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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第180話 受験勉強@異世界

 幸い、二人が満足するまで屋上を訪れる者は居なかった。


 乱れた着衣を直し、アカは火照った顔を手で仰いだ。


「ごちそうさまでした」

「そういう言い方、好きじゃないわ」

「照れ隠しだよ。……じゃあなんて言えばいいの?」

「お疲れ様?」

「それもなんかなぁ」


 色気のないピロートークだが、こんな場所だし仕方ない。というか冷静になるとこんな場所でするとか、はしたない事この上ない。アカは改めて手で顔を仰ぐ。


「服着てするのも悪くないけど、やっぱり私はハダカでぎゅって抱き合う方が好きだな。アカは?」

「私も……って言わせんなっ」


 まだ恥ずかしいんだから! そんなアカをヒイロはにやにやしながら眺めている。ヒイロはベッドの上ではSっ気が強いというか、アカを恥ずかしがらせて楽しんでいる節がある。


「それで機嫌直してくれた?」

「だから別に怒ってなかったって……」


 否定するアカの目をじっと見つめるヒイロ。


「分かった、分かりました。ヒイロが言う通りです」

「よろしい」

「でも別にウイ様に嫉妬したそういうのじゃないのよ。ただなんか二人の距離が近いなとか、ヒイロは私の前でもそういう事を気にせずにするんだなとか、そんなことを考えてたらちょっとモヤモヤしてただけっていうか」


 それを一般的に嫉妬って呼ぶんだけどな。


「私が好きなのはアカだけだよ」

「それは知ってる」

「私はウイ様のことは何とも思ってないよ」

「それも知ってる」

「むしろくっつき過ぎで少し鬱陶しいと思ってるよ」

「それは知らなかった」


 三段論法のオチに笑ったアカは、少しバツが悪そうな顔をする。


「私だって、ヒイロの事を信じてるし別に二人に何かあるとは思ってないのは本当。だけどそれはそれっていうか、目の前でくっつかれるのは面白くないのよ」

「じゃあウイ様にくっつくなって言う?」

「それはそれで問題がありそうなのよね……」


 相手の方が身分が上だし、なんならムスコット伯は後ろ盾ですらある。


「まあもう馬車に乗ることは無いし、あんな風に密室で密着する事もないだろうけどね」

「そうだと良いんだけど」


 とはいえ筆記試験までの残り数日間、昼間はまだまだ勉強が続く。アカとヒイロが特待生試験の足切りラインを超える必要があるは勿論、一般クラスに入るウイも筆記試験は受けるので――こちらもあまりに酷い点数を取ると普通に不合格があり得る――結果的に三人で試験対策をする事になっている。


 ヒイロは気にしてないって言うけど、ウイ様はヒイロの事をだいぶ気に入ってるっぽいんだよなぁ……。


 いっそ自分達の関係をカミングアウトしてしまうのも有りかなと思いつつ「実は私たち恋人同士でもあるんです」なんて今更こちらから言い出すのは気不味い事この上ない。師匠(ナナミ)のようにあちらから察してくれれば楽なのになあ。


 先ほどの情事で多少晴れたとは言えまだ心に燻るものを抱えつつ、アカはヒイロと共に部屋に戻るのであった。


◇ ◇ ◇


 試験まであと数日。最後の追い込みで今日ももう勉強中である。さすが魔法学園がある都市だけあって、書店で入試対策の問題集が手に入ったのは幸運であった。


 過去問に縋るのはどの世界でも同じだと言うのは面白い。

 

「はい、採点終わったわよ」

「ありがとう。……正答率八割ちょいか、なんとかなりそうな気がしてきたね」

「安心するには早いわね。アカはほぼ満点とってるのよ」

「私も暗記なら負けてないんだけどなあ」


 暗記でなんとかなりそうな部分は概ね正答できるようになってきた。あとは計算問題での取りこぼしが減ればというところか。


「まあこれだけ解けるなら特待生試験で足切りされても一般クラスには入れるわよ。そうなったら私と一緒に通いましょう」

「それだと肝心の情報が手に入らないんですけどね」


 模擬テストの見直しも終わり、小休止する事にした三人。

 

「落ち人の研究ね。……ニホンだっけ、あなた達が住んでいた国ってそんなにいいところなの?」


 アカが煎れたお茶を飲みながらウイが訊ねる。アカとヒイロは顔を見合わせる。


「まあ、住みやすい環境ではありますね。魔物や魔獣なんてものが居ないので、段違いで安全ですし」

「私はやっぱり生活の便利さかなあ。コンビニひとつない世界ってやっぱり不便だよ」

「コンビニ? それは何?」

「お店の形態のひとつなんですけどね。どの町にも大体数百歩おきにはあって食べ物や飲み物、簡単な本や雑貨なんかが売っているんですよ」


 興味を示したウイに、コンビニについて説明するヒイロ。


「食べ物? お肉が売っているのかしら?」

「食材というより、加工してそのまま食べられるようなものが売っていますね。お弁当、サンドイッチ、パスタやサラダみたいなそのまま食べられる食事をこう、ひとつの容器にパッケージしてあったり、甘いお菓子もたくさん種類があります。あとは飲み物も水やお茶だけじゃ無くて甘いジュースやお酒なんかが買えたり……」

