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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第183話 そして実技試験へ

 筆記試験を受けた翌日。アカとヒイロ、そしてウイは再び魔法学園を訪れる。昨日と同じ会場で合格発表が行われるからである。


 ウイは一般クラスなので、筆記試験に合格すれば――余程出来が悪くない限りまず合格するらしいが――入学できることが決まるが、アカとヒイロの場合はそのまま実技試験の説明となるらしい。ちなみに筆記で落ちていたらその場で一般クラスへの入学意思を確認され、それが無いならまた来年頑張ってくださいという流れらしい。


「私、今更緊張してきた。ヒイロは平気?」

「うーん、まあなるようにしかならないし」


 この手の緊張が苦手なアカに反して、ヒイロは飄々としている。


 昨日試験を受けた教室に到着した二人。既に座席に座っているものもチラホラと居るが、その表情は様々だ。アカのように不安げな者もいるし、自信満々といった様子で落ち着いている者もいる。


 そんな自信満々な者の中に目当ての人物を見つけたアカとヒイロは、おずおずと近付いて昨日の夜練習をした挨拶をする。


「ヒルデリア王女殿下、お声掛けお許し頂けますか?」


 声を掛けているのに声掛けの許可を得るのはおかしいと思うが、これがこの世界の常識と言うのであれば従うしか無い。


 二人が近付いてくるのに気付いていたヒルデリア王女はニッコリと笑い頷く。


「許しましょう」

「ありがとう存じます」


 恭しく頭を下げる。ゆっくりと顔を上げ、これでようやく話しかけることが出来るという流れだ。


「改めて、昨日は有難うございました」

「ああ、わざわざそれを言いに来てくれたのですね」

「はい。本当は昨日の内にお礼を申し上げたかったのですが、遅くなってしまい申し訳ございません」

「気にしなくてよいですよ。私も公務があるので少し早く退出させて貰いましたから」

「ご公務だったのですか。試験の日にまでお仕事があるのですね」

「ええ。魔法学園に入学でしたら暫くは離れる事になるので、少し追い込みをしていたのです」

「どのようなご公務だったのか、伺っても宜しいですか?」

「まあ事務作業のようなもので、自慢できるほどのことでは無いですよ」

「でも、半分の時間で試験を終えられるなんて凄いです!」

「ふふふ、それは無事に合格できていたら言って下さいね」


 無事に失礼なく昨日のお礼を言えたアカとヒイロは、改めて頭を下げ王女の元を離れる……とはいえ、みんな昨日と同じ席に座っているためヒイロの席は王女の隣だし、アカはその後ろである。


 席に座り、周りを見ると他の者達が奇異の目線を向けている事に気が付いた。アカ達が平民であることは昨日の騒動を見ていた他の受験者達にも周知であるが、そんな二人が――上級貴族でも話しかけるのに躊躇する――ヒルデリア王女に話しかけ、あまつさえ雑談を交わしたのだ。その目線には平民風情がという嘲りが混じっていた。とはいえ王女がそれを許した以上外野が何か言うわけにもいかないので、ただ睨むだけである。


 既に他の受験生も全員集まり席についている。静かな教室で多くの貴族達から睨まれ居心地の悪さを感じるアカであるが、それも長い時間ではなかった。ほどなく扉が開き、一人の老婆が背筋をピンと伸ばして教室に入ってきたからである。


「よしよし、集まってるね。ここで遅刻するような奴は試験をパスしていても落としてやろうかと思っていたがそんなマヌケは居ないみたいだ」


 受験生をぐるりと見回してカカカと笑う老婆。


「さて、とりあえず自己紹介だけしておこうかね。アタシは魔法学園で教授をやってるセシル・カオガリンだ。専門は魔導工作。セシル教授って呼びな」


 老婆、もといセシル教授はメガネをくいと上げ偉そうなポーズをとった。その様子から、なんとなく師匠(ナナミ)に雰囲気が似ているなとアカは思った。


「さて特待生試験受験者の諸君、昨日はお疲れ。決して簡単な問題ではなかったけれど、特待生試験を受けようなんてだけあって、流石に優秀な成績だったね。本当は全員合格にしてやりたいところだが……残念ながらここにいる二十二人のうち、だった二人だけちょっとだけ合格ラインに届かなかった者がいる」


 セシル教授の言葉に教室がざわめく。つまり、二十人は筆記試験をパスしたというわけだ。落ちた二人は誰か。受験生達の目線が再びアカとヒイロに集まる。


 二人しか落ちていないのであれば当然自分は合格している、自分が平民に負けるわけがない。皆の顔がそう語っている。そんな受験生達の思惑を知ってか知らずか、セシル教授は言葉を続ける。


