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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第15章 魔導迷宮探索
212/225

第197話 試験当日・朝

 翌朝、ポルーナ宅に泊めてもらえたアカとヒイロは集合時間に十分余裕を持って家を出た。ちなみにポルーナに宿代を渡そうとしたが「この間のお礼よ」と言われて受け取ってもらう事が出来なかった。それでは悪いという二人をポルーナは「だったら無事に試験が終わったら元気な顔を見せにきて頂戴」と強引に送り出したのであった。


「結果的に一晩分の宿代が浮いてしまった」

「ヒルデリア王女からは謝礼は受け取らなかったのよね?」

「ちゃんと断ったよ。部屋をあけ渡すのはあくまで一次試験の時のお礼であって、これで対等な立場で試験を受けられますって言って」


 あくまで受験生としてという但し書きは付くものの、王女に対して「対等な立場」なんて言葉を使うとは。まあヒイロも悪戯に喧嘩を売ろうとしたわけではなく、お互いに正々堂々試験を受けましょうという宣言ではあるし、相手はそれを理解してくれる……言葉尻を掴んで不敬だなんだと言い出すタイプでは無いと見極めた上での発言ではあったが、それでもギリギリのワードチョイスである。


「世渡さんとは、他にどんな話をしたの?」

「え? ああ、昨日話した事以外はほとんど話して無いわよ。王女と戦うのかっていうのと、護って欲しいって言われたぐらい」

「お互いになんでこんなところにいるのかって訊かなかったの?」

「それ訊いたらこっちも話さないといけなくない? そこまで込み入った話をする時間はなかったし、試験が終わってから改めて会いましょうって約束をして別れたわ」

「ああ、そうだったんだね。通りで思ったよりずっと早く部屋に戻ってきたわけだ」

「ヒイロは王女様とあの護衛の騎士の人と、何か話した?」

「うーん、こっちも大したことは話してないんだよね」


 世渡カナタの同郷という事でアカとヒイロも落ち人であるとバレてしまったこととぐらいである。何故カナタがヒルデリア王女の侍女をやっているかについては特に訊ねなかった。どうせアカが訊いてくるだろうと思ったし、下手に質問をして藪蛇になるのを避けたいと考えたからだ。


「ああ、でも王女も()()については何か分かってないみたいだよ。というか試験内容の詳細は把握してないみたい」

「そうなんだ。じゃあ身分の違いでもらえる情報に差があるわけでは無いってことかな?」

「多分ね」


 今日から始まる試験は「魔導迷宮から成果を持ち帰る」もいう曖昧なものである。正直、これでは何を持ち帰れば良いのか検討もつかない。実は貴族の方々にはもっと詳しい情報が渡されているのではないかという懸念が少なからずあったのだが、ヒルデリア王女にすら情報が開示されていないのであればその可能性は薄そうである。


「じゃあ試験開始前に詳しい説明をしてくれるのかな?」

「そうだと良いんだけど」


◇ ◇ ◇


 魔導迷宮の入り口近くに、見知った顔を見つけてる。魔法学園で受験生を散々脅した初老の女性、セシル教授である。


 アカとヒイロは教授に近づき挨拶をする。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「ん? ああ、アンタ達は受験会場にいたね。そうかい、受けるのかい」

「はい!」

「威勢がいいのは構わないが、命は大切にするんだよ。くれぐれも無茶しちゃいけないからね」


 セシル教授は心配そうに声を掛けるが、そもそもそんな危険な試験を設定したのは学園側(この人達)なんだよなあ。


「そうは言っても成果を持ち帰らないといけないんですよね。そもそも成果って何を指すんですか?」

「隙あらば情報を得ようとする姿勢は嫌いじゃ無いよ。先日の説明ではわざと曖昧に言っておいたのは、それでもこの危険に挑もうとする酔狂な者を厳選したかったからだ。他の受験生も集まったら教えてやるから、大人しく準備して待っているんだね」


 良かった、ちゃんと説明してくれるんだ。アカとヒイロは頭を下げると適当な石の上に腰掛けて装備や持ち物の確認をする。


 そうこうしているうちに他の受験生――貴族達が続々と集まる。その中には護衛騎士を伴ったヒルデリア王女の姿もある。王女はアカ達を見つけると、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「アカ、ヒイロ。昨日はありがとうございました。おかげでしっかりと休んで旅の疲れを取ることが出来ました」

