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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第14章 特待生試験に向けて
199/219

第184話 魔導迷宮に向けて

長期間お待たせいたしました……汗

 無事に一般クラスへ合格して入学手続きを済ませたウイと合流したアカとヒイロ。一行はナナミと合流すると、少し遅めの昼食を食べながら、渡された実技試験案内の内容を確認する。


「魔導迷宮とはまた思い切ったね」

「魔法使いの墓場でしたっけ? 大層な異名がついてるんですよね」

「私もヒイロも、試験勉強で参考書に書かれているのを見たぐらいで詳しい事は知らないんです。師匠、詳しいことを知っていますか?」


 アカの問いにナナミは首を振る。

 

「アタシもよく知らないね。アタシが魔法学園にいた頃は、あそこは魔導迷宮なんて呼ばれていなくて数ある未踏の遺跡のひとつだったから。ウイ様はご存じですか?」


 ウイも申し訳なさそうに眉を寄せる。


「ごめんなさい、私も本に書かれている以上の事は知らないのよ」


 そう言って持っていた参考書を開き、魔導迷宮についての記述を指す。それは筆記試験のためにアカとヒイロが暗記した箇所でもあった。

 

 ――魔導国家の東を南北に走る山脈にある古代遺跡のひとつで、凶悪な魔物が巣食う事が知られている。過去に二度、隊を組んでの大規模な調査が行われたがいずれも調査隊が壊滅的な被害を受け、撤退している。

 三十年前に行われた第二次遠征では四十人中、二十三人が犠牲となった。二十人居た魔法使いのうち十九人が帰らぬ人となったことから「魔法使いの墓場」とも呼ばれるようになった。


「結局危険な場所って事以外分からないですね」

「魔法使いの犠牲が多い理由も書いてないわね。魔法を阻害する何かがあるのかしら」

「でもそれなら第一次遠征で分かりそうなものじゃないですか? 調査隊のうち半分が魔法使いだったみたいだし魔法使いに特化したリスクがあるっていうのも考えづらいな

あ。……この調査隊が残した報告書とか、どこかで見られないかな?」

「もしかしたら魔法学園の図書館の、閲覧可能書類の中にあるかもしれないけれど、そこに入れるのは教員か学生だけだから、どっちみち試験に合格しないとダメね」

「その試験に合格するために情報が欲しいのに」


 ヒイロの言葉にアカとウイは苦笑いで答えた。


「まあ墓場と言われるぐらい危険な場所だって分かってるんだ。アンタ達なら余程のことが無ければ死ぬことは無いだろうさ」

「余程のことが起こる場所なんですよね!?」

「でも、行くんだろう?」

「まあ行きますけど。王女様には申し訳ないですけど、二つの合格枠は私とアカで埋めさせてもらいますよ」


 ヒイロの言葉にアカも力強く頷く。そんな様子を見てナナミは満足げに笑った。


「その意気だよ。だったらさっさと準備を始めないとだね。ここから魔導迷宮まで馬車で七、八日はかかる距離だから明日の朝にこの街を発っても結構ギリギリだよ」

「私たち、そんなのばっかりだな!」

「今回は他の受験生も同じ条件だから、この前よりはフェアーじゃないかしら?」


 文句を言いつつも遠征の準備をする。十日分の保存食と調味料、代えの服、薬や包帯も一応常備だ。

 雑貨屋を回りながら、そういえば二人きりで旅をするのは久しぶりだと思うと、アカは少しワクワクしてくる。


「アカ、なんか楽しそうだね」

「そうかな? そうかも」


 これから危険な場所に向かうというのにどうしても楽しさが顔に出てしまう。そんなアカを見てヒイロも楽しくなった。


 宿に戻り、バックパックに荷物を詰めていく。そんな二人を見てウイが少し寂しそうに呟く。


「じゃあ明日の朝でお別れね」

「これまでお世話になりました。……ウイ様は、入学まで引き続きここに泊まるんですか?」

「私は一般クラスに合格したからもう寮に入れるのよ。専属侍女も呼んであるから、彼女が到着したら移動ね」

「あ、そうなんですね。ウイ様は貴族なのに付き人を連れて居ないので、てっきり魔法学園では禁止されているのかと思っていました」

「寮に入る場合は二人まで侍女を付けられるわ。あなた達が筆記試験に落ちていたら侍女として雇ってあげようと思っていたのよ」


 本当は、せっかくヒイロ達と一緒に居るのであまり身分差を意識したく無かった……平民であるヒイロ達と同じのうに過ごすことで距離を縮めたかったという意図があるが、そんな本音を冗談を隠す。


