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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第15章 魔導迷宮探索
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第198話 実技試験概要

「さて、今のこの場にいる者たちを実技試験の受験者と認めよう」


 セシル教授の言葉に、受験生達は背筋を伸ばした。


「みな護衛を連れてきているようだけど、ここから先は自分自身の力のみで試験に臨むように。まあ闇属性魔法で護衛の死体を操っているっていうなら本人の力として認めるけどね、そうでないのなら受験生以外が魔導迷宮に入るのは禁止だよ。これは事前に配った試験要項にも書いておいたが、護衛の入場を含めて不正が確認された場合は即試験の不合格、および向こう五年間の特待生試験の入学試験の剥奪とする」


 へえ、死体を操る魔法なんてあるんだ。そういえば前に自分が魔物化されたのも(※)闇魔法の一部って言ってたよう気がする。闇属性魔法使いって火属性魔法使い並みに希少らしいから、どんな魔法があるのかも資料が少ないらしいんだよね。

(※第8章)


 ヒイロがそんな感想を抱いている間にセシル教授は説明を続ける。


「さて、全員が気になっているであろう試験の詳細と合格基準を伝えようかね。筆記試験のあとにも伝えた通り、アンタ達には今からこの魔導迷宮に挑んでもらう。期間は最大で三日間。三日後の二の鐘(午前十時)までにここに戻って来れないものは不合格だ」


 アカとヒイロは事前に期間の情報を入手していたので準備は万全である。


 だが、三日間という宣言に他の受験生達は騒めく。期間については事前に知らされていなかったため、精々丸一日程度だろうと想定していた者が多く、中には今日の夕方までと思って碌な探索準備をしていないものまでいた。


 そのような者から抗議の声があがるがセシル教授は意に介さない。


「歴史書にある第一次、第二次遠征の記録を見れば、少なくとも一日程度でなんとかなる迷宮じゃない事は想像できた筈だよ。それすら自分で気付けないやつはこの試験を受けるべきじゃない……と言いたいところだけど、それはあまりにフェアじゃないからふたつほど救済措置を用意してある。

 ひとつ。別に今からすぐに魔導迷宮に入らなくても構わないよ。なんならこれからスウェイの町に戻ってしっかりと遠征の準備をしてくるといい。魔導迷宮に挑む冒険者のために、この町の雑貨屋には迷宮内で使えるであろう野営道具がきちんと用意されている。……もちろん、準備に時間をかけちまえばそれだけ他の受験生に差をつけられる。時間をかけて準備をして安全を取るか、多少リスクを冒してでも素早く準備をするか、その辺りは各自で判断するんだね。

 ふたつ。別に三日間丸々迷宮で過ごせと言っているんじゃない。()()さえ持ち帰ってきてくれるなら極論、今日中に試験を終わらせても構わない。今日の探索に全力を投じて、他の者が三日かけるより点数の高い成果を持ち帰れればそれで良しとしよう。但し、一度迷宮に入ってから出てきた場合、再入場は禁止とする。他の者の成果を見てから再アタックするのは不公平だからね」


 ふたつめの再入場禁止のルール、セシル教授は言葉にしなかったがこれは妨害禁止の意味も持たせている。例えば最初の一時間で最低限の成果を持ち帰り、再入場して他の受験生が成果を持ち帰れないように立ち回る。そんな戦略を取るものが現れないとも限らない。他の受験生の成果を奪う事は禁止しており、一応上層には監督を配置してはいるがそれでも不正を完全に防ぐ事はできないので、そのための措置である。監督の目が届かない場所での妨害や略奪行為についてはそれぞれの受験生に自衛してもらう他ないだろう。


「そして、一番気になっている成果についての説明だ。端的に言えば()()()()()。迷宮に隠された財宝、奥に眠る魔物を討伐した証明、この中でしかとれない鉱物、そんな聞くだけで貴重とわかるものでなくても構わない。入ってすぐに足元に転がっている石を拾って帰ってきても、成果として認めよう。

 そして合格基準は「この迷宮についてより深く知ることが出来るものを持ち帰ったとされる者」を上から二名、特待生試験の合格者とする」


 曖昧な基準だなとアカは思った。おそらくそれは他の受験生も同様だろう。そんな一同にセシル教授は補足を入れる。


「この迷宮が危険とされる由来は皆よく知っているだろう。過去に二度行われた遠征における惨事。だが実際、当時そこで何が起こったかをきちんと説明できるものは居なかったんだ。みな一様に気が狂ってしまっていたからね。つまりこの迷宮は危険だと言われているものの、具体的には何が危険なのかがまるで分かっていないのさ」


 セシル教授の言葉をうけて受験生達に緊張が走る。つまりこれからそんな迷宮に挑まなければならないのだ。ピリピリとした空気を楽しむようにたっぷり間を置いて、セシル教授は続ける。


「ここからは、まあ大っぴらにできない話ではあるが、魔法学園のとある派閥にてこの迷宮を詳しく調査したいって話が持ち上がっている。だけど今言ったように何が危険なのかすら分からない現状では、リスクに対してどう備えれば良いかすら分からない。大規模な戦力……多くの学生や教員を導入した結果、数十年前の第二次遠征の二の舞になっては目も当てられないだろう? そこで白羽の矢が立ったのがアンタ達、特待生試験の受験生だ。特待生試験を受ける程度には優秀で、かといって仮に死んでも困らない人材として目をつけられちまったってわけだ」

「き、教授、そこまでは……」

「言い方を変えてもつまりはそういう事だろう?」


 さすがの物言いに、隣にいた助手のような男が声を掛けるが、セシル教授は構わない様子だ。


 しかし死んでも困らないとまで言われてはいよいよ溜まったものではない受験生。ひとりが声を上げる。


「しかし、今年の試験にはヒルデリア王女も参加されております! それでも死んで構わないなどと……」

「構わないのさ。この件は王家も承認済みだ」

「なっ!?」


 皆の視線がヒルデリア王女に集まる。王女は居心地悪そうに目を伏せた。


「アタシも詳しくは分からないし、知りたくもない。だけど、こと試験においては王女サマも公平に審査する対象となるわけだ。構わないね?」


 ヒルデリア王女はこくりと頷いた。


「それでは我々に死ねと言うのですか!?」

「そうは言っていない。さっき言っただろう、命が大切ならそこら辺の石でも木の枝でも構わないと。それ以上のものを持ってきた者が居れば不合格だが()()()()()()()()()()()()()()()()。試験は辞退できないが、かといって命を掛ける覚悟はない。だったら早々に成果を持ち帰ってくれば良い。学園側はアンタ達の実家に何を持ち帰ったか伝える事はないんだからね」

「あっ……」


 セシル教授の言葉に、食ってかかった受験生は納得した様子で引き下がった。


 未来ある若者の命をイタズラに無くさないためにセシル教授が作った抜け道がこれであった。学園側からの要求を飲みつつ自分が持つ裁量の中でなんとか一人でも犠牲を減らすにはと考えた精一杯の方法だ。


 受験生達を見渡すと、明らかにホッとした表情で緊張のとけた者が半数以上……家の名誉のために試験の辞退が出来ずにここまできた者達だろう。彼らはおそらくセシル教授が用意した救済案を受け入れる。試験は多分不合格になるだろうが、それでいい。特待生試験は来年もあるのだ。


 問題は残りの十人弱か……このうち何人かは死んでしまうだろうね。


 その中にはヒルデリア王女も居る。覚悟を決めて魔導迷宮を見つめる様子を見るに、なんとしても――それこそ命を賭けて――確実に合格に足る成果を持ち帰ろうとするだろう。それが成せるかどうかは別として。

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