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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第3章 はじめての二人旅
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第37話 港街への到着

「オッス、邪魔するぞ」


 ガラの悪い二人組はアカとヒイロが休む空き家に押し入った。


「あれ、誰も居ない?」

「店主の野郎、俺たちをだまし――ガッ!?」


 無警戒に部屋の中央に入った二人組。扉の陰に隠れていたアカは手前側にいた男の後頭部に容赦無くメイスを叩きつけた。


 勢いよく壁に吹っ飛ばされる男。そのまま力無くずるりと崩れ落ちる。


「お、おい! 大丈夫か!? 一体なに――グフっ!」


 仲間に駆け寄った男の脳天を、今度は近くに居たヒイロのメイスが叩き割る。


 男達はこの家に入ってものの十秒で絶命した。


「誰だったのかしらね」

「まあ野盗の類じゃないの? 冒険者かな?」


 ヒイロは男達の首元を確認するが、冒険者証は見つからなかった。全員が首から下げているわけでも無いらしいが、まあここに無いなら無理に探さなくても良いだろう。


「アイツ、やっぱりグルかな?」

「ここで私達を襲わせるメリットあるかしら。港街まではあと二日あるのよ?」

「とりあえず吐かせるか」


 脳天を砕かれた男の死体を引きずって隣の空き家に向かう。日本にいた頃なら確実に逮捕される絵面だななんて思ってみた。


「結構グロいわよね」

「アカ、苦手?」

「もともと得意では無かったけど。でもこの世界じゃそんな事も言ってられないのよね。ヒイロこそ、ほんの何ヶ月か前は野ウサギを解体するのも半ベソかいてたのにね」

「ほら、私って環境適応型じゃん?」

「それは初耳」


 というか何の型だろう? でも実際問題、仮にヒイロが動物さん殺すのはかわいそうだよぉ……とか言って何もしないような子だったらきっと共に旅をしようとは思っていなかっただろう。そういう意味では割り切って行動してくれるヒイロと共にいるのは、居心地がいい。


 でも自分とは何か違うな、とアカは思う。


 アカの場合は「嫌なことでもやらなければならない事に対しては後回しにしない」主義なだけで、異世界に来てからはそれを徹底しているだけのだが、ヒイロはなんというか与えられた状況を受け入れる能力が高いと思う。彼女はこの世界のルールとか常識とかを受け入れた上で自然にそれをしているように見える。でもそれって正しいのかな……?


「……アカ?」

「ううん、何でも無い」


 アカは首を振った。ヒイロがどういうスタンスであろうと、こうして一緒に旅をすることができているならそれで良いじゃ無いか。だいたいアカだって、自分の事で精一杯なのだから。


◇ ◇ ◇


「許してくれっ! アンタ達を売ったつもりはなかったんだ!」

「そんなこと言われてもね。コイツらがこの家に一度入って、そのあとこっちに来たのは私達も見てるわけだから」

「まあ昨日の意趣返しでならず者をけしかけたと思われても仕方の無いシチュエーションじゃない?」


 男達の死体を前に土下座をする店主。この世界でも詫びのポーズは土下座なんだとちょっと感動する。


「断じて違う! アイツらはいつもこの空き家で待ち伏せをしていて、普段は俺からカネと酒をせしめて例の三人組と朝まで酒盛りをするんだ。今日もアイツらが居なくて、代わりにお前達と話をするため家に行ったんだと思う!」


 必死で言い訳をするぼったくり店主。


「私達にはこんな臭い人たちと話したい事なんてなかったけど」

「大体話をしようっていうなら普通ノックのひとつはするでしょ。よその家に勝手に入ったら強盗と判断されて、こんな風に殺されても文句言えないんだし」


 ヒイロは男達の死体を軽く蹴る。ガタガタと震える店主に追い討ちをかけていく。

 

「それで、実際のところどうなの? 正直に話さないなら私たちとしてはあなたをその剣で殺しても構わないんだけど。野盗に襲われた依頼人を守りきれませんでしたけどなんとか撃退は出来ましたと報告も出来るわけだし」


 アカが男達の腰の剣を抜いて店主に向けたところで、彼は全てを白状した。


 ……。


 …………。


「ふーん、一応筋は通ってるわね」

「特に「私達に予め警告して男達の恨みう買うより、昨日の意趣返しも兼ねて、襲撃されるのをわかってて敢えて見逃した」って部分がリアリティあるね」

「俺にはどうしようもなかったんだ……許してくれ……」


 店主もこの二人や先の三人の被害者だったというストーリーにはそれなりに説得力があるとは思う。


「で、どうするの?」

「別に殺さなくても良いんじゃ無い? 襲ってきた相手ならまだしも、ちょっと気に入らないぐらいの相手を殺し始めたら私達あっという間にシリアルキラーだよ」

店主(この人)を許すのは前提として。えっと、何というか……」


 アカの脳裏にはある単語が浮かんでいるが、それを口に出すとヤクザというかそこらのヤンキーみたいだなと思って躊躇ってしまう。だがヒイロはピンときたようで躊躇いなく口に出した。


