の新人、「双焔」のアカとヒイロだ」


 他のパーティとはお互いに初対面なので、こうして顔繋ぎをしてくれるのは正直助かる。


「どうも」

「……よろしく頼む」


 目の前にいた金髪ショートカットの女性に対してとりあえず手を出してみたが、彼女は軽く会釈しただけで下がってしまう。


「テレサったら、相変わらず寡黙なんだから」


 空ぶって微妙に行き場をなくしたアカの手を握ってくれたのは、これまた金髪の女性。長い髪が緩くカールしており、身だしなみに気を遣っている事がわかる。


「あ、どうも。えっと……」

「初めまして。「魔法隊」のリーダーをやってるミーナよ、よろしくね。ついでにさっき貴女の握手を無視したのが「大剣の契り」のリーダーのテレサ。悪い子じゃ無いんだけどあまり人と話すのが得意じゃ無いの……ゴメンなさいね」

「あ、はい。ミーナさん、こちらこそよろしくお願いします」

「ええ。仲間が増えて嬉しいわ」


 頭を下げたアカとヒイロに、ミーナはニコリと微笑む。


 その後、その場にいたいくつかのパーティのリーダーと挨拶を交わす。なるほど、ここにいる全員と話すとかなり時間がかかるけれど、リーダーだけならそれほどでも無いし、基本的にパーティ単位でまとまって動くのであればリーダーの顔と名前が一致していれば良いというわけか。これもクランの利点かもしれないな。


 一通り顔合わせが済んだところでルシアがパンパンと手を叩く。


「よし、じゃあ今日の依頼を割り振っていくよ。いくつか来ていない子達もいるけど、今日はここに22人集まっている」


 ルシアは依頼票を取り出すとテーブルの上に置く。


「こっちは東の沢にいるスライムを駆除スライムゼリーの納品をする依頼報酬は銀貨10枚。ラブリ、マッソゥ、ステラ。アンタたちで行ってきてくれ」


 名前を呼ばれたリーダーたちが頷く。確かに彼女たちのパーティは合わせて10人だったはずだ。


「そしてこっちが西の街道から少し離れた岩場に出たっていう豚魔獣(オーク)の討伐だね。こっちは銀貨12枚。テレサ、ミーナ、頼む。それとアカ、アンタたちはこっちについて行ってくれ」

「あら、よろしくね」

「はい。頑張ります!」


 依頼を受けたら各々割り振られた依頼の討伐に向けてギルドを後にする。アカとヒイロは「大剣の契り」と「魔法隊」の後について豚魔獣がいるという街道へ向かった。


◇ ◇ ◇


 小一時間も歩くと、岩場に到着する。


「じゃあさっさと豚魔獣を探しましょうか。」

「どんな感じで依頼を進めるんですか?」

「基本的にはパーティ毎に目標を決めて、あとはそれぞれ好きに狩りをするわ。例えば豚魔獣であれば基本的に1パーティで2、3体かしら」


 ミーナの説明にテレサは黙って頷く。どうやら説明はミーナに丸投げするつもりのようだ。ミーナはもう! と言いながらもアカとヒイロに向き直って説明を続けてくれる。


「これはクラン内でもパーティによるんだけど、私達(魔法隊)は先に報酬の分配を決めちゃうわね。今回は事前に豚魔獣を倒す数を申告して、その数に応じて分けようと思うんだけど構わないかしら?」

「は、はい。」


 頷くアカに、ありがとうと軽く礼を言うミーナ。テレサの方も見て、少し大きな声で申告する。


「私達は2体の豚魔獣を討伐するわ」


 それを受けてテレサも続いた。


「……私達も2体だ」

「おーけー、じゃあアカ達は?」


 なるほど、ここで数を挙げればいいのか。


「豚魔獣とは戦った事がないので、安全のために1体でも良いですか?」

「ええ、大丈夫よ。5体も狩れれば依頼としては十分のはず。じゃあ報酬の分配だけど、2体倒す私達と「大剣の契り」がそれぞれ銀貨5枚、1体しか倒さない「双焔」が銀貨2枚ってことでいいかしら」


