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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第2章 始まりの物語
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第22話 帰還の手段

「私、帰りたい! ここが嫌だとかそう言う事じゃ決してないんですっ! だけど、お父さんにもお母さんにも、まだ何も恩返しできてないからっ! 大好きな人に何も言わずにここに来ちゃったからっ……」


 これまで数ヶ月、押さえ込んでいた感情が溢れ出す。自分を娘にしてくれると言う人に対して、こんな風に拒絶する事は不義理でしか無いとはアカだって分かっている。だけど一度溢れ出した涙はとまってはくれなかった。


「ごめんなさい……、ごめん、なさい……」


 ポロポロと涙を流しながら謝ることしか出来ないアカ。ヒイロはそんなアカの背中を優しく撫で続けた。


 しばらく涙を流して、ようやくアカは落ち着く。顔を上げるとギタンと村長は難しい表情をしていた。


「……すみません」

「いや、構わん。お前達の意思も聞かずにこんな話をして悪かった」

「しかし元の世界に帰りたい、か。意図せずこの世界に来た者としては当然の欲求かもしれんな」


 幸にして、ギタンと村長は別に気を悪くしている様子はない。


「落ち人がどうやってこの世界に来ているのかは誰も分からぬ。それは逆も然りだな。従ってお主の元の世界に帰りたいという願い、その叶え方自体が分からないということだ」

「やっぱりそうなんですか……」

「ギタン、エルは魔法に詳しいな」

「ああ。だが落ち人についての知識は我々と変わらない筈だ」

「エル自身に知識が無くても手がかりがある場所や、もしくはそれを知っていそうな者などに心当たるがあるやもしれん」

「……聞いてみるか」

「そうしてくれ」


 村長に言われ、ギタンは頷いた。


「あの、いいんですか?」

「何がだ?」

「私達、せっかくの申し出を断ったっていうのに、その、帰る方法を探して貰ってまで……」

「言っただろう、お前達は恩人だ。故郷に帰りたいと言うのであればできる範囲で助けるさ」

「ギタンさん、ありがとうございますっ!」


◇ ◇ ◇


「そうか、アカとヒイロは帰りたいのか……」


 ギタンの家に帰り、村長の家であった事を伝えると、ルゥは悲しそうな顔をした。


「うん、ごめんね」

「別に構わない。好きすればいい」

「とかいってルゥはお姉さんが出来たみたいで嬉しかったくせに」

「おかあ!」


 顔を赤くしてエルを叩くルゥ。照れ隠しカワイイ。


「だが落ち人が元の世界に帰るなんて話は聞いた事がないから、どうしたらいいかまるで分からなくてな」

「うーん……落ち人自体、物語の中にしかいないような存在だしね」

「やっぱりエルも知らないか」

「知ってる人なんて世界中探してもそうそう見つからないと思うわ。だから、先ずはそういう事に詳しい人を探さないといけないわね」

「詳しい人に心当たりがあるんですか!?」


 アカの問いに、エルは首を振った。


「この村には居ないわ。だけどそういう人がいる可能性が高そうな場所は思い当たるかなってところね」

「そんな場所、あるか?」

「私も場所を知ってるわけじゃないの。ただ、前に行商にきた商人さんからチラッと聞いた事があるんだけど、ずっと南の方に魔導国家っていうのがあるらしいわ」

「魔導国家? 魔法とは違うんですか?」

「うーん、私も詳しい事はわからないんだけど、魔法はあくまでも魔力を使う個人の技術なのよね。だけど魔導国家では魔力を色々なものに活用する研究が盛んで、魔道具とかもそこで研究されているとか」


 魔力というものに馴染みがないので説明を聞いてもやはりピンとこないアカとヒイロ。


「その魔導国家に行けば、落ち人……というか、私たちが元の世界に戻る方法があるかもって事ですかね?」

「それは分からないけれど、少なくとも何のあてもなく探し続けるよりはヒントがある可能性が高い場所の方がいいかなってくらい」

「おかあ、魔導国家ならアカとヒイロを元の世界に戻す方法があるのか?」

「分からない。だけど、落ち人は特別な魔力を持つと言われているから、魔力について研究している国なら何か分かるかもね」


 困ったように眉根を寄せるエルだが、確かに何の手がかりもない現状、その魔導国家とやらに行ってみるというのは良い案に思える。


「それで、その魔導国家ってどうやって行くんですか?」

「ごめんなさい、それも分からないの。ずっと南の方って事しか知らないし、名前も忘れちゃった」

「ダメじゃないか」

「うん。でも国家って言うくらいだから街に行けば知ってる人も多いとは思うのよね」

「そこの情報収集から始めるってわけですね」


→帰る方法を知りたい

→落ち人に詳しい人を探す

→そういう人がいる可能性が高い魔道国家に行く

→まずは魔道国家についての情報を集める


 こういうことか。全く手掛かりが無い状況ではあるが、最低限やるべき事を示して貰えるのはありがたい。


「……となると、二人は冒険者にならないとだな」

「ボウケンシャ?」

「各国が認めた日雇いの労働者といったところだ。街では基本的に商売をするには領主への届け出が必要なのだが、それだと専門的な仕事以外を請負う人間が居なくなる。逆に専門店以外の何でも屋として冒険者という職業があって、それを統括する冒険者ギルドという組織があるんだ」

