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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第3章 はじめての二人旅
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第42話 双月祭(※)

 冒険者ギルドに今日の掃除依頼の完了を報告したアカとヒイロ。サティが本日の報酬を手渡してくれる。


「はい、本日もお疲れ様でした」

「そうだサティさん、「双月祭」ってなんですか?」


 先ほど雑貨屋の店主に聞いた単語について訊ねるヒイロ。


「ああ、お二人は初めてでしたっけ。この街では双月、つまり二つの月が同時に満ちる夜に、お祭りを開くんです」

「ああ、そういう事か」


 双つの月が満月の夜か。この世界には月が二つあるが、半年に一度だけ同時に満月となる。この世界に来た夜がちょうど双月の夜で、魔導国家を目指して旅に出る前にギタンと見たのが二度目の双月、そして今日が三度目の双月というわけか。


 つまりアカとヒイロはこの世界の暦で丸一年過ごしたという事だ。この世界の一年は350日ぐらいだったはずで、日本の暦基準ではあと15日あるけれど、一年のカウントとしては双月を基準にすると分かりやすいだろう。


「双月の夜は魔物や獣も活発になるので街の外に出るのはお勧めしません。良かったら街の雰囲気を楽しんでみては?」

「そうさせて貰います。ありがとうございます」


 サティに礼を言ってギルドを出る。


「どうする? ちょっとぐらいお祭りを見てみる?」

「あまりハメは外せないけど、雰囲気を楽しむぐらいならいいかな。この世界のお祭りってものにも興味あるし」


 一度宿に戻って荷物を置き、軽く夕食をとる。日が落ちてから宿の外に出てみるとなるほど確かに街全体が浮ついた雰囲気に包まれている。どこからか耳慣れない音楽も聞こえてきた。


「笛の音かしら?」

「弦楽器もあるっぽいね」

「なんか聞いた事あるようなフレーズな気がする……」

「曲調はちがうけど、これ『さくら さくら』じゃない?」

「ああ、ララシーララシー、確かに!」


 懐かしくも何処か違う旋律に導かれるように街を歩くと、楽器を演奏する集団が目に入った。縦笛と箏を立てたような弦楽器、そして太鼓など、どこかで見たことがありそうで無い楽器を楽しげに弾いている楽団の周りには様々な人が集まり楽しげに眺めている。


 もう夜だというのに外は未だに明るく、昼のようだとまでは行かなくても周りがよく見える。気が付けばなんとなく男女のペアが多い気がするのは、この世界の人達もやはり特別な夜には特別な相手と過ごしたいと思うのだろうか。


 そのまま街を練り歩いたアカとヒイロ。ところどころで歌や楽器を演奏する人達を見ては「あの曲に似てる」とか「私達も日本の曲を演奏したら人気が出るかな」などの会話で盛り上がった。料理や酒を楽しめる屋台も出ていたが、まだまだ散財するわけにいかない二人はぐっと我慢する。


 一時間ほど街を歩き雰囲気を楽しんだ二人は宿に戻ってきた。楽しげに食事とお酒を楽しんでいる集団がいる食堂の横を抜けて自室に戻ると、他の人が祭りを楽しんでいる隙にと手早く風呂を済ませた。


「思ったより楽しかったわね」


 風呂上がり、アカが窓の方を見ながら感想を述べる。


「うん。なんか街全体が幻想的な雰囲気で……アカ、気付いた? カップルもいっぱい居たよ」

「そりゃ気付いたけど、あまりジロジロ見たらだめよ?」

「あの人たちはお互いしか目に入って無いから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃなくない?」


 それもそっかと笑うヒイロ。アカもつられて表情を崩す。ひとしきり笑うと、ヒイロは窓の横に立って空を見上げた。


「もう一年なんだね……」


 アカも隣に立って双つの月を見上げる。


「結局、何の手掛かりもないまま一年が過ぎちゃった」

「魔導国家の名前と、あとは間にもう二つ国を挟んでいるって事ぐらいしか分かってないね。この街での足止めももう半年近くになるね」

「本屋さんと仲良くなれて、地理について自然に聞けたし地図も見せてもらえたのはありがたかったわね。ただ、未だに目標の半分くらいしか貯金できて無いのよねぇ……」


 船で南の隣国に渡るために稼がなければならない金貨1枚、二人の貯金は半年近くかけてやっと折り返し地点だった。


「でもさ、コツコツと貯まっては来てるわけだし。次の双月までには海を渡れるといいね」


 ヒイロが笑って答える。この一年、彼女のこういう前向きなところに何度も助けられてきた。実はアカは悪い想像を膨らませて悩んでしまうタイプであるが、常に一緒にいるヒイロが明るく前向きな姿勢を崩さないので、ずっとそれに励まされているのだ。


 ヒイロに釣られて笑ったアカは、改めて夜空を見上げる。双つの月がある光景。それは日本人の感覚からすれば異常極まりないが、それ自体にはもうすっかり慣れてしまった自分に気付く。知らず知らずのうちにこの世界に染まって来ているのだろうか……。ヒイロはどう感じているのだろう。そう思って隣をみると、同じタイミングでヒイロもアカの方を見る。

 

