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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第182話 筆記試験終了

 試験が始まってしまえば、さきほどのトラブルなど気にする余裕など誰にも無かった。


 アカとヒイロはもちろん、他の受験生にとっても人生がかかったと言っても過言でないほどの大切な試験である。他人のことなど構う余裕はないといった方が正しい。


 王女のおかげで無事に試験に臨むことができたヒイロとアカであるが、さてその手応えは如何に。


◇ ◇ ◇


「なんかもっと難しい問題が出るかと思ってたけど、拍子抜けだったね」

「変なフラグたてない方がいいと思うけど……」

「でも、アカもそう思わなかった?」

「確かに思ったよりは解きやすかったけど」


 試験が終わり、会場を後にした二人はウイとの待ち合わせ場所――魔法学校正門付近――に向かいながら感想を述べ合った。


 全部が全部、簡単な問題だったわけでもない。当たり前の知識を問う問題から、魔道具作成基礎の理論や魔法出力の公式がわかっていなければ解けないような計算問題、さらに頭の体操を言わんばかりの論理クイズのような問題までバラエティに富んだジャンルから百問以上の問題が出題された。


 だが試験時間は鐘一つ(三時間)とたっぷりあったし、計算問題に多少時間は取られたものの、アカもヒイロも全ての解答欄を埋めることが出来た。

 

「ちゃんと勉強してきたら解ける問題って感じだったわね」

「確かにウイ様との勉強会が無ければ手も足も出なかったかな。ウイ様に感謝だね」

「それは実際に合格してから受け取る事にするわね」

「ウイ様、お疲れ様です」

「お疲れ。その様子を見る限り、二人とも手応えはあったみたいね」

「はい。まあ余程のことがない限り足切り(七割)は下回らないんじゃないかなと思います」

「それは良かった。しっかり勉強を見てあげた甲斐があるわね」

「でもウイ様、私達でもあれだけ解けるような試験だとそもそもこの世界の貴族様であればまず不合格にならないんじゃないですか?」

「まあ貴女達と違って私達はこういうペーパーテスト自体に馴染みがないからそもそも力を発揮しづらいってことはあるのかな。あとは後半の魔道具作成理論なんかは専門的な道に進まないなら分からなくても構わないって出す方も答える方も割り切ってる部分があると思うし、その辺りの点数が丸々取れないとなれば七割っていうのは決して低いラインじゃないわね。……あとはよっぽどやる気のない人間を篩にかけるための試験だと思えば、まあ問題自体の難易度はそこまででもないっていう理由になるかしら」


 ウイの答えにヒイロはなるほどと頷いた。


「じゃあやる気がない人以外はまず合格できるって事ですね!」

「あなた、発言する時は場所を考えなさい。ここにはまだ他の受験者もいるんだから」

 

 出来が良く無かった者が自分達の会話を耳にしたらよく思わないでしょう、とウイはヒイロを嗜める。


「全く、本当にヒイロは迂闊なんだから……さっきだって危うく試験前に首が飛ぶところだったじゃない」

「あ、あれは不可抗力だと思うんだけどな!?」

「なにそれ、どういう事?」


 アカは試験直前のトラブルについてウイに説明する。ウイは驚き、そして呆れ果てたようにヒイロをみた。


「あなた、ロステスト家のご子息に非礼を働いたの!?」

「あれを非礼と呼ばれるとは……大体、話しかけてきたのは向こうなんですよ」

「最初に家名を名乗ったのでしょう? それはつまり家柄を相手に示してそれ以下の身分なら相応の振る舞いをするようにという意味なのよ。この国の貴族なら上級貴族の家名なんて知っていて当たり前だからね」


 言われてみれば確かに最初にフルネームを名乗っていた。

 

「そこで馴れ馴れしくどこに座ればいいですかって聞くなんて、不敬と言われても仕方ないわね」

「実際、死刑だって言われちゃいました……」

「ほんと、ヒルデリア王女様が声をかけてくださって助かったわ」

「そこ! 王女様と話すなんて平民の貴女達どころか、隣国の一貴族でしかない私にだって一生に一度も無いような事なのよ!? それを助けてもらっただなんて……まさか王女様にまで失礼なことを言ってないでしょうね!?」


 ウイは目を吊り上げてヒイロと、アカに問い詰める。


「たぶん、大丈夫かと……」

「ヒイロのいう事は当てにならないわ。アカ、どうなの?」

「おそらく失礼はなかったと思います。そのあとすぐに試験官がやって来て試験が始まったので、特に話すこともなかったですし。一応試験が終わったあとに改めてお礼を言った方がいいのかなとは思ったんですが、王女様は時間の半分くらいで解き終えて答案を提出して退席されたので、それも出来ませんでした」

「試験後に改めてお礼が言えなかったのは痛いけど、先に退室されたのなら仕方ないわね。話を聞く限り王女様の不興は買ってないみたいだけど、実技試験でお見かけしたら改めてお礼を言いなさい。その時はもちろん、ヒイロみたいに馴れ馴れしく話かけてはダメよ」


 貴族の世界では地位の低い者が上の者に話しかける時は、まず話しかける許可を得るのが常識らしい。例外としてあちらから話しかけられた時に返事をする事は失礼では無い、というか話しかけられたらきちんと答えなければそれこそ不敬である。