「それは良かったです」

「二人はきちんと休めましたか……?」

「はい、知り合いの家に泊めて貰えたので大丈夫です」

「首都から離れたこんな町にも知り合いが居るのですね。……なんにせよ、それなら良かったです。二人が万全で無いとこちらも申し訳なくなってしまいますから」

「恐れ入ります」


 ヒルデリア王女は優雅に頭を下げるとやや離れ場所に移動し、ジャンヌから装備と持ち物を預かる。豪華な刺繍がされたローブの上から、これまた豪華な紋様の刻まれた上級な胸当てを着け、腰にはレイピアを下げる。


 流石王族、装備が煌びやかだ。ヒイロは自分たちの装備と比較して感心した。ちなみにヒイロとアカの装備は、丈夫な皮の服の上下と、その上から革製の鎧とブーツ、小手を着けただけのザ・量産型冒険者装備に、愛用のメイスである。もともと使っていたものは先日の大ダコとの戦いでボロボロになってしまったが、軽くて丈夫な革製の鎧は冒険者に好まれるので、この町でもなんとか調達することが出来た。まあ間に合わせ感は半端ない――事実、間に合わせであるので、ヒルデリア王女の鎧とは比べるべくも無いが、他の受験生のものと比較しても貧相な装備に映る。


「私たちも鉄や鋼で出来た鎧、あった方がいいかなあ?」


 もちろんこの試験が終わったら、という意味でヒイロが呟くが、アカはうーんと唸る。


「この間のタコとの戦いとか、重い金属の鎧を着ていたら沈んでいたと思わない?」

「あれはイレギュラーでしょ」


 そうそう水に引き摺り込まれることがあってたまるか。


「そのイレギュラーが怖いんじゃない」

「まあ、確かに」

「金属の鎧で動きが阻害されるのも困るし……まあ、どうしてもヒイロが鉄の鎧を着たいなら首都に戻ったら師匠と相談でいいんじゃない?」

「いや、そんな強い想いがあるわけではなく、単なる思いつきだから」

「でしょうね」


 試験本番直前だというのに、いつも通りのやり取りをして笑うアカとヒイロ。本人達にその自覚はないが、その姿はこの場において異質であった。


 集まった他の受験生達は、これから魔導迷宮――魔法使いの墓場へ挑む恐怖を押し殺すのに精一杯である。歴史書の中でしかしらない惨劇、調査隊の壊滅。そんな場所へ誰が好き好んで足を踏み入れたいものか。だが、多くのものはそれでも挑まざるを得ない。なぜなら魔法学園の特待生というのは貴族にとってステータスであり、これに受かる事は家名を上げることに繋がる。上級貴族の跡取りにとってこれは乗り越えねばならない壁であり、不合格はまだしも辞退(逃亡)など許されるものではない。


 それでもここに挑むというのであれば、私兵を投じて入念な調査や万全の準備を整えた上でというのが最低限のラインであろう。だが今回の試験は告示から本番までほんの十日、首都からここまで移動するのに七日以上かかる事を考えればほんの数日しか準備に充てる事は出来なかったわけだ。


 結果的にギリギリまで自宅(首都)で準備をして、この町までの行程を――夜の間も移動するといった強行軍や、途中の街での補給を省略するなどの――無理をして二日程度縮めるといった流れでこの場に駆けつけている。


 慣れない旅による疲れと、試験に対する緊張。それに魔法使いの墓場に対する恐怖で、集まったら十数名の受験生の半分以上はすでにグロッキーなのである。


 まともな体調と精神状態を保っているのは、そんな緊張と無縁のアカとヒイロ、覚悟が決まった上でゆとりのある行程でこの町を目指したヒルデリア王女、あとは自分の才能と実力に絶対の自信を持つ数人――その中には一次試験でヒイロに死刑を宣言したモルト・ロステスト上級貴族の姿もある――程度である。


 さまざまな表情を浮かべる受験生を見て、セシル教授は内心ため息を吐いた。セシル教授とて未来ある受験生を死地に追いやる事は本意ではない。だが、()から言われれば従わざるを得ない。教授といえど雇われ人だ。

 午前十時(二の鐘)が鳴り、指定した集合時間となった。せめてこれからの説明を訊いて、辞退する人間が増える事を祈りつつ、受験生に対峙する。

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