第30話 冒険者ランク:つまり解説回
「まず、冒険者証というのは基本的にこの国内に限定で効果があるものです」
「隣の国に行ったら使えないっていう事ですか?」
「はい。まあ隣の国に名前が知れ渡るくらいの有名冒険者になれば話は違いますが、普通は国が変われば新人からやり直しです」
「へぇ……それは知らなかったわ」
「なので例えば全財産をはたいて隣の国に渡って、そこで依頼をこなそうとこの国の冒険者証を出しても依頼は受けられないというわけです。登録料は国によって違いますが、最低限のお金は残しておかないとまともに稼ぐことすら出来なくなります」
「なるほど、勉強になります」
「さて、冒険者証ですが……そうですね、アカさんのカードを借りてもいいですか?」
アカは先ほど受け取ったカードを渡す。
「この国でしか使えないと言いましたが、取り扱いルールや階級についてはどの国でも共通です。たとえばこのカード、失くすと再発行は出来ません。その場合は改めて1から登録し直してもらう事になります」
「厳しいですね」
「不正防止のためにやむを得ない規則です。例えばアカさんが王都のギルド支部に行ってこれを失くしたと申告します。その際、ランクを偽ったとしてもその真偽を確かめる方法が私達にはないんですよ」
「逆にこの街のギルド支部ならわかるんじゃないですか?」
「まあここみたいに小さな支部からそうなんですけどね、王都のように大きな支部だと利用する冒険者も多いのでそうなると一人一人を覚えていられないって事なんだと思います」
つまり例外や裁量を認めるとミスや不正の温床になり得るということか。
「それってつまり私たちが他の人のギルドカードを使っても分からないってことですか?」
「まあそうなっちゃいますね。上級ぐらいまでだと顔と名前が一致されていない冒険者の方も多いので、人のカードを奪ったりっていうのは正直あり得る話だと思います」
さすがに貴族級になればそんなこともないんですけどねと付け加えるが、まあ日本でも最近は他人のカードの不正利用とか聞いたことはあるし仕方のない側面もありそうだ。
「じゃあコレ、扱いにはもの凄く注意しないといけないですね」
「そうですね。ここに穴が空いてるじゃないですか、細い鎖を通して首から下げるのをお勧めします。ちなみに鎖はギルド支部でも売っていますよ」
アカとヒイロは忠告通り鎖を買ってカードの穴に通す。ヒイロはさっさと首から下げて服の中にしまい、そのままサラシと胸の間に差し込んだ。
「鎖がちょっと長いかな」
「あとで調整した方が良いわね」
「では次にランクの説明をさせて頂きますね。まずお二人のカードはいま現在、名前の下に何も書かれていません。階級が上がるとここに星のマークが付きます。先ほど名前を打ち込んだ魔道具で追加する形になりますね」
トン、とアカのカードの名前の下の余白を指で叩く。
「星は最大で四つ付きますが、ギルドで付けることができるのは三つまでとなっています」
「四つ目は別の組織に委任しているというわけですか?」
「はい。四つ星は王家から叙勲される事になります」
「王家って……国で一番偉い、あの王家?」
「はい、その王家です」
順番に説明しますね、と言って階級の下から順に詳しく説明をしてくれる。
○星無し(Dランク):新人冒険者
初期登録時のランク。受けられる依頼の種類がかなり制限され、常駐依頼の採取・狩猟・魔物討伐・公共事業ぐらいしか受けることができない。
ギルドに冒険者として信用できると認められると星を貰うことができる。依頼一つ1点として30点貯めることが目安だが、採取・狩猟・魔物討伐・公共事業をバランス良くこなしている場合は10点ほどで昇格可能。新人と言いつつ、全冒険者の一割は星を得られずに消えていく。
○一つ星(Cランク):一般冒険者
全体の八割がここに位置する。受けられる依頼の制限がほとんど無くなり超重要案件以外は受注可能になる。
次のランクへの昇級条件は厳しく、ギルドが高難易度と判断した依頼をきちんとこなすことで1点が加算、100点を目安に昇級となるがただ点数を貯めるだけではダメで、他の冒険者と組んで依頼をこなす、直近の一年に10点以上稼げない場合は一度点数がリセットされる、などの条件もクリアする必要がある。
○二つ星(Bランク):上級冒険者
一般的にここがトップ。ギルドにて募集される依頼の受注制限が無くなる。超重要案件などをギルド側から打診するようになるので収入はCランク時の五倍にも十倍にもなる。超重要案件の中には貴族からの依頼などもあり、それをこなしていく事で貴族側からの指名依頼を取れるようになると昇級となる。ただし、そのまま貴族に専属として召し抱えられてしまった場合は貴族の雇用となってしまうので星は増えない。
○ 三つ星(Aランク):貴族級
どの国でも一、二パーティの十数人程度しかいない。
