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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第5章 孤児院ボランティア
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第62話 孤児院二日目:ハンナとコレット

「理由を聞いてもいい?」

「えっと、今日お二人と一緒に狩りをしていて、やっぱり冒険者の方の使う魔法ってすごいんだなと思って。いつも罠を仕掛けても、獲物は全然かかってくれないし自分で狩れるようにならないといけないなって考えてたんです」


 まあ予想通りの答えだった。実は魔法が使えたら簡単に狩れるほど甘いものでも無く野生の動物を狩るには色々とコツがあったりして、狩りで成果をだすには魔法よりそちらの方が大事だったりする。その辺りのイロハはギタンの修行で叩き込まれたアカとヒイロ。当然今日の狩りでも使っていたが、ハンナには見た目が派手な魔法が魅力的に映ったのだろう。


「私達に聞かなくても、ここの先輩で現役の冒険者が居るじゃない」


 アカはハンナの後ろで所在なさげにしているコレットを見ながら話す。コレットは辛そうに顔を曇らせると小さく首を振った。


「私、魔法を使えないんです。戦技も使えない……そもそも魔力の操作っていうのが分かってなくて……」

「同じパーティの人には聞けないの?」

「一度だけ教えてもらったんですけど、よく分からなくて、才能無いって言われちゃったんです。それで、もう教えてもらえなくなっちゃって……」


 そう言って暗い顔をするコレット。華奢な女の子であるコレットは、魔力操作さえおぼつかないのであれば見た目通りの身体能力しかないというわけでそれって冒険者としてはだいぶ頼りないのではと思う。


 彼女の冒険者業は置いておいて、そんなコレットではハンナに魔法を教えることも出来ないというわけか。


 さて、どうしよう。魔法を教えると言ってもなぁ……。


「ダメでしょうか……?」

「うーん、そもそも私達も教えられることが殆どないのよね」

「まあ良いんじゃ無い、できる範囲で」

「ヒイロ?」

「明日一日で基礎的なことだけでも教えられれば、あとはハンナちゃんの努力次第ってことで」

「あ、ありがとうございます!」

「とりあえず院長先生に話して許可を貰おうか。さすがに魔法を教えるのは家事のお手伝いの範疇を超えてるからね」


 ヒイロはハンナを連れ立って孤児院に戻っていく。アカはヒイロの判断に従う事にした。ヒイロはのほほんとしているようで、なんだかんだ色々と考えているタイプだ。彼女がやろうというからには何か意図があるのだろうし、それについては後で教えて貰えば良い。


 ハンナに頼まれたので魔法の使い方を教えて良いかと許可を求めると、院長は困った顔をした。


「この子に魔法を、ですか。それはありがたいご提案なんですけど、その、報酬は……」

「明日一日ということなら、当初のままで構わないですよ。孤児院のお手伝いの範囲という解釈で。その代わり明日一日かけて基礎的なことを教えるだけで、その結果ハンナちゃんが魔法を使えるようにならなくても恨みっこなしという事で」

「よろしいんですか?」

「まあ、労力で言えば昨日今日と大差無いので」

「そういうことなら、是非。あの……厚かましいお願いではあるんですが、ロイドに教えてもらうことは出来ますか? あの子も冒険者を志しているんです」

「本人が頭を下げてきたら別に構わないですけど、多分それは無いと思いますよ。なんか私達のことをよく思ってないみたいですし、ずっと睨んできてましたもん」

「そうなんですか? あのくらいの男の子は難しいですね」


 そう言って首を捻るイレイナ院長。孤児院の運営が色々と大変で、子供達の様子を細かく把握しきれていないんだろうなあ。


「あ、あの、ロイドにじゃなくて、私に教えてもらうことって出来ますか……?」


 なぜか付いてきていたコレットが立候補した。


◇ ◇ ◇


 結局明日はハンナとコレットに魔法の使い方を教えるという事に決まった。


 コレットは既に孤児院の人間では無いが、ここの出身として定期的に差し入れを持ってきたりしているのでまあ半分くらいは関係者として扱っても良いだろうとの判断だ。


 コレットに詳しく事情を聞いたところ、冒険者として駆け出したはいいけれど碌な訓練もせず、もちろん魔法も使えないような有様だったのですぐに行き詰まってしまったらしい。実力のない、ましてや女の子一人で生きていけるほど冒険者業は甘く無い。