「ああ、誠意を見せろってやつだね!」


 ポンと手を叩いたヒイロは、改めて店主を見てヤンキー座りをしながら問い詰める。


「じゃあ、私達に対してどう誠意を見せてくれるかな?」


◇ ◇ ◇


 結局、アカとヒイロは襲ってきた二人組の持ち物をもらう事で手打ちとした。とはいえ現金は店主から巻き上げた銀貨数枚以外は小銭程度しか持っていなかったので、彼らの装備や家にあった手荷物などを店主に買い取らせてその分の現金を受け取ることにする。


 この男達の所持品の査定は店主任せではあったけれど、あれだけ脅せば正直な金額を申告するだろうし、仮にこの期に及んで誤魔化すようならそれはそれで大した商魂だといっそ感心できる。アカとヒイロが納得できる金額を提示したのでそこについてはこれ以上何か言うつもりはない。


 あとついで? に男達の死体の処理も押し付けた。自分達の火属性魔法で燃やしてしまえば早いけれど、この世界流の埋葬を見ておきたかったというのもある。まあ特別な埋葬方法があるわけでもなく、家の裏に穴を掘ってそこに身ぐるみを剥がした死体を埋めるだけだったけれど。


 店主は明け方まで一人で穴を掘るハメになったけれど、まあ今後はコイツらにカツアゲされる事も無いということでそれを思えばまだマシな気持ちで肉体労働ができたのではなかろうか。


 残り二日の道中はすっかりアカとヒイロに頭が上がらなくなった店主と共に大きなトラブルも無く過ごすことが出来た。


 四日目も夕方に差し掛かろうかという頃、ついに目的地が目に入る。


「あれが……」

「ああ、港街ニッケだ」


 ハノイの街とは比べ物にならないほど大きく、また活気がある街であった。


 港には何隻もの船が停泊しており、なにやら荷物を乗せたり積んだりとしているのが見えるし、そこから街並みに向かってる人の流れがある事が遠目にもよくわかる。


 海岸線沿い建物が並び、そこから内陸に向けて標高が上がっていく土地に階段のように建物が建っていっている様子は、むかしテレビの外国を紹介する番組で見たイタリアのシチリア島の海岸沿いの街を思い出させた。


「あの船に乗って南の国に行けるのかな」

「どうだろう? 商船っぽい気もするけれど」

「なんだ、アンタら国を渡りたいのか?」


 店主の言葉に頷く。


「いま自分で言った通り、あの港から出るのは基本的に商船だ。お貴族様は自前の船を持っていてそれに乗って南の国に行ったりもするがそうで無い庶民は基本的に海を渡れるのは船を持った商人だけって事になるな。まあほとんどの人間は商売以外で別の国に……それもわざわざ船に乗っていく事なんてないからな」

「じゃあそれでも船で南の国に行きたい場合はどうすれば良いの?」

「簡単さ。商人に乗せて貰えば良い。アンタらの場合は船乗りの娼婦として出稼ぎさせてくれと言えば二つ返事で乗せてもらえるだろう。事実そうやって稼いでる女は多い」

「ふーん。ちなみに男の場合はどうやって乗せてもらうの?」

「そうだな、労働力を提供するのが一番安上がりだが、船乗りってのはとんでもない力仕事だ。それに女と違って幾らでも代わりが効くからかなり使い潰される。波次第だが十日ほどの航海だが、生半可な奴はそれを待たずに過労で死んで魚の餌になるだろうな。男がお忍びの貴族だったりする場合は金を払って乗せてもらう事になる」

「貴族じゃなくてもお金を払えば乗せてくれるなら、そっちの方がいいじゃない」

「バカ言っちゃいけねぇよ。貴族なら乗れるのは単純な金払いが良いからだ。ひとり金貨1枚(約100万円)くらいで乗せてもらえるなんて考えるなよ? 恐らく相場はその倍からだ。素直に身体を売ればタダで海を渡れる上に降りる頃にはチップで銀貨30枚(約30万円)増えていたなんて事も珍しく無いんだから、そっちをオススメするね」


 船に乗るにも一筋縄では行かなさそうだ。


 街の門をくぐりながら、アカとヒイロは新しい環境に思いを馳せた。

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