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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第3章 はじめての二人旅
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第33話 お掃除完了

 不埒な襲撃者達の死体を目の前の焼却炉に放り込む。


「なんか、証拠隠滅するみたいだね」

「みたいっていうか、実際そうだし」


 アカは手に魔力を集中して炎を放つ。ゴウっと炎が唸りを上げて男達の死体を包む。肉が焼ける不快な臭いが鼻の奥をつくが、我慢して燃やし続ける。


 一分もかからずに焼却炉の中は真っ黒な炭と灰だけになった。


「アカ、大丈夫?」


 ヒイロがアカの手を握る。


「うん、思ったよりなんて事ないと感じてる……。ヒイロこそ平気だった?」

「私も平気だよ」


 人の命を奪うと言う行為にもっと動揺や後悔があるものかと思ったけれど、魔獣を狩って解体した時とさほど変わらない感覚である。ようは人に害する獣を処理した時のような気分で、命を奪う行為自体に対する嫌悪はあれどその対象が人でも獣でも変わらない。


「あれがそれなりな信念を持って私達を襲ってきた人とかならまた違ったのかも」

「ああ、それはあるかも。清々しいクズっぽかったから罪悪感が無くて済んでいるのかもね」


 言いながら、ヒイロは持ってきた魔石を焼却炉にポイと投げ入れる。これは村からこの街への道中で狩った魔獣から採ったもので、お金に困ったら換金しようと思っていた。とりあえず公共事業の依頼をこなしている間は食と宿は保証してもらえるとの事だったので燃やしてみても良いかと判断したのだった。


「アカ、燃やしてみて」

「私で良いの?」

「うん、ならず者達を燃やした時との違いって意味でアカがやった方が気付き易いかなと」

「なるほどね」


 アカは手を翳して再び焼却炉に火をつける。


「あ、これ明らかに違うわ」

「そうなの?」

「うん、なんか魔石の部分だけ固く包装された着火剤が置いてあるみたいな感覚っていうのかな? 魔石そのものは燃えづらいんだけど、その包装を突き抜けたら内側の魔石が持つ魔力自体が勝手に燃えるって感じ。ヒイロもやってみるといいと思うわ」

「アカの説明っていつも具体的で分かりやすいよね」

「そうかな?」

「うん、先生とか向いてるんじゃないかな」


 ヒイロは魔石をもうひとつ、焼却炉に投げた。既にアカの火は消えているのでヒイロも魔力を込めて火をつける。


「ああ、意識すると分かるって感じだね。でもこれが大量にあったなら流石に気付くし、やっぱり私達が魔石を燃やしたっていうのは完全に言いがかりだって事だね」

「まあそういう事でいいんじゃない? だとするとそもそもなんで私達に絡んできたのかなって疑問は残るんだけど」

「計画性の無さそうな奴らだったし、ここに魔石を置いたつもりで別の場所だったとか、そもそも碌に貯めてなかったとかそんなところじゃない?」


 実際男達が何を考えてアカとヒイロを襲撃したのか、今となっては分からない。ただ、当面の危機は去ったし魔石を燃やした際の感覚も掴む事ができた。今回の騒動については一件落着といえるだろう。


◇ ◇ ◇


 翌日以降もアカとヒイロはメインストリートの掃除に精を出す。毎朝作業を始める前にギルドに顔を出して、その日の作業を終えたら進捗を報告する――依頼中の宿代(食事付)をギルドが負担してくれて居るので、サボっていないかの確認である。


 とはいえアカとヒイロの目的はさっさと全ての依頼を完遂してCランクへ昇級、必要物資を補給して隣の港街へ旅立つ事である。ギルドが生活費を出してくれるからとダラダラ時間を浪費するつもりは無いので至って真面目に掃除を進めた。四日目にはメインストリートの草刈りとゴミ拾いが終わり、今は石畳をデッキブラシのようなものでごしごしと磨いている。


「アカさん、ヒイロさん、休憩しませんか?」


 ニコルに声を掛けられて顔を上げる。気が付くと太陽は空高く上がっていた。この世界の人はお昼ご飯を食べる習慣が無いらしいが、日中に軽くお茶を飲んで休憩をしたりする。


「じゃあお言葉に甘えようかな。ヒイロ、休憩だって」

「やった、待ってました」


 日陰に腰掛けてニコルが持って来たお茶を飲みつつ談笑をする。


「お掃除は順調ですか?」

「そうですね。石畳の汚れは余程酷いところ以外は割り切ってるので、このペースなら明日には終わるかなと」

「雑草と道に落ちてるゴミが無くなっただけでかなり見栄えも良くなるものですね」

「みんなもっとメインストリートを使えばこんなに荒れないのに、裏路地ばっかり使ってるから雑草も伸び放題なんですよ」

「うーん……どの街もメインストリートって旅する冒険者や商人の荷馬車が通るもので、住人はあまり使わないんですよね」


 つまり他所の人間があまり来ないこの街はメインストリートの使用頻度が低いというわけだ。


「でも港街と王都を行き来する場合はこの街が通過点になるんじゃ無いんですか?」

「そうそう、海の幸の輸送だけでも商人が通りそうなものだけど」

「確かに以前は通過だけでもしてくれる人が居たんですが、数年前に別ルートが出来ちゃったんですよね。港街からここまで四日、隣町まで五日の距離なので丁度ここが中継地点になっていたんですけど、その別ルートだとここを通らずに七日で行けちゃうんですよ。七日の距離なら頑張ろうかってみんな思っちゃうんですよね」


 なるほど。昔の日本でも交通が発達することで宿場町が廃れるという事例があったりしたけれど、このハノイの街もまさにその過渡期にあるということか。


 アカが知る歴史において、この手の衰退を止める手段は基本的に無い。温泉でも湧けば観光地として行けていくことはできるかも知れないけれど、そもそもこの世界の人が温泉に浸かるために何日もかけて旅をするかどうかは分からない。


「それで物価が高かったり冒険者にぼったくり価格で売ったりしてるんですね」

「それは……まあ、商店も厳しいんです。商人も別ルートを通りたがるので仕入れ値を上げざるを得なくて、それが物価に反映されちゃうんですよね。とはいえ書いてある価格の十倍で売ろうとするって言うのは流石に擁護出来ませんが」


 ヒイロとニコルの会話を聞きながら、それって他の商人や冒険者もこの街を敬遠して別ルートを使うようになるわけだからどう考えても悪循環だよなぁと、この街の暗い未来に想いを馳せるアカであった。


「さて、じゃあ残りのお掃除頑張りますか!」

「はーい」

「それでは私はギルドに戻りますね。今日の仕事が終わったらまたご報告をお待ちしております」


 まあこの街の経済をなんとかするのは領主の役目である。このまま廃れても、奇跡的な盛り返しを見せたとしても自分には関係ないことだ。少なくとも自分達が滞在している間に破綻することは無いだろうし、やる事やってさっさとおさらばしよう。


 ……こうしてお茶を飲む程度には仲良くなったニコル(知り合い)の行く末は気になるが、今のアカ達は自分達の面倒を見るだけで精一杯なのだ。気にしても仕方ないだろう。


◇ ◇ ◇


 翌日には予定通り石畳磨きも終了する。


「お疲れ様でした。それでは街のメインストリートの清掃については、依頼完了となります」


 ニコルから報酬として銀貨一枚(約1万円)を手渡される。二人がかりで五日間かけてこれは、確かにやる人間は居ないよなぁと思った。


 何はともあれ、アカとヒイロは初めての依頼を無事、完遂したというわけだ。

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