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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第4章 鉢金傭兵団
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第44話 入団テスト

「どっちからやる?」

「俺から行こう。ヘイゼルはまだ頭に血が上ってるみたいだからな」

「トマス! 俺にやらせろよ!」

「その頭を冷やせと言っている」


 ヒイロが挑発した男はヘイゼルというらしい。そしてもう一人のトマスが立ち上がり、アカの前に立った。


「ヘイゼルはそっちの嬢ちゃんの相手をしたいらしいからな、俺はアンタを指名させて貰おう」


 腰の剣には触らずに拳をポキポキと鳴らすトマス。身長は180センチくらいだろうか? アカより30センチも大きい。腕は丸太の様に太いし、胸板も分厚い。この屈強な筋肉は見掛け倒しでは無いのだろう。


「ここで?」

「安心しろ、多少の荒事は許可をとってある」


 言われてみれば、結構広い酒場の真ん中だけテーブルが無くてここでやり合ってくださいと言わんばかりである。


「アカ、頑張ってね!」


 ヒイロはアカにエールを送り、後ろに下がる。お前は自分の心配をした方がいいぞ。


「どうしたら認めて貰えるのかしら?」

「俺が判定してやる。共に戦える奴が欲しいって言っただろう? それを実力で示してくれればいい」


 団長が後ろから声を掛けた。アカは頷くと、トマスの前に立つ。


「武器を使っても良いぞ」

「じゃあ遠慮なく」


 メイスをポイと床に放った。相手が徒手空拳で向かってくるならメイスのリーチは邪魔になるのでナイフが良いだろう。アカは二本のナイフを逆手に持って構えた。


「ナイフ二刀流か」


 トマスは臆することなくアカに向き合った。


 ……。


 …………。


「はっ!」


 先に動いたのはアカである。出来れば相手の出方を窺いたかったけれど、向こうも武器を警戒して動いてくれないので仕方が無い。


 ナイフを持った手を突き出すが本命は脚だ。殴りつつ一足でトマスの懐に潜るとその脚に全力でローキックをお見舞いする。


(かった)……」

「フッ!」


 トマスがアカにフックを打ち込んでくる。アカは半歩下がってそれを躱わすとそのまま身体を屈めカエル飛びアッパーを繰り出した。


 ガンッ!


 アカのアッパーはトマスのガードに防がれる。トマスが手に付けている金属のガントレットを殴った痛みにアカの顔が歪む。


 トマスはアカの伸び切った身体に蹴りを入れて来た。躱せないと判断したアカは身体をくの字に曲げて蹴りの衝撃を逃しつつも、そのまま勢いよく壁に叩きつけられる。


 ドンッといい音がして壁が震える。アカは背中のダメージを確認しつつも間髪入れずに手に持ったナイフを投擲した。


 シュッ

  シュッ


 二本のナイフがトマスの急所を狙う。トマスは落ち着いてナイフを払い除け、再びアカに目線を戻すがアカは既に身体を低く保ちながらトマスに接近していた。


「うらぁっ!」


 接近しながら拾ったメイスを思い切り振り抜くアカ。その先端はガードの上からトマスの左腕をへし折らんばかりの音を立てる。


「ぐぅっ……!」

「もいっちょっ!」


 痛みに後ずさるトマスに、もう一度メイスを大きく振り抜く。しかし大振りの一撃は軌道を読まれ、その先端を右手で受け止められてしまう。


 瞬間、アカはメイスを手放して再度懐に潜り込んだ。


 そのまま勢いに体重を乗せて、鳩尾に肘打ちをお見舞いした。


「がはっ」


 ぐらりと揺れた巨大に、さらに追撃を仕掛けるアカ。しかしトマスはその場で踏みとどまると、床が抜けるほどの強さで右足を踏み込んだ。ズシンという衝撃が部屋全体に響く。


「おいトマスッ!」


 それはやり過ぎだ、と団長が制止しようとするが、この一瞬ではアカもトマスも止まれない。


 トマスの渾身のカウンター、右ストレートがアカに迫る。これを見てアカは、なんと敢えて額でこれを受けた。ズドンッ! と大砲の様な音と共にトマスの攻撃がアカに直撃する。その場にいた誰もが……攻撃を受けたアカでさえも、その頭が砕けたかと思った。しかし額は割れてそこから血を噴き出したものの、頭自体は原型を保っている。


 その硬さに目を丸くするトマスの隙を突いてアカは渾身の掌底を、アッパー気味にトマスの顎に叩き込んだ。


「こんな一撃……がっ??」


 顎から脳を揺らされたトマスはその場に膝を付く。マズい、これでは次の攻撃を躱せない。焦るトマスであったが、しかし覚悟したトドメの一撃は飛んでこなかった。疑問に思いなんとか顔を上げたトマスの目に入ったのは――


 ドサリ。


 ――力尽き倒れたアカの姿だった。


◇ ◇ ◇


「うっ……」


 目覚めたアカ。外はすっかり暗くなっている。


「ここは……痛ぅっ……」


 ズキズキと痛む頭に手を当てる。頭には包帯が巻かれており、額の部分にはガーゼのような厚手の布も当ててあった。


「おう、起きたか」


 どうやらアカは床に寝かされていたらしい。隣には椅子があり、団長が座っていた。


「アカっ!」


 向かいに座っていたヒイロが駆け寄ってくる。


「ヒイロ……」

「良かった! 目、覚めたっ!」


 涙目で抱きついてくるヒイロ。抱きつかれた衝撃がまた少し頭に響いたけれど、まあ心配してくれたという事で我慢しよう。


「えーっと、これはどういう状況かしら?」


 確か、実力を示すために戦って、


「そうだ、私、負けちゃったんだっけ」


 ここが勝負どころだと額で受けた攻撃が、想像の五倍ぐらいの衝撃だった。何とか踏みとどまって反撃をしたところまでは覚えているが、そのまま意識を失ったのだった。


「アカのバカっ! なんであんな危険な戦い方するの!?」


 ヒイロが鋭い視線でアカを咎める。


「それまでの攻防で、ある程度加減してくれてるなって感じて、だったらあのカウンターも魔力を集中すれば耐えられると思ったのよ」

「下手したら死んでたんだよ!?」

「だから悪かったって」


 まだ恨めしそうに睨むヒイロ。アカだってこんな事になるとは思わなかった。この読みの甘さが自分の未熟さなのだろうと反省する。


「目覚めたか」

 