Bランク冒険者が貴族の信頼を勝ち取りつつも、直接取り込まれずになお冒険者で居続ける意志と実力を持っている場合にギルドが昇級させる。Bランクからの昇級について明確なポイント制度があるわけではなく、貴族とのやりとりなどを見てギルドが総合的に判断する。
中途半端な実力しかないのに貴族の直接雇用を断るような失礼な輩は貴族の不興を買って潰される事になるので、そういった表と裏の妨害を跳ね除ける確かな実力があるという証明にはなっている。
○四つ星(Sランク):王家御用達
Aランク冒険者が国家の危機を救ったなど特別な事があった場合に王家から叙勲される。王家の気まぐれや独自裁定で最高ランク冒険者が量産されないように、そもそもSランクに上がれるのはAランクからだけである。B〜Dランクの冒険者がどんな活躍をしたとしてもSランクに上がることは出来ない。
一応、王家が冒険者ギルドに依頼をする場合は最優先でSランク冒険者に対応させるという決まりがありほぼSランクへの指名依頼となるのだが、そもそも王家が冒険家ギルドに依頼を出す事がまず無いので実質的には名誉職。
「つまり冒険者として一旗あげるっていうのはBランクがゴールって認識になるのかしら?」
「そこは人によりますね。貴族に召し抱えられて安定した給金を得られる環境になることを目指す人もいるし、国の英雄になって歴史に名を残したいって人もいます」
「なるほどね」
「アカさん達は特に何か目指しているわけでは無いんですか?」
「私達は最低限の収入が得られればいいのと、あとはギルド内の道具店を使わせて貰うのが目的なので」
「え? わざわざここの店を使うために登録料を払ったんですか? 私が言うのもあれですけどここって街の商店より品揃えも悪いしマージン取ってるし、良い事ないですよ?」
「それは分かっているんですけど……」
アカ達はそもそも隣の港町を目指していたが、物資の補給をしようと商店へ赴いた際に門前払いにされた経緯を説明する。受付嬢は苦い顔をした。
「ただでさえお客さんが少ないのにそんな横暴な事してるからこの街にくる人がどんどん減っていくんですよね。分かりました、アカさん達の分はギルドが仕入れてマージンを割り引いてお譲りします」
「いいんですか!?」
「勿論です。冒険者をお助けするのがギルドの仕事ですので。ただ、代わりといってはなんですが、この街でCランクに昇級するまで依頼を受けて頂けないでしょうか?」
受付嬢は一度カウンターに戻ると依頼票の束を持ってきた。
「これ、この街の公共事業依頼なんですが、受けて頂ける冒険者が居なくて溜まる一方なんです。こういう仕事って誰もやってくれないと最後にはギルドの職員がボランティアでやらされるハメになるので……」
例えばコレ、といってアカに手渡した依頼票は街のメインストリートの掃除であった。その他にも壊れた井戸の修理や外壁の補修、冒険者ギルドの業務補助なんてものもある。
「これ、全部こなして頂けたらCランクへ昇級させて頂きます」
「うーん、報酬がほとんどお小遣い程度だし、これだと宿代と食事代も出せないから物理的に難しいと思うんですが……」
「たぶん何十日か、掛かると思うのでその期間のお二人の宿と食費はギルド側が経費で負担します。というか初めからその条件で募集してるんですが、それでもやってくれる人がいないんですよ」
「ですって。どうする?」
アカはヒイロに意見を求める。
「宿と食費を負担してもらえるならありじゃない? 急いで港街に行く理由も無いんだし、そこで同じようにDランクでポイントを稼いでいくよりもこの依頼の束をこなせばCランクになれるっていうのも分かりやすいと思うよ」
ヒイロは依頼の束に目を通しつつ答える。アカも同じ意見だった。
「じゃあ決まりね。この公共事業の依頼の束、受注させて頂きます。えっと……」
「ありがとうございます! あ、私の名前はニコルって言います。アカさんにヒイロさん、暫くの間よろしくお願いしますね」
ニコルはにっこりと笑って受注処理を進めた。笑
第1章から登場していた冒険者ランクですが、現地の人達は「星無し」「一つ星」「二つ星」など星の数で話しています。ただ、良くあるD〜S方式のランクの方が読む方は分かりやすいかな? とも思います。
そこでこの問題に対する解決として、登場人物達は星の数で会話してるけれど、日本人のアカとヒイロは脳内でD〜Sに変換している(声に出す時は現地の言葉で星の数で会話している)という形式をとることにしました。
つまり本文中でニコルさんが「Cランクに昇級します」と言っているのは、アカとヒイロがそう意訳しているだけで実際は「一つ星へ昇級します」と言葉にしているという事です。
ここからが少しだけ重要なのですが、今後この物語では基本的にこのルールで物事を記載していきます。異世界語なのによくあるファンタジー用語が飛び交ってるじゃないか! と思ったらこのルールが適用されているとご理解いただけると幸いです。
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