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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第5章 孤児院ボランティア
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第57話 目標達成!

 朝。朝の九時(二の鐘)はだいぶ前に鳴り響いていて、冒険者ギルドで依頼を受けるならとっくに準備を済ませて出ていなければならない時刻である。


 アカとヒイロはベッドに全財産を並べていた。


 金貨が6枚。

 銀貨が65枚。

 銅貨が140枚。


「ようやく貯まったわね」

「私とアカの分の船のチケットで、金貨5枚だよね」


 ヒイロがそう言って金貨5枚を横に避ける。それでも手元には金貨1枚と銀貨銅貨が丸々残るわけだ。


 半年近くかけて銀貨65枚をコツコツ貯めてきたわけだが、今回騎士からのチップで一気に目標金額に届いてしまったというわけだ。


「考えてみればチップで金貨2枚(約200万円)もくれるとか物凄く太っ腹な人だよね」

「それだけお給料が良いってことか……金銭感覚が庶民と根本的に違うんだろうなあ」

「そのおかげで予定を半年近く繰り上げられたんだから感謝ではあるんだけどね」


 船に乗って新しい国についても暫くはそのまま旅を続けられるだけの蓄えもできたのは僥倖である。節約しながら旅をすれば魔導国家までかなり近づける可能性もある。


「まずは無くさないうちに船のチケットを買っちゃいましょう」


◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドを訪れたアカとヒイロ。朝の受付のピークは既に過ぎており、やや閑散としたロビーのカウンターでは受付嬢達が書類仕事に精を出している。


「サティさん、おはようございます」

「あ、アカさんにヒイロさん。おはようございます。今日は街の依頼ですか?」


 馴染みの受付嬢に挨拶をすると、手を止めてにっこりと笑いかけてきてくれる。アカ達はちょっと気合を入れて稼ぐ時は9時の受付ラッシュに混じって依頼を受けにくるが、そうでない時はこうしてピークを過ぎたぐらいの時間にやってきて街の掃除などを受ける事が多い。この街に来てはや半年、しっかりと生活リズムまで把握されてしまっている。


「ふふふ、今日は違うんですよ」


 何故かドヤッと笑えを浮かべるヒイロを放ってアカは小さな声でサティに訊ねる。


「あの、船のチケットを買いたいんですけど」

「え? チケットって、()()乗船券のことですか?」


 この短期間でお金が貯まるとは夢にも思っていなかったサティは目を丸くする。


 ……。


 …………。


 別室の応接室に通されたアカとヒイロ。二人の前にはサティと共にギルドマスターがいる。


「確かに金貨5枚、間違いないな」


 渡した金貨を注意深く確認してギルドマスターが頷いた。アカ達に騙そうとする意図が無くとも、彼女達が偽造金貨を掴まされてた可能性もあるため念のためチェックをしたというわけである。銀貨ならまだしも金貨の場合は万が一があると困るので確認する決まりで、気分が悪いと思うが理解して欲しいとはギルドマスターの言葉だ。


「これで商船に乗せてもらえるんですよね」

「ああ、問題ない。先ほど商業ギルドにも確認したが、三日後の船であれば二人部屋の個室を準備できるという事だった」

「三日後ですか」

「ああ。明日の昼12時(三の鐘)にここで船長と面会して乗船券の購入と詳しい説明だな……まあ、お客様待遇なので君たちは運航を妨げないようにいくつか注意を受ける程度だろう。そして三日後の夜明け前に出港する船に乗船という流れになるな」

「分かりました、それでお願いします」


 金貨はそのままギルドが預かる。乗船券購入の仲介をギルドが請け負っているため、この時点でアカとヒイロはギルドを通してお金を払ったことになるということだ。大金を持っていると落ち着かないので――なにせ500万円を財布に入れて持ち歩いていたようなものだ、それも日本と比べれば段違いに治安の悪い世界で、である――この時点で支払い処理をしてくれたのはありがたかった。


「じゃあまた明日来ますね」


 アカ達が出ていくと応接室にはギルドマスターとサティが残された。


「彼女達がこの街に来てまだ半年ほどだったか?」

「そうですね。この短期間で金貨5枚を用意できるなんて……」

「サティ君が見てきた限り、彼女達はこの街でどのぐらい稼いでいた?」

「多く見積もっても金貨1枚には届かないとは思います。まあ、ギルドで仲介した仕事に限ってですけれど」

「彼女達が最近した仕事は……これか。鉢金傭兵団の臨時要員募集で報酬が銀貨30枚。少ない額では無いが、金貨5枚を稼ぐには全く足りていないな」

「遠征先で王国騎士団との接触があったらしいので、そこで臨時収入があったとかですかね」

「臨時収(チップ)入ねぇ……まああり得ない話では無いか。事実こうしてカネを持ってきているわけだし」

「ギルドマスターはお二人を疑っているんですか?」

「まさか。極めて模範的な冒険者だとは思っているよ。だが急に大金を持ち出してきたならその出所は把握しておかなければならない」


 ギルドマスターは指を折りながら可能性を挙げていく。


「ひとつは、先程あげた王国騎士団からの臨時収(チップ)入。金貨5枚も貰えるのだろうかという疑問は残るが、騎士様の()()()をした可能性も考慮すればあり得ない額では無い」

「騎士様の()()()って……あの二人に限ってそれは無い気もしますけど」

「次に、未知のダンジョンを発見してそこからで得たお宝を裏ルートで捌いていた場合。正直私が危惧しているのはこれだな」


 ギルドが把握していないダンジョンがあると、冒険者がそこに集中してしまう。結果、適切に依頼を割り振ることが出来なくなってしまうという事態になりかねない。そうならないためにダンジョンを見つけた冒険者にはギルドに対する報告義務はあるのだが、所謂密猟に手を染める者も少なくない。


「あとはもともとそれなりの金は持っていたとかだな。あの二人はどこかの貴族の関係者の可能性もあるんだろう?」

「そうですね。生真面目な部分や庶民の常識に疎いところ、あとは身体を大切にしているところなどで、育ちの良さを感じる事は多いです」


 少なくともそこらの冒険者より教養がある事は疑うべくもない。

 

「であればある程度の金は元々持っていたとしても不思議ではない。個人的にもそうであってほしいところだが……一応金の流れはできる範囲で確認しておいてくれ」

「分かりました」


 サティは手元のメモにやるべきことを記した。


「さて、それはそれとして一つ大きな問題が発生するな」

「問題ですか?」

「公共事業の依頼を積極的に受けてくれるという、貴重な人材が居なくなってしまう」

「ああ……」


 ギルドマスターの悲痛な呟きにサティは同意した。

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