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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第14章 特待生試験に向けて
203/225

第188話 探索準備

 翌日、試験本番まであと七日。余らせてしまった期間を有効に活用するため、アカとヒイロは今日も情報収集に精を出す……と言いたいところであったが、午前中いっぱいまちの中を回ってみても有用な情報は得られなかった。


「みんな上層で狩りはすることがあっても、中層以降にはまず下りて行かないんだね」

「そうね。結局昨日、狩人のお爺さんから聞いた以上の情報は得られなかったか……」


 ついでに昨日話した魔道具以外の光源の確保も出来なかった。ここは魔導国家の一部。生活を便利にする魔道具はほとんど魔石を動力としており、油を使ったランタンや単純に火をつけて長く保たせる松明などは雑貨屋には置いていなかった。


「となると、自作しかないのかな」

「松明を?」

「うん。要は木の棒の先に油を染み込ませた布とかを巻いて、そこに火をつければいいんでしょ」

「そんな単純なものかなぁ……?」


 町を出て意気揚々と木の枝を拾ったヒイロは、その先に火をつけてみる。火はみるみる枝全体に燃え広がり、あっというまに炭となった。


「想像と違う!」

「私は想像通りの結果だったけど」


 燃え尽きた枝を見て憤慨するヒイロと、当然の結果に頷くアカ。


「火力が強過ぎたかな?」

「十分弱火だったわよ。そもそも松明って持ち手が木だったらすぐに延焼して燃え尽きちゃうじゃない」

「それもそうか。じゃあどうやって作ればいいのかな?」

「持ち手の棒は鉄とかにする? でもそれじゃあ熱くなって持てなくなるか」


 厳密に言えばアカとヒイロは熱にすごく強いので、熱で真っ赤になった鉄の棒でも火傷せずに持てるだろうけれど、それは松明としては正しくないだろう。

 

「うーん、スマホがあれば松明の作り方を検索できるのに……」

「とりあえず、いろんな木の枝で試してみる?」


 町の近くの森には様々な木が生えている。もしかしたら松明に適した木があるかも知れない。


 その後もあれこれと様々な木の枝を炭に変えては落胆するヒイロとアカであったが、そんな二人に声をかけたのは昨日の狩人の老人であった。


「お前たち、さっきから何をしているんだ」

「あ、お爺さん」

「森を燃やすつもりなら町から出ていってもらうぞ」

「そんなつもりは無いんです! その、松明を作りたいと思って」

「松明を? わざわざそんなもの作らんでも、ランタンを買えば良いだろうに」

「魔石を使わない灯りが欲しくて……」


 アカとヒイロが昨日この老人から聞いた話を元に魔導迷宮の中では魔力を奪う何かがいる可能性に思い至ったことと、その対策として魔力を使わない光源を持ち込むことを考えている事を伝えると、狩人はなるほどと頷いた。


「お前達の仮説が合っているかは分からんが、魔力に依存しない道具を準備するというのは一理あるかもしれんな。まあ魔法学園の特待生にそれを求めているかは分からんが」

「特待生だからこそ、魔法もそれ以外も柔軟に使いこなせないといけないんですよ。たぶん」


 自信満々に胸を張るヒイロに、狩人は苦笑いで返す。


「だったら松明の作り方ぐらいは知っておくんだな。そもそも松明というのは木の枝で作るんじゃ無い、木の根を切り出して作るもんだ。そこに葉が細長い木があるだろう、その木の根を掘り出して真っ直ぐな部分を切り出してみろ」


 そう言って狩人が指した先にはあった木は、松によく似ていた。アカとヒイロはその根本を掘り、持ちやすそうな太さの根を腕の長さ分ほど切り取る。


「これの先に油を染み込ませた布を巻くんですか?」

「そんなもんいらんよ。そのまま断面に火をつけてみなさい」


 言われた通りに火を近づけると、断面に拳大の火が点く。火はこれまでのように松明全体に広がることはなく、そのまま断面付近でジンワリと燃え続けていた。


「すごい! 松明になった!」

「ただの木の根なのに。これ、どういう仕組みなんですか?」

「この木は脂が多く火に強い性質を持つんだが、そのまま枝を燃やしたら水分が少なくさすがに松明としては使えない。だが水を多く含んだ根の部分ならこうして水分と釣り合って長い時間燃え続けてくれるんだ。これでも鐘二つ分くらいは保つが、水差しに反対側を差してやれば水を吸い上げて数日は火が消えなくなる。……昔はこうして明かりを灯したもんさ」