 隣のテーブルからトマスがやって来る。


「済まなかった。想像以上に追い込まれて、つい戦技を使ってしまった」

「ああ、どおりで」


 痛かったわけだ。


「団長の制止も聞こえなかった……認めるよ、アンタは十分強い」


 トマスが頭を下げた。


「まあでも、結果的に私は負けちゃったわけで」

「合格だよ。大体トマスは鉢金傭兵団(ウチ)の副団長だ、戦技まで使って女に負けてもらっちゃ困るからな。アンタは十分実力を示した。よろしくな、()()


 そう言って団長が笑う。


「え、あ、はい。よろしくお願いします……」


 負けたのに認められてしまった。負けたら犯されちゃうという話を覚えていたので、逃げる機会を伺っていたアカは思わず拍子抜けである。


「良かったね、アカ!」

「え? うん、そうなんだけど。ちなみにヒイロはどうだったの?」

「今まさに戦ってる最中だよっ!」


 そう言ってコップを持ち上げるとその中身を一気に飲み干すヒイロ。ゴクッゴクッゴクッ、プハァ! と気持ちの良い音を立て、コップを逆さまにする。


「次っ!」

「まだまだぁっ!」


 テーブルの向かいでヘイゼルがコップに口をつける。既にかなり呑んでいる様で、顔は真っ赤だし体もフラフラしている。


 周りを観察すると、いくつかあるテーブルには屈強な男達――中でも団長、トマス、ヘイゼルは別格の逞しさではある――が囲んでやいやいと盛り上がっている。


「まさか、飲み比べ?」

「そう。アカが倒れたあと慌てて頭の治療をして、まあアカは合格ってなって、じゃあ次は私の番だねって話になったんだけど……」

「もう一人の副隊長の腕まで折られたら困るからな」


 ガッハッハと団長が笑った。アカの攻撃でトマスの腕は骨折かヒビか……とにかく光属性(かいふく)魔法を使っても全治二、三日の怪我になってしまったらしい。ヒイロが自分の実力もアカとトントンだと自己申告したところ、これ以上怪我人が出るのは看過できないとした団長がヒイロのテストを免除したとの事だ。


「それに異を唱えたのがヘイゼルさんで、だったら飲み比べて勝負だって事になって、そのまま他の団員さんも集まって酒盛りが始まって今に至るって感じ」


 ヒイロがそこまで説明したところで向こうのテーブルからドンッと音がした。


「の、呑んだぞぅ……、ヒイロ、おめぇーの番らっ」

「はーい」


 手渡されたコップを口に当て、風呂上がりに牛乳を飲むが如くゴクゴクと豪快に飲むヒイロ。お酒が入った木のコップは大ジョッキぐらいのサイズがあるが、、ものの十秒ほどでその中身を飲み干した。


「これ美味しい! おかわりっ!」


 飲み比べ中におかわりを要求する有様である。目を丸くする団員から次の――ヘイゼルのために用意された――コップを貰うと、今度は味わう様にコクコクと、美味しそうに飲んだ。


「あー、こんな美味しいもの飲むの、この世界に来てから初めてかも!」

「そんなに!?」


 満面の笑みで笑うヒイロ。そこまで言われるとアカも飲んでみたくなるが……。


「アカはだめ。これお酒だから、傷口が開いちゃうかもだし」

「ヒイロももう終わりだ。見てみろ」


 団長が指した先ではヘイゼルが潰れている。


「コイツもウチで一、二を争う酒豪のはずなんだがな。ヒイロは今後酒は禁止だな。うちの蓄えを全部飲まれちまう」

「あら、残念。じゃあ最後の一杯は味わって飲もう」


 あれだけ飲んでもケロリとしているヒイロ。相棒の意外な一面にアカは驚きを隠せなかった。


「野郎ども! そんなわけで今日からこのアカとヒイロが俺たちの仲間に加わる! 実力は説明した通りだし、ヒイロに至っては酒の強さも一級品だ!

 女だからって手を出すんじゃねぇぞ、ヤリたかったらコイツらより強くなれっ!」


 団長が宣言すると団員達はおおーっ! と大いに盛り上がる。待て待て、負けたら犯られるルールは継続かよ!? とアカは思ったけれど、隣にいるヒイロまで楽しそうにおーっと手を挙げていたので、なんだか焦るのも馬鹿馬鹿しくなってしまった。


◇ ◇ ◇


 その夜、宿に戻ったアカ。おでこの傷、ちゃんと消毒しておくかとちょっとだけ拝借してきたお酒(アルコール)を持って風呂に向かう。包帯とガーゼを外して、傷にお酒をかけて……、


「って、アレ?」

「ん? どうしたの?」

「ヒイロ、ちょっと私のおでこ見てくれる?」

「ああ、傷の消毒だね。どれどれ……あれ?」


 ヒイロもアカの額を見て首を傾げる。


「もう、治ってる……」

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