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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第14章 特待生試験に向けて
201/219

第186話 スウェイの町

186話と187話、順番が入れ違っておりました…

 アカとヒイロは丸一昼夜駆け抜けた。夜は休もうかとも思ったが、双月が近いこともあり月上がりが眩しいほどに街道を照らしていたことと、ほとんど疲れが無かったこともあるが、早く着けばそれだけ魔導迷宮を探索する時間が確保できるという思いも手伝った。


 そんなわけで、二日目。そろそろ太陽が真上に登ろうかという時刻。


「見えた! あの町じゃないかな!?」

「看板は……まだ見えないか」


 事前に地図を頭に叩き込んできたので途中にある町や村、ついでに万が一通り過ぎていた時のために三つほど先の町の名前も頭に入っている。


 途中でいくつかの町の看板を素通りしてきたが、おそらくあの町が目的地で間違いないとは思うが……。


 街に近付くと、案内看板が立っていた。


「「この先スウェイの町」……合ってるよね」

「ええ。良かった、無事に着いたわね」


 ここにきて漸くペースを落とし、町に向かって歩を進める。流石にマラソンランナーの速度で町に突っ込んだら不審者もいいところだ。


 看板から数分も歩けばスウェイの町である。町の門には一応門番と思しき男が突っ立っていた。


「アンタ達、この町に用かい?」

「もしかして入るのにお金いります?」

「いや、要らないよ。ただ、心付け(チップ)をくれたらこの町について簡単に教えてやってもいいがね」


 堂々とチップを要求する門番に、呆れて軽く笑いながらアカは銀貨を渡した。この手のタイプは素直に小銭を渡しておけば敵対せずに済むのだから、しておくに越したことは無い。


「お、若いのに気前がいいね! 何について知りたいんだい?」

「とりあえず宿かな。しばらく滞在する予定だから」

「この町にしばらく滞在? まさかアンタら、魔導迷宮が目的かい?」

「分かるの?」

「分からいでか。この町にはそれしかねぇからな。それにちょくちょく来るんだよ、「何か」があるはずってあそこに挑もうとする若い冒険者がな。アンタ達もそのクチってわけか」

「まあ、そんなところね」

「勝手にしな……と言いたいところだが残念ながら今は時期が悪かったな。数日前に首都からお使いが来て入口を封鎖しちまったんだ。なんでも今度お偉いさんが来て調査だか試験だかをするらしくてな、それまで一般人の立ち入りは禁止するんだとよ」