「勿体ぶるのは好きじゃないからもう言っちまうよ。受験番号6番と11番。部屋を出ていきな」


 思わず手元の案内兼受験票に目を落とすアカ。その受験番号は12。そしてヒイロの番号はアカと一つ違いだから……。


 不安になって前の席に座るヒイロの肩を叩くと、ヒイロは自分の受験票をアカに見せてきた。そこには13番と書いてある。良かった、ヒイロも合格していた。ホッと息をつくと同時に、アカの斜め後ろに座っていた男が叫ぶ。


「そんな! この私が不合格だというんですか!? そこの平民ではなくて!?」

「知らないよ、こっちはただ合格点に届いていない答案に書かれいてた番号を読んだだけだからね。ああ、一応聞いておこうか。一般クラスになら入学出来るけど、するかい?」

「何かの間違いではないのですか!? もう一度ご確認をっ!」

「こちとら二重三重に確認している。残念だけど実力不足だよ」

「ぐぅっ……し、しかしっ!」

「しつこいね。なに、残りの受験生もほとんど実技で振り落とされるんだ。先に来年の勉強ができて良かったじゃないか」


 シッシッと手を振って不合格者を追い出すセシル教授。取り付く島も無い態度に観念した二人の受験生は一般クラスへの入学を断り、部屋を出て行った。


「気持ちは分かるけど、試験結果に文句を言うような奴はやっぱり合格出来ないものさ」


 そう言ってセシル教授は残された二十人の受験生を見る。


「さて諸君。君たちは本番の試験を受ける権利を手に入れた。そう、ここからが本番だ。ちなみにここにいる全員、一般クラスへ入学することは可能だ。自信が無いならこの時点で一般クラスに入ることをオススメするが、いるかい?」


 当然、誰も手を挙げない。


「さっきも言ったがここにいる全員は合格できない、というよりほとんど全員不合格になるよ。先に言っておくけれど学園が用意している今年の特待生枠はたった二枠。つまり十八人は不合格になる」


 受験生達に緊張が走る。そして彼らは半ば無意識にヒルデリア王女を目で追った。王族である彼女の合格は半ば決まっているだろう。だとすると実質一枠を争う事になるというわけだ。


「ちなみにアタシは純粋に実力で評価する。身分や金払いで合格者を決めるつもりは無いからそこは安心していいよ」


 セシル教授はそう言うが、それでもヒルデリア王女が最有力候補であることは変わらない。彼女の魔法の実力は国内でも有名なのだから。


 それでも家名を背負ってこの場に来ている貴族達はここで辞退するわけにはいかない。なんとしても残り一枠に入らなければならないのだ。


 なおも一般クラスに立候補する者がいないことを確認したセシル教授は、まあそうだろうなと笑う。ここで辞退するようなら初めから特待生試験など受けるわけがない。


「いきなりピリピリしてきたね。いい傾向だよ。じゃあここに居る二十人を実技試験受験者として認めようじゃないか」


 そう言うとセシル教授は用意していた紙を受験生達に配る。全員に紙が行き渡ったのを確認すると、内容を要約して読み上げる。


「実技試験の開催は十日後、場所は魔導迷宮だ」


 魔導迷宮? なんか物騒な名前だな。


「アンタ達にはそこを探索して「成果」を持ち帰ってもらう。なるべく大きな成果を持ち帰った者が合格ってわけだ。分かりやすいだろう」


 迷宮を探索して成果を持ち帰る。宝石とかがあるのかしらと漠然と想像する。でも具体的な物の名前を言わないのが気になるなあ。大きな成果って言うぐらいだから宝石の大きさとか、希少価値で競うのかしら。


 そんな風に考えているアカとヒイロに、セシル教授が冷や水を浴びせる。


「知っての通り、魔導迷宮って奴は熟練の魔法使いでも平気で死ぬような魔境だ。命が惜しいのであればやっぱり辞退することも咎めないよ。ちなみにいざとなったらアタシ達教員が助けてくれると思ったら大間違いだ。あそこに一歩足を踏み入れた瞬間から生きるも死ぬも自己責任。その覚悟があるやつだけ、十日後の二の鐘(朝九時)に魔導迷宮の前に集合するんだね。じゃあ、解散!」


 脅すだけ脅し、さっさと出て行ってしまうセシル教授。


 特待生試験は簡単なものではない事は分かっている。だが今年の課題は例年と比較しても明らかに危険度が高い。「魔法使いの墓場」としても悪名の高い魔導迷宮へ挑むのは、文字通り命がけだ……そして仮に生還出来たとしても特待生の枠は僅かにふたつ。進むべきか、退くべきか。残された受験生達は、各々が自分自身に問いかける。

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