「ギタンや私も若い頃に少しだけ冒険者をやっていた時期があるのよ」

「この村では自給自足が原則とは言いつつもある程度は外貨も必要だからな。若い者は近くの街で冒険者をするんだ」

「冒険者ってどんな仕事をするんですか?」

「さっきも言ったが何でも屋だ。街の商業組合がどこかの専門店で対応しきれない仕事を割り振ってみたり、料理屋が特定の素材を欲していたり、一般人が逃げたペットを探してくれなんて言って来る事もある。だが一番多いのは魔物の討伐だろうな」

「まあ、それが一番早くお金も稼げるしね」


 魔物と聞いて震えるアカとヒイロ。この世界の生物は例外なく魔力を持っている。それは野生の獣や人間とは違う進化を辿った亜人族にも同様で、その中でも魔力の扱いに長けて人に害を為す獣や亜人を「魔物」と総称するらしい。例えばこの世界に来た時に出会った月白狼も魔物の一種であった。


 あれを討伐してお金を稼ぐ……。出来る気がしない。


「魔力を扱えるものは脳に魔石と呼ばれる固い組織があるんだが、それを冒険者ギルドで買い取ってもらえる」

「魔石は魔道具とかの動力になるからね」

「あとは、単純に魔物は戦う力が無い人間にとっては脅威だからな。それを間引くという意味で、討伐証明をするとお小遣い程度の報酬もある」


 ギタンは弓の名手だし、エルは魔法が得意なので魔物とも戦えるのだろう。ルゥだってまだ小さいのにギタンの狩りについて行く事があるらしい……最近はアカとヒイロに言葉を教えるためお預けらしいけれど。


 まあそんな風に戦いに慣れた方々なら魔物を討伐するという事も可能だろうけれど、日本にいた頃に動物を殺した事だって無いアカにとってはかなりハードルが高い……というか単純にこちらが殺されるのではなかろうか。


 実はヒイロに至っては虫を殺したことすら殆どない。


「あの、冒険者をやるにしても魔物を討伐しなくてもお金は稼げたりするんですかね?」


 アカが訊くと、ギタンとエルは首を振った。


「正直冒険者の収入は如何に報酬金の高い魔物を狩れるかに左右されると言っても良い。それ以外の仕事も、結局魔物の討伐自体は避けられない事が多いしな。本当に戦わずに稼ごうと思うのなら、冒険者をやるよりは貴族の愛妾になった方が早いぞ」

「あ、愛妾!?」

「売春は禁止されている地区もあるし、何より報酬が買い手都合になりやすいからオススメはできない。その点、愛妾なら貴族側も見栄を張ってきちんとした金額を出してくれるだろう」

「だけどギタン、その場合は貴族に年単位で付き合う契約になるわよね?」

「そうなるだろうな。だから魔導国家を目指すならあまり良い手段とは言えないだろう」

「いやいや、さらりと言っているけど、そもそも身体を売ってお金を稼ぐなんて無理ですから!」

「だよね、私もそれはイヤです」


 日本の倫理観があるアカとヒイロとしては、身体を売ってお金を稼ぐ事には抵抗がある。現代日本にはパパ活なんて言葉もあるが、自分がそれをしようとは思えない。


「確かに貴族と契約する事はそれ自体がリスクだからね」

「だから、結果的に魔物を討伐した方がいいということだな」

「冒険者をせずに魔導国家を目指すのは無理ですよね……?」


 ダメもとで聞いてみるが、ギタンは首を振った。


「どれだけの期間旅をすることになるか想像もつかないならな。狩りも出来ない上に無収入では食料の調達すらまともに出来なくなるだろうし、街から街の移動に護衛を雇う事すらできない。お前達自身が魔物と戦える力をつけて、カネを稼げるようにならないとどうしようもない」

「心配しなくても、私とギタンが鍛えてあげるわ。冬は狩りに行かないから丁度良いタイミングだしね」

せっかくなのでHJ大賞5に応募したいなっという事で(ダメ元ですけどね!)8万字分の書き溜めを連投してきました。ここでストックが切れてるので暫く書き溜め期間に入りますが、ご容赦を笑


「面白い!」「続き読みたい!」「再開待ってるね!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

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