 パッパと取り決めをするミーナ。先輩方にちょっと多く取られている計算だが、初日からがめつく行って揉めるのも良くないか。アカは頷いた。


「じゃあ報酬の取り分はそれで。今後やっぱりたくさん狩りますって言ったり、実際にたくさん狩っても分け前は変わらないから注意してね。無駄な危険と労力をかけないことも大切よ。じゃあ4の鐘(15時)の頃に獲物を持ってここに集まりましょう」

「分かった」

「了解です」

「じゃあ一旦解散で」


 ミーナの声で、大剣の契りは北に、魔法隊は南の方角に歩き始めた。


「私達は残った西(こっち)かな?」

「だね。行こっか」


 アカとヒイロは岩場を西に向かって歩き始める。


◇ ◇ ◇


「おお……豚魔獣……」

「猪八戒みたいな……? 二足歩行して武器を持った身長2m以上ある豚っぽい魔獣って、ほんとそのままだね」


 ヒイロの説明口調に思わず笑って頷くアカ。


 岩場の陰から標的を観察するアカとヒイロ。1時間とかけずに豚魔獣は見つかったのだが、残念ながら豚魔獣は4体の群れであった。


「せめて2体になってくれないかな……」


 流石に初見の魔獣と2対4で戦うほど自惚れていないアカとヒイロ。そのまま暫く様子を見ていたけれど、豚魔獣達は動く気配がない。


「うーん、どうしようか」

「あっちで音を立てて2体だけ引き寄せるとかは?」

「上手く2体になる保証も無いし、不意打ちで1体を倒せるならまだしも正面から2体を相手はしたく無いわ」

「だよねぇ……」

「仕方ない、他の個体を探しましょうか」

「そだね。ここで待ってて結局一体も狩れないってのが一番困るし」


 せっかく見つけた獲物だけど、リスクは冒したくない。その場を離れてまた暫く獲物を探す二人。


 ……。


 …………。


 ………………。


「居た」

「二体か……どうする?」


 探すこと数時間、ようやく見つけた豚魔獣。(つがい)なのか、仲睦まじい様子でブヒブヒと何やら話している。


「なんだか……可哀想な気もしてくるわね」

「でもヒトを見つけたら襲ってくるんだし、そこは仕方ないよ」

「ええ、やりましょう。せーので向かって右側に炎を撃ち込んでそのまま左って流れにしましょうか」

「ねぇアカ。左側はメイス(こっち)で倒した方がいいんじゃないかな」

「どうして?」

「うーん、なんとなくだけどクランの中で手の内を見せ過ぎない方がいい気がするんだよね」

「つまり、火属性魔法が使えることは隠しておきたいってこと?」

「どうしてもって程じゃないけど、一応ね」

「ちなみに、理由は?」

「なんとなく……じゃ、ダメ?」


 少し困ったようにヒイロが小首を傾ける。アカは小さく首を振った。


「ううん、大丈夫。私はヒイロのそういう感覚は結構信頼してるから。じゃあ左側はメイスでやりましょう」

「ありがとう、アカ」


 改めて豚魔術の番を見据える。


「じゃあ右側に炎を放つわね。私は頭を狙うわ」

「おっけー、じゃあ私は心臓狙うよ。せー……のっ!」


 魔力を込めて炎を放つ。アカの手からは真紅の、ヒイロの手からは緋色の、それぞれボウリング玉ほどのサイズの炎が放たれた。


 豪速球と言っても差し支えない速さで豚魔獣に向かう双焔の玉は、狙い違わず右側の魔獣に命中した。ボンッ! という音を立てて炎は頭を吹き飛ばし、胸に大穴を穿った。


「ブボボッ!?」


 目の前で伴侶が急に吹き飛んだのを見て、残った豚魔獣は混乱する。その隙を突いてアカとヒイロは、メイスを持って飛び出した。

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