「それじゃあ次にお会いするのは私たちの入学後になりますね」

「その自信が空振りに終わらない事を祈るわ」


 自信満々に笑うヒイロに、ウイは頷いて見せる。


「師匠は、私たちと魔導迷宮には来ないですよね。どうするんですか?」

「アタシはこの街でやることがあるからね。しっかり合格して来るんだよ」

「了解です。じゃあ戻ったらどこで集合しましょうか?」

「そうだねえ、魔法学園でいいんじゃないかい」


 ああそうか、スマホが無いからこうやって事前に集合場所を決めておかないと行けないんだわ。そういえばこうやって誰か持ち合わせをするのもこの世界に来て初めての経験だから、ヒイロが聞いてくれなかったらうっかり聞き忘れるところだった。


◇ ◇ ◇


「私は反対です」

「でも、試験を受けなければ入学出来ないでしょう」

「姫様を一人であんな場所に行かせるなんて、あまりに危険すぎます」

「魔導迷宮までは、貴女も着いてきてくれるでしょう?」

「案内には「受験生以外が魔導迷宮内への付き添う事は禁止」と書いてあります。それでは、姫様が危険なことには違いありません」

「それは試験ですもの、仕方ないですね」

「分かっていらっしゃるのですか? 「魔法使いの墓場」である魔導迷宮ですよ! しかもここには明確な合格基準の記載もなくただ「成果」を持ち帰れとしか書いてない……こんな書き方をすれば、みな自分が最高の物を持ち帰ろうとして無理をするに決まっています。それは姫様も例外では無いでしょう!?」

「引き際は弁えているつもりだけど……」

「だとしたらそれは今、ここです!」


 護衛騎士の主張にヒルデリア王女は苦笑する。彼女は護衛騎士としてもともとやや過保護気味ではあるが、今回はそれも仕方がない。なにせあの魔導迷宮だ、心配してくれての発言なのは痛いほどわかる。だが、それでも実技試験を受けずに棄権するという選択肢は無い。

 ヒルデリア王女としては特待生に拘りがあるわけてないのだが、末席ながらも王族の血を引く自分が一般クラスに入学することは流石に許されず、特待生クラスへの入学を条件に受験を許されたのだ。

 

「成果については明確な基準を書いていないことで「安全に帰って来ることが出来るか」を審査するのかもしれないですね」

「そんな緩い基準で合格を出すのであれば、それこそ昨年のように受験生同士の模擬戦をしてくれれば良いのです」

「人を傷つけずに済むという意味では、私は今回の試験も悪いとは思わないのだけれど」

「だとしても、別のやり方があるでしょう。姫様にこんな危険を負わせるだなんて、騎士として正式に学園に抗議したいぐらいです」

「それはやめて頂戴」


 ほうっておけば本当に抗議しそうな護衛騎士にしっかりと釘を刺す。ここ数年は受験生同士の模擬戦だったり、講師の前で得意な魔法を披露するといった比較的安全な試験が続いていたので想定外の課題であることは事実だが、こういった内容の前例が全く無いこともなかった。


 それに、とヒルデリア王女は考えを巡らせる。


「……もしかすると、私が試験に参加するせいでこの内容に決まったのかもしれないわ」

「わざわざ姫様を危険に晒そうとしたということですか!?」

「そうではなくて。……模擬試験といったやり方では相手の方が私に対して全力を出せないかもしれないと、学園側は考えたのかもしれないと思ったの。王宮からそういう事情を配慮するように話があったのかもしれないわ」


 王女が試験に合格しないように、もしくは受験せずに諦めるように、試験内容を危険な内容にするようにという圧力をかけたのかもしれない。そういう事をしそうな人間には何人か心当たりもある。


 だとしたら、自分のせいで他の受験生が危険な目に遭うことになるわけだ。それはそれで申し訳ない。


「いずれにせよ、行かないという選択肢はありません。魔導迷宮は近くに町があるわね」

「……本当に、行かれるのですか?」

「ジャンヌ」


 意志を込めて騎士の名前を呼びつける。護衛騎士は渋々と俯き、観念した。


「……スウェイという町があります。迷宮の管理という名目で税率が優遇されておりますが、あまり人が立ち寄らないので宿も一軒しかないような小さな町です」

「では、大人数で押しかけては迷惑になりますね」

「姫様! まさか騎士団を同伴させないつもりですか!?」

「その宿には他の受験生も泊まるのでしょう? だったら私達が部屋を埋めてしまうわけにはいかないじゃない。それに、戦場に行くわけでもないのに騎士団を動かすことは出来ないわ。最低限の護衛と侍女を連れて行くぐらいね」

「私はついていきますからね!」


 当たり前だと言わんばかりに胸を張る護衛騎士に頼もしさを覚える。彼女がついてきてくれるのであれば戦力としては十分である。ヒルデリア王女はお茶を下げる侍女に声をかけた。


「カナタ、貴女もついてきてくれるわね?」


 急に声を掛けられた侍女は驚き一瞬硬直したが、すぐに表情を取り繕うと恭しく頷いた。

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楽しく拝読させて頂いております。 …あれ…えと…どなたでしたけ?(ぉ
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