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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第4章 鉢金傭兵団
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第56話 打ち上げのあとに

「ふう、疲れた」

「でも久しぶりにお腹いっぱい美味しいものを食べて満足だわ」

「アカは色々と食べてたね。私は飲んでばっかりだったから」

「ふふ、飲み比べさせられてたものね。それにしてもヒイロはお酒強いのね、酔っ払ってない?」

「ちょっと楽しい気分にはなってるけど、それくらいかな。アカこそ今日が初めてのお酒だったんだよね、大丈夫だった?」

「うん、特に問題無いかな」


 宿に戻ってきたアカとヒイロ。なんだかんだ気疲れしていたため、そのままベッドに身体を投げ出した。


 さほど酔っ払った感覚はないけれど、少し眠くはなる。


「お風呂どうしよ……」

「あー、面倒だね」

「ちょっとだけ寝ようかな。五分だけ」

「アカさんや、それは五分のつもりが朝までになるパターンですよ」

「おやおやヒイロさんもそう思いますか」

「間違いございません」

「だよねー。仕方ない、眠気に負ける前に行きますか」


 廃村に滞在していたときは村から少し離れた川で汗を流していたものの、この街に帰ってくる道中の三日間は軽く身体を拭くぐらいしか出来なかった。せっかく街に帰ってきたんだから今日はお風呂に入って汗と疲れを流したい。


 眠気に身を任せたい衝動をグッと堪えて中庭の井戸に向かった。


 ……。


 …………。


 ………………。


「ヒイロ、お腹みせて」

「へ? そんなまじまじと見られたら恥ずかしいな……」

「そういう事じゃ無くて」


 真剣な顔で注意してくるアカに対してヒイロは観念してお腹を見せる。アカはヒイロが刺されたところを念入りに確認する。


「もう傷跡も全然残ってないよ」

「そうね。個人的に心配してたのは傷口からバイキンが入って化膿とかしてないかなって事だったんだけどそれも大丈夫みたいで良かったわ」


 大袈裟だなあ。そう思ったけれどヒイロは口には出さなかった。アカが怒るのが目に見えているからだ。もちろん破傷風――まるで同じモノがこの世界にあるかは置いておいて――みたいなものに感染するのが危険であるのはヒイロも分かっているから、この傷も塞がり切る前にお酒(アルコール)をバシャバシャと掛けて消毒をした。だけど、既にしばらく様子を見て問題が無かったから良かった良かったと思っているヒイロと、最後まで安心は出来ないと考えているアカには温度差がある。


 というかヒイロから見て、アカはヒイロが傷付くことに対して物凄く抵抗があるように思える。端的に言えば過保護である。


 反面、アカ自身の怪我についてはかなり無頓着だ――鉢金傭兵団の入団試験で額を割られた時のように。


 ヒイロもどちらかと言えば自分のことなら大丈夫で、アカが怪我したりすると心配してしまうので、アカの気持ちも分からないではない。それに身体を気遣ってくれるのは素直に嬉しい。


 だけど、それにしてもちょっと不自然なくらいに心配してくれるんだよなあ。もしかすると何かトラウマでもあったりするのだろうか? 流石にそれをストレートに訊く無神経さは持ち合わせていないヒイロであった。


「うん、もう大丈夫そうだね」


 しばらくの間お腹と、貫通した背中側の傷があった場所をしげしげと観察したりさすってみたりしたアカであったが納得したように頷いた。


「良かった。アカ先生がそう言ってくれるなら安心だ」

「馬鹿言わないの、専門知識も何もない私の言葉なんて何の担保にもならないでしょ。あくまで見た限りは問題無いってだけよ。体調悪くなったらすぐに教えてね」

「はーい」


 そのまま身体を洗いお風呂に浸かる。ちなみにお酒を飲んだ後にお風呂に入るのは良く無いという知識は二人とも持ち合わせていなかった。とはいえ初めから殆ど酔っていないのでそこまで危険でも無かったのだけれど。


◇ ◇ ◇


「お風呂に入ったら目が冴えちゃった」

「あるあるだね」

「でも身体があったかいうちに寝た方がいいのよねえ」

「じゃあお布団に入っちゃおうよ」


 ヒイロがベッドに横になる。薄いシーツを掛けてほらほら、と隣を叩く。


「せっかく目が覚めたから荷物の整理でもしようと思ったんだけど……まあ明日でいいか」


 布団の中でヒイロとくっついて横になる。風呂上がりで熱った同士がくっつくと暑いのだけど、ヒイロとくっつく時の暑さは不思議と不快ではない。ヒイロ側も同じようで、布団の下で足も絡ませてくる。


 しばらく温もりを楽しんでいるとすーすーと規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやらヒイロは寝入ったようだ。


 なんだかんだお酒たくさん飲んでたし、眠かったのかな。気持ちよさそうに眠るヒイロの髪をそっと撫でると、気持ちよさそうな寝顔のままアカに抱きついてくる。


 ……そりゃあ求婚もされるよなぁ。だってかわいいもの。人見知りなクセに一度気を許すとグイグイくるあたりも、傭兵団の男性陣の心をグッと掴んだのだろう。


 団長から聞いた限りでは少なくとも二人、ヒイロに直接プロポーズして撃沈したらしい。本人から話してくれないのは少し寂しいが、仮にアカが誰かにプロポーズされたとしてもなんとなくヒイロには言い出しづらい気がする……聞かれれば答えるかなぁ。


 ちなみにヒイロの断り文句は「私にはアカがいますから」だったらしい。何言ってるんだと思いつつ、ちょっと嬉しくおもった自分が悔しい。


「私が居るって、どう言う意味なのかしら」


 眠るヒイロの頬をツンツンとつつく。


 一緒に日本に帰ろうって約束があるからそれを優先してくれているってだけかしら? それとも、それ以上の? もしそうだとして、自分はどう答えたい?


 ……いけない、思考が変な方に走る悪い癖が出始めた。


 アカはモヤモヤした気持ちを振り払うようにかぶりを振った。


 ヒイロが自分をどう思っているのか、逆に自分はヒイロをどう思っているのか。一人で考えていると気持ちがどんどん重くなる。


 共に日本に帰る手段を探す相棒で、同郷の友達で、しばしば身体を重ねる仲間という今の関係は正直に言ってとても心地よい。変に気を遣わずに済むし、日本人同士で価値観が近いし、セックスは気持ちいい。


 だからこそ、これ以上を求めて今の関係が崩れるのが怖いし、アカは意識してその先を考えないように努めている。


 ヒイロだってアカの事を相棒兼セフレとしか思ってない可能性があるわけだし、それで困っていない以上はそれでいいじゃないか。


 よし、納得できたぞ。変な想像終わり!


 アカは改めて眠るヒイロを見つめる。頬に軽くキスをすると、ぎゅっと抱きしめて眠りについた。

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