 ものの十日ほどで貯金も無くなり、途方に暮れていたコレットを助けてくれたのが今のパーティで、少し年上の四人組がコレットに良かったらパーティに入らないかと声を掛けてくれたらしい。


 以来数ヶ月、彼らと共に行動しているコレットだが、未だにまともな戦力にはなれず、ひたすら雑用や荷物持ちなどをして僅かな分け前を恵んでもらっているのが現実だという。日々剣を振る訓練をしているが、戦技も使えないため未だに一人ではゴブリンも狩れない。


 そんな中でなんとか少しずつお金を貯めては孤児院への差し入れを捻出しているとは、なんとも涙ぐましいではないか。


「それだけ残してきた孤児(きょうだい)達が心配ってことか」

「その前に自分の心配しないといけない状況っぽいけどね」


 自分たちの宿に戻ってきたアカとヒイロは、先程聞いた事情を思い出しながら意見を交わす。二人とも、同じ冒険者としてコレットの境遇には思うものがある。


「私達の場合はエルさんに魔法を、ギタンさんには戦い方と狩りのやり方を教えて貰えて、改めて恵まれて居たんだなって思うわね」

「ホントホント、いくら感謝しても足りないくらいだよ。何も分からないまま放り出されてたり、訓練をつけて貰えずに冒険者になってたとしたら今頃コレット(あの子)と同じ感じになってたかも」


 改めて、恩人に感謝する二人。

 

「それで、コレットは確かに今のままだとジリ貧なんだけど、本人も分かってるからこうして私達に魔法を教わろうとしているというわけかな」

「明日一日でなんとかなるとも考えづらいけど……まあキッカケになるか」

「そういえばヒイロ、どうしてあの子達に魔法を教えてあげようと思ったの? 状況を私達に重ねて助けてあげたくなったというわけじゃないでしょう?」

「まあ多少は可哀想だとは思ったけど、どちらかと言えば自分達にも利があるからだね」

「私達に利益、ある?」

「まあそんな大したものでもないんだけどさ」


 ヒイロはよっと身体を起こしてベッドの縁に腰掛けると人差し指を口に当て、うーんと考えながら話す。


「私達って新人の冒険者にしては結構強いよね?」

「まあ、弱くはないと思う」


 アカは頷いた。先日の傭兵団での戦いでもなんだかんだ成果をあげている。かなり綱渡りだっだし運が良かった事もあるけれど、実力を客観視した場合、冒険者全体の中で少なくとも下の方では無いだろう。


「前回、傭兵団では強い人たちと自分達を比較したから、今回はいわゆる下っ端の子と比較してみたらどうかなと思ったのが一点」

「上と下を知る事で自分達がどのあたりにいるか、分かりやすくなるってことね」

「まあ一つの目安かなとは思うけどね。それと、人に教える事で自分たちの成長に繋がる部分もあるかなっていうのがもう一点」

「ああ、そういうことか」


 勉強や運動は人に教える事で自身の理解が深まる。魔法の使い方を人に教える事で自分たちにとっても新しい気付きを得られる可能性があるというわけだ。


「ヒイロは色々と考えてるのね」

「思いつきだし、なんとなくだよ。ぶっちゃけ孤児院の掃除や明日も狩りをするよりはそっちの方が楽チンかなって思ったって言うのもあるし」

「もしかしてそれが一番の理由?」

「バレたか」


 てへ、と舌を出してウインクするヒイロの仕草がなんだか可愛くて、アカは笑ってしまった。

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