「つまりこちらから話しかける時は「お言葉よろしいでしょうか」と断って、話しかけられたらハキハキと返事をするって事でいいんですかね」

「じゃあ私がやったみたいに質問がある時は「ご質問よろしいでしょうか」でいいのかな?」

「そんなわけ無いでしょう。身分が下の者が上に質問するなんてあってはいけないのよ」

「な、なるほど……!」

「はぁ……あなた達の場合、なまじ言葉遣いは出来ているだけにその辺りの常識知らずが目立ってしまうわね。試験勉強ばかりでなく、常識の勉強をするべきだったかしら」


 大きくため息をつくウイであるが、その手の常識って暗黙の了解的な部分が大きいんだよなぁ。マナー講師みたいな人っていないのかしら。


 筆記試験は手応えがあったというのに、まだまだ勉強する事は多そうだ。


◇ ◇ ◇


 受験生がいなくなった教室では、さっそく数人の試験官が採点をしている。


「これは……ヒルデリア王女の解答か」

「満点か?」

「残念ながら魔道工学理論の問題で一問、誤りがあるな」

「どれどれ。ああ、ここは回路図上では直列に見えるが全体で大きな回路になっていると見ると並列とみなせる応用問題か。こんなもの、現役の特待生だって解けるものは僅かの、余程専門的な知識と柔軟な考え方を持っているか篩にかける問題じゃないか」

「そうだな。これ以外を全部正解しているという事は、流石の才媛と言うべきか」

「この才能を国のために活かしてほしいが、ヒルデリア様の王位継承順位はご兄弟の中で最も下だからなぁ」

「だからこそ、余計な揉め事を起こさないために学業に力を入れるんだろう。特待生試験を受けるのもそういったご配慮からだろうに」

「第一王子も悪いわけじゃ無いんだが、なんというか物足りないんだよなぁ」

母君(現国王)の資質を一番引き継いでいるのがヒルデリア王女だというのは専らの噂だしな」


 思わず雑談に花が咲く試験官達。そこに加わらず黙々と採点を続けていた老婆が声を掛ける。


「そういう話はアタシのいない所でやってくおくれ。アンタたちの首が不敬罪で飛ぶのは勝手だけれど、アタシまで巻き込むつもりかい?」

「す、スミマセン教授!」

「謝るヒマがあったらさっさと手を動かす」

「は、ハイ!」


 そうこうしているうちに全員の採点が終わる。


「さて、ここから実技に残すやつを選ぶのか……」


 先ほど教授と呼ばれた老婆は答案の束を眺めながら呟いた。


「とはいえ、殆どの受験者が八割以上は正統していますからね。これを全員合格にしたら、実技試験に差し障りがありませんか?」

「だったら九割以下を切っちまえばいいじゃ無いか」

「それは……さすがに不合格者が増えすぎてしまいます。上級貴族のご子息なども多いですし」


 女教授はフン! と鼻を鳴らした。

 

「アタシは昔から学問の場に身分格差を持ち出すのは好きじゃ無いんだ」

「気持ちはわかりますが、魔法学園の運営には貴族からの寄付が必要で……」

「分かった分かった、筆記の足切りは八割でいいよ! その代わり実技では上級貴族だろうと実力のない奴は落とすからね!」


 女教授は両手をあげて降参すると、つまらなさそうに答案の束を投げ捨てる。すると綺麗にまとまっていた答案はがバラけて床に散らばってしまった。


「教授、困ります!」

「ああ、すまないね。悪いが拾っておいてくれ」


 足元の一枚を拾い上げ、そのまま助手である試験官に手渡そうとした拍子に、解答内容が目に入った。


「これは……」

「ああ、この答案はギリギリで八割に届いてないっぽいですね。不合格ですか……」

「馬鹿たれ! これを落とすヤツがあるかい!」

「ええ!?」

「この解答者の問題用紙も回収してあるんだろ!? お見せ!」


 解答用紙に書いてあった受験番号の持ち主の問題用紙を引ったくり、中を確認する。計算問題の余白にある途中計算式を見て女教授はニヤリと笑った。


「ほほう、これは……」

「教授?」

「とにかく、この受験生は合格だよ。贔屓すると困るってんなら、七割九分は取ってるんだから足切りをこの点数まで下げても構わない」

「はぁ……じゃあこの答案の点数を基準にして合格者を絞り込みますね」


 助手はそう言うと改めて床に散らばった答案を拾い集める。そんな様子を見て女教授は呆れ返った。全く、これを見て何も気付かないのかね。


 彼女が目をつけたのは、先ほど助手たちが話していたヒルデリア王女が唯一解けなかったその問題である。

 手元の答案においてもその答えは誤っている。だがこれは解き方にはたどり着いた上で、途中の計算を誤ったタイプの誤答である。つまりほぼ解けていると言っても過言ではないのだ。この問題がここまで解けているなら八割に多少届かなくても十分な学力を有している、試験官にはそこまで気付いて欲しいところなのだが……。


 その上で、どういうプロセスでここまで答えを導いたのか確認しようと問題用紙の余白を見た女教授の目に入ったのはこれまた興味深い文字の羅列。


 ……持ち回りで渋々引き受けることになった特待生試験の監督であるが、なかなか面白いことになりそうだ。実技試験のことを考え、女教授の顔は思わず綻んだ。

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