「なっ、封鎖!?」


 思わず大きな声をだすヒイロ。門番は一瞬びっくりしたが、すぐにニヤリと笑ってみせる。


「ああ、まああと十日ぐらいでその調査を始めるみたいだから、それまでの辛抱だな。ちなみに魔導迷宮はこの町の裏門を出て真っ直ぐ進めばじきに着くぜ」


 その調査……もとい、試験の前に入りたいんですがという言葉を飲み込んで、アカとヒイロは肩を落とした。


「……じゃあ、とりあえず宿の場所を教えてもらえる?」

「宿は街を入って最初の角を左に折れた突き当たりだ。この町にひとつしかないから、長期で部屋を押さえるつもりならさっさと行った方がいいぜ」

「そうさせてもらうわ、ありがとう」


 門番に礼を言ってその場を離れようとするアカとヒイロ。そんな二人の背中に門番は楽しげに声を掛けた。


「おう! 何もない街だが楽しみな!」


 ……。


 …………。


 ………………。


「まさか事前に封鎖しているとは」

「出鼻を挫かれたわね」


 宿で無事に部屋を借りることが出来たアカとヒイロは、そのまま併設の食堂で昼食をとりつつ落胆していた。


「私たちの作戦を事前に封じるとはさすが魔法学園、油断ならない相手だね」

「受験生のフライング防止っていうよりも一般人が立ち入らないための措置だと思うけど」

「確かに、二日前に試験概要を聞いて今日の時点でこの町にいる受験生って流石に私たちだけだろうしね」


 高速移動する魔法があれば話は別だが、魔力にものを言わせて突っ走って来た自分達より速く着いたものが居るとも思えない。


「それで、丸七日間ヒマになってしまったわけだけど」

「何もしないってわけにもいかないし、ギルドで依頼でも受ける?」

「そうするしかないかねえ」


 目論見は外れたが、かといって今から首都に戻るわけにもいかない。こんな事ならギリギリまで魔導迷宮について調べても良かったな、と考えたところでアカは気が付いた。


「魔導迷宮に入れなくても、この町なら色々と情報が手に入るんじゃないかな」

「聞き込みするって事?」

「うん。なんとなく町の人に聞いて回ってみたら過去の遠征について分かるかもしれない。それに門番の人も冒険者がよく来るって言ってたし」

「言われてみれば、それもありか。じゃあコレ食べ終わったら聞き込み開始しようか」


 ヒイロはちょうど運ばれてきたお肉のソテーを指した。


「ええ、そうしましょう」


 アカも頷き、ソテーに手を伸ばす。脂の乗った肉はプリプリとしており旨味が口に広がった。


「これ、おいしいね」

「本当。貴族向けの宿で食べた食事と遜色ないレベルね」


 想像以上の美味しさに、思わず唸る二人。自然と手が進む。


 まず大前提として、この世界のご飯はあまり美味しくない。平民向けの食事は特に食べられれば良いという風潮があるため味は二の次である。アカとヒイロが普段食べているような安いものであれば、特にその傾向は顕著である。


 最近はウイと共に貴族向けの高い宿に泊まっていたので食事の質は高かったのだが実はそれでも現代日本の食事に飢えているアカとヒイロを満足させるものではなかった。味はしっかりしていて美味しいんだけど、「味は濃いほど美味しいだろ?」と言わんばかりのしつこさがあり、もうこれは文化の違いとして受け入れざるを得ないかなと思っている部分もある。


 しかし目の前の料理は味付けがしっかりしていながらも家庭料理のような食べやすさと、何より二人にとってなんだか懐かしい風味が香る。


「お醤油ベースの照り焼きみたいな感じ?」

「ああ、そんな感じ! お母さんが作ってくれるような味に近いかも」


 鶏肉から仄かに感じるその風味が、二人の食欲を刺激する。あっという間に主菜を平らげてしまった二人の元へ、女将が皿を下げにくる。


「あ、あの、今のお肉っておかわりありますか……?」

「おや、若いのに食欲があるねぇ」

「えっと……すごくおいしくて」

「そう言ってくれると嬉しいね。待ってな、すぐに持ってきてやるよ」


 ニカッと笑った女将は皿を下げるとすぐにお代わりの乗った次の皿を持ってきてくれた。


「ありがとうございます! アカも食べるよね?」


 ヒイロの問いかけにウンウンと頷く。アカもまだ食べたいと思っていたのだ。再び二人で料理を分ける。


「これはお肉に下味がしっかりついてるのかな? それとタレの甘塩っぱい風味がちょっと和食っぽいね」

「ほんと、いくらでも食べられそう」

「そんなに気に入ってくれたのかい?」


 パクパクと食べる二人に興味を持った女将が声を掛ける。


「はい、美味しいです! お肉もうえにかかっているタレもすごくおいしくて、何杯でも食べられそう」

「うちの料理はたまにすごく気に入ってくれる人がいるんだけど、アンタ達はそのタイプだね」

「これって何のお肉なんですか?」

「これはね、迷宮トカゲの肉なんだよ」

「トカゲですか!?」


 鶏モモに肉のような食感だったので、その素材に驚く。


「ああ、魔導迷宮の近くのこの村の唯一の名物みたいなもんさ。新鮮な迷宮トカゲの肉はほんのり甘い香りがしてうちの秘伝のタレとの相性も抜群なんだ。ただ、日数が経つと臭みが出てくるから美味しくなくなっちまうんだけどね」

「なるほど。迷宮トカゲってことは、魔導迷宮の中に住んでいるんですか? そういえばさっき門番さんから、今は迷宮が封鎖されているって聞きましたけど、今後暫く食べられなかったりします?」

「肉は狩人の爺さんから仕入れてるけど、暫く取れなくなるなんて話は聞いてないね。まあ迷宮トカゲは厳密には迷宮の中じゃなくて、入り口の周りの森に住んでいるらしいから多分大丈夫だとは思うけど。なんだいアンタ達も迷宮を目指してきたのかい?」

「そのつもりだったんですけど、いまは入れないらしくって」

「あんなところ、辞めておきな。今まで何人もの冒険者が一攫千金を目指してあそこに挑んだけどね、帰ってこれるのなんて一握りだよ。ウチに泊まって荷物を置いたまま帰ってこないって客も多くてね」

「そんなに危険なんですか」

「詳しいことはアタシも知らないけどね。さっき言った狩人の爺さん、あの人なら迷宮について詳しいさ」

「狩人のお爺さん、ですね。話を聞いてみようかな」

「ああ、それがいい。少なくともアンタ達みたいな若い女が喜んで入っていくようなところじゃあないよ」


 話の流れで迷宮に詳しい人物を知ることができた二人は、さっそくその狩人に話を聞きに行くことにする。……もちろん、目の前のトカゲ肉をたっぷりと平らげたあとで。

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