 狩人はヒイロから火のついた松明を預かると、持ち手側にクルクルと布を巻いた。


「この持ち手を適宜湿らせておけば、それだけで丸一日は保ってくれるだろうよ。三日間の試験なら三本もあれば十分だろう」

「三日間? 試験期間は私達には知らされていないですけど……」

「入口を封鎖している役人に聞いてきたんだ。「いつまで狩りの邪魔をしてくれるんだ」ってな。そうしたら十日後には封鎖を解除するって答えやがった。試験は七日後からだろう? だったら試験期間は三日間ってことだろうさ」

「な、なるほど! 地元の人は詳しい事情を知らないはずだから、終わりのタイミングを漏らしちゃったのか!」


 思わぬ角度からの情報に、アカとヒイロは歓喜する。予め試験の期間が分かれば準備もしやすくなるし、何より作戦が立てやすい。


「三日間なら、徹夜で動けるかな?」

「水や食料の必要な量が分かるのは助かるわね」


 そんな二人を諌めるように、狩人は声をかける。


「やる気があるのはいい事だが、無理して命を落とすんじゃねぇぞ」

「は、はい、気を付けます! あと、ありがとうございます!」

「いいってことよ。孫より若い娘達がこんな事で死ぬのを見たくねぇからな」


 狩人はそういうと片手を上げて去っていった。


「……イケおじだね」

「ヒイロ、ああいう人が好みのタイプ?」

「私は寡黙な職人よりは一緒に遊園地ではしゃいでくれる人が好きだよ」

「ふーん……」


 自分で聞いておいて、なんだかモヤモヤした気持ちになるアカ。そんな様子に気付いたヒイロはニヤニヤしながらアカの顔を覗き込んだ。


「遊園地。アカは、私と一緒に行ってくれるでしょ?」

「……日本に帰れたらね」

「ふふ、約束だよ!」


 そのままチュッとキスをすると、楽しげに残りの松明を探し始めるヒイロであった。


「……もう、仕方ないなぁ」


 アカも肩の力を抜いて、ヒイロと共に松の根を取るために土を掘ることにした。


 ……。


 …………。


 ………………。


 二人の三日分、計六本の松明を取り終えたところでアカはふと気付いた。


「そういえば、時間はどうやって計ろうか」

「ん? そんなの夜が来たら……ってそうか、迷宮の中だと朝も夜も分からないのか」

「そうそう。魔道具が動かなくなるリスクを考えてるのに時計を買うわけにはいかないし……そもそも時計の魔道具は高過ぎて手が出ないけどね」


 魔法、ひいては魔道具が便利なため、この世界の科学は日本ほど発達していない。貴族階級であれば魔道具はある程度の文化レベルを保っており、例えば時計であれば魔石から常に一定の魔力を取り出しで針を動かす仕組みの時計はあるが、これが正確な時間を計れてしまうためクォーツ式はおろか機械式時計すら存在しない――少なくともアカとヒイロは見たことも聞いたこともない――のである。


 そんな存在するかどうかする怪しいアンティークな時計をこの町で入手出来るとは思えず、そもそも魔石式時計もひとつで庶民の家なら数軒立つレベルの超高級品なのでおいそれと買うわけにはいかない。


「うーん……。あ、そうだ。松明(これ)は?」

「火時計?」

「そういう名前でいいのかな? どのくらいの時間で燃え尽きるか予め把握しておけば時間が計れるかなって。一本一日なら三本で三日。ギリギリだと怖いからちょっと猶予を見ておけば三本目が燃え尽きる前に帰れば三日の期限に丁度いい感じになるよね」

「なるほど、それならおおよその時間は計れるわね」


 アカは頷き、そしてヒイロに訊ねる。


「それで、どのくらいの長さなら丁度一日になるかしら?」

「それは残りの期間で試すしかないんじゃない?」


 そう言ってヒイロは最初の松明に再び火をつけた。残りの七日間で、丁度一日保つ長さを求めようという意味のようだ。


「……まあ、時間はあるしそれもいいか」


 松の木はそこらじゅうに生えているので、検証はタダだ。どうせ暇だし、ヒイロの言う通り準備をしてもいいかと頷いた。

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