 月に照らされたお互いの視線が交わる。


 ――なんて、きれい――


 月に照らされたヒイロは美しかった。風呂上がりで微かに火照り上気した顔。さらりとした髪がほんのり風に揺れ、潤んだ大きな瞳は真っ直ぐにアカを見つめる。


 思わず息を呑むアカ。お互いに目を離せずにいると、ヒイロは何かに導かれるようにアカの頬に手を沿える。


「ヒイロ……?」

「アカ……」


 そのままヒイロはゆっくりと目を閉じた。唇をほんの少しだけ前に突き出したように見えたのは気のせいか、それともそうあって欲しいというアカの願望か。吸い込まれるようにそこに唇を重ねた。


「ん……」

「ん、はむっ、ちゅ、んむ、……」


 控えめに唇を重ねたつもりのアカだったが、ヒイロは貪欲に彼女に応える。啄み、舐め、味わうようにキスを繰り返してきた。


「ヒ、ヒイロ……?」

「アカ……、アカぁ……」


 ヒイロはそのままアカに抱きついてくる。その表情はトロンとして、まるで酒にでも酔っているかのようだ。そしてアカは、その瞳に映る自分も同じようにだらしない表情をしていることに気付く。


 なし崩し的にベッドに倒れ込む。ヒイロはアカに覆い被さるような体制で、しゃぶりつくようにアカの唇を味わう。気がつくとヒイロの手はアカの服の下に入り、身体中を弄っていた。


「っ、ヒイロ……」

「ちゅぅ……あむっ……んぐ、はぅ……」


 やめないと。ヒイロは決して強く押さえつけて来ているわけでは無いので強く拒絶すれば離れてくれるだろう。


「んっ……んっ……んんっ……」

「ちゅむ、ちゅう……はむぅ……」


 だけど、それが出来ない。それどころかアカはもっとヒイロに犯されたいと願っている自分に気付いた。伺うようにじれったく身体を触られるのではなく、もっと、全身で、ヒイロの体温を感じたい。


「ヒイロっ! ちょっと、ちょっとだけ待って!」

「待てないよぉ……っ!」

「その、服、脱ぎたいからっ」

「アカ……?」


 強引にヒイロの体を起こし、自分も上体を持ち上げるとそのままシャツを脱ぎ捨てる。ギリギリ残ってた理性で服を破かないように――それでもかなり乱暴に――脱ぎ捨て、生まれたままの姿になった2人は無我夢中でお互いを求め合った。

 

◇ ◇ ◇


 さんざん身体を重ね合って、アカはもう動けなかった。腰から下に力が入らない。服を取ろうにも、ベッドから体を起こすのも億劫だ。


 隣にいるヒイロも同様なようで、お互いシーツでカラダを隠した格好でぐったりとしている。


「私、初めてだったんだけど」


 なんとなく恨みがましく口にする。セックスどころかキスすらした事なかった。だというのに恋人でも無い、それどころか女の子(同性)相手に最後までしてしまった。今思い出しても自分でも信じられないけれど、さっきまではまるで本能がヒイロを求めているかのようで衝動が抑えられなかった。


「わ、私だってそうだよ」


 ヒイロが慌てた様子で弁解する。


「そうなの? そのわりには、なんというかその、上手だったような気がするんだけど」

「それはほら、実践経験は無くても漫画とかで見て知ってたりするから……」

「え……? 私も漫画は読むけどそういうシーンってあんまり詳しくは描いてなくない? ヒイロってどんな漫画読んでるのよ……?」

「ち、ちがうの! 私、お兄ちゃんがいるから、少年漫画とかも読んだりして、その中にたまにだよ? ちょっとえっちな部分とかあったりするからっ!」


 顔を真っ赤にして慌てて手を振るヒイロ。そのまま俯いてしまう。


「だから別に、経験豊富なわけじゃないから……」


 シーツに顔を埋めて恥ずかしそうに呟くヒイロがなんだかかわいくて、アカはその頭を優しく撫でる。


「そんな風には思わないわよ。ただ、私ばっかり気持ちよかったなら、ちょっと申し訳なかったかなって思っただけ。私はそんなに上手にできなかったから……」

「そんなことないよ! 私もちゃんと気持ち良かったから!」


 ガバッと顔を上げて謎のフォローするヒイロ。


「それはそれで恥ずかしいかも」

「あ、そっか……」

「だけど、うん、ありがとう」


 初めてだから上手なピロートークの仕方もわからない。だけど、お互いに相手を傷付けないように気遣っているのが分かるから、この空気はなんとなく心地良かった。


「うふふ」

「アカ?」

「あ、ごめんね。なんだかさっきまでと雰囲気が違いすぎてなんだかおかしくなっちゃって」

「雰囲気って。それを言ったらアカも全然違うじゃ無い」

「そうかも。もしかしてそれが普通なの? ヒイロが読んだ漫画ではどうだった?」

「知らないよ、もぅ!」


 わざとらしく頬を膨らませるヒイロ。そんな仕草が可愛くて、また笑ってしまう。そんなアカにヒイロもつられて笑った。


 良かった、勢いでやっちゃったけど、気まずい感じにならずに済みそうだ。

ここで第3章は終了となります。


時系列的には 2章→3章→1章 →ずっと先→ プロローグとなっています。分かりづらいかなとも思いましたが、一番最初に2章(転移直後)を持ってくるよりまずはきちんと活躍するところを読んで頂きたいと思っての構成となっていました。

ここで初エッチした二人はこの後も身体だけの関係(!)を続けつつ暫く依頼を受けて、1章のゴブリン騒動に繋がります。


4章では時間軸はまた1章の後に戻りますが、その前にプロローグで匂わせたクラスメイト達の話が少し挟まります。


「面白い!」「続き読みたい!」「えちちな展開ktkr!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

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