「そ、そんなに沢山売っているの? 余程大きなお店なのね」

「そうですね。色々売ってますね。大きさは、それほどでもないんですよ。その分ぎゅっと詰め込まれてる感じで」

「そんな店が数百歩おきにいくつもあるっていうの?」

「よほどの田舎でもなければ、ですけど」

「それだけ何でも売っているとなると、仕入れだけで何十人も関わっていそうね」

「私はただの消費者だったので仕入れまでは……アカ、分かったりする?」

「私もコンビニでアルバイトしたことがあるわけじゃないからなあ。確か本部みたいなところで一括で仕入れて、トラックに荷物を積んで持ってくるって感じじゃなかったかしら」

「トラックというのは?」

「荷物を積む事に特化した自動車ですね」

「自動車?」

「機械で動く乗り物で……」


 コンビニから始まり、日本の話に興味の尽きないウイに質問攻めにされるアカとヒイロ。ナナミが「随分長い休憩だね?」と助け舟を出してくれなければ、日が暮れるまで話をする羽目になっただろう。


「ごめんなさい、つい夢中になっちゃったわ」

「いえ、大丈夫です。でもこんな話を聞いて面白いんですか?」

「純粋に興味深いってのもあるけれど、あなた達の話は街を治める者としての観点でも参考になる部分は多いわ。例えばコンビニのフランチャイズ経営なんて視点は、個人経営主義の強いこの世界ではなかなか生まれない発想ね。もちろんゼロから思いついて実行できれば一番だけど、そういう概念を知っているだけで上手く統治に応用できる可能性はあるものよ」


 そう言って微笑むウイは、立派に為政者の顔をしている。


「なるほど……確かに一を十にするより、ゼロから一を産み出す方が何倍も難しいって言いますもんね」

「そういう事よ。でもなるほど……こうやってあなた達から話を聞くだけでもこれだけ得るものが多いんですもの、より専門的な知識を持っていたらと考えたらそりゃあ「落ち人は世界に発展と戦争をもたらす」なんて言われるのも納得だわ」

「随分と物騒な格言ですね。発展だけじゃなくて戦争もですか」

「優れた技術があれば独占しようとする者が現れるし、技術の発展は兵器の開発に繋がるという意味なんだわって私でもわかるくらいに、あなた達の話は刺激的だったもの」

「そうですか? 特に兵器の話なんてしてない気がしますけど……」

「直接的なことではなくても、きっかけを与えるには十分な話ということよ。ヒイロ、アカ、くれぐれもあなた達が落ち人だってバレないようにするのよ」

「そのつもりでこれまでもやってきたんですけどね……」

「脇が甘すぎるのよ、特にヒイロは」

「ぐぅっ」


 ムスコット伯の前で墓穴を掘ったのは事実なので何も言えない。ヒイロは苦虫を噛み潰した。


「お父様にしたようなお粗末な駆け引きなんて二度としないのが身のためよ。貴族って言うのは微笑みの下で腹を探り合う生き物なんだから。あなた達みたいな小娘なんて、それこそ一捻りよ」

「ウイ様にそれを言われてもという気はしますが、肝に銘じておきます。ところで一つだけ良いですか?」

「何?」

「ウイ様は私とアカを小娘と言いますけど、私達もう立派な大人ですからね」

「成人したばかりの人間を立派な大人とは言わないわよ」

「この世界の成人って十五歳ですよね? 私とアカはボチボチ二十一歳になるので立派に大人ですよ」


 フンッ! と胸を張るヒイロに、こいつやっぱりそのうち不敬で処刑とか言われそうだなとアカは思った。だがそんなヒイロの態度など気にしていられないほどの驚きにウイは叫ぶ。


「二十一!? 私より五つも年上だったの!? その容姿で!?」


 そもそもBランク冒険者である以上、十五歳はまずあり得ないのだが、ウイは冒険者の昇格の仕組みをよく知らない事もあり、ヒイロとアカの容姿から勝手に二人が年下だと思い込んでいた。


「そんなに驚かれるかな……」

「今日一番の驚きよ。ナナミといい、あなた達といい、やっぱり落ち人は年を取らないんじゃないの?」

「そんな事ないですって。私も年々大人っぽくなってますもん。ねぇ、アカ?」


 いきなり魔球をパスしないで欲しい。アカは乾いた笑いを返すことしかできず、そんな様子を見てウイとナナミは大笑いした。

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