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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第179話 首都到着(※)

 一行を乗せた馬車はトラブルも無く無事に魔導国家首都――首都の名前も国と同じ、エンドという――に到着した。


 道中では馬車が何者かに襲われるといったこともなく、アカとヒイロはひたすら勉強に打ち込む事ができた。


 貴族用の門から街に入ると頑丈な壁の内側には立派な建物が所狭しと並んでいる。

 

「さて、まずは馬車を預けて宿の確保だね。合格したら寮に入れるけれどそれ迄は宿に泊まらないといけないからね。いい宿が空いていると良いんだけど」

「宿って貴族用の宿ですか?」

「当たり前だろう。ウイユベール様を平民用の宿に泊まらせようっていうのかい?」

「私は別に構わないけれど……」


 ウイユベールは苦笑する。以前の自分なら文句もあったかもしれないが、ヒイロとの二人旅ではほぼ野宿だったためたまに泊まった平民用の宿に感動した。そんな経験が彼女の宿屋に対する要求レベルを思い切り下げている。


「そうはいきませんよ。貴族には貴族の過ごし方がありますでしょう」

「まあそれもそうね。お金はお父様から預かっているから心配しなくても良いわ」

「えっと、お言葉に甘えていいんですか?」


 アカがウイユベールとナナミの両方に訊ねる。ここまでの道中は一応護衛の名目でウイユベールと同行してきたので宿代は経費かなと思っていたが、街に着いた以上は自腹のつもりでいた。ちなみに先ほど貴族用の宿かどうか聞いたのも、なんならウイユベールとはここで別れる選択肢もあるのかなと思ったからでもある。


 だがウイユベールは試験までの滞在費も負担すると言ってくれた。これを受けるのが正しいのか、それとも断るべきなのか判断がつかなかったので聞いてしまったというわけだ。


「勿論よ。アナタ達だけで平民街に行くなんて言ったら許さないんだから」

「だそうだ。素直に甘えさせて貰おうじゃないか。そうと決まれば宿探しだよ。この時期は国中から受験生が集まるから、モタモタしているとまともな宿から部屋が埋まってしまうよ」

「逆に貴族街にまともじゃない宿ってあるんですか?」

「同じ金を払うなら、美味いものが食べたいだろ」

「ああ、なるほど!」


 それならばということで、四人は急いで宿を決めることにした。ちょうど夕暮れ時だったことも幸いし、厨房から一番良い匂いをさせている宿を探し出しすと運良く四人部屋が空いていたのでそこを十日間ほど押さえる事ができた。


◇ ◇ ◇

 

「うまっ! やっぱり当たりだったね!」


 宿の一階にある食堂でヒイロは夕食に舌鼓を打つ。


「本当、美味しいわ。まあウチのメイドが作ったものには勝てないけれど」

「ウイ様のお屋敷で頂いたディナーも美味しかったですもんね」

「ふふ、良い料理人を雇うのも貴族の務めというものよ」


 ウイユベールは得意げに鼻を伸ばす。ちなみにアカはそのディナーをスープしか頂けていないので(※)これより美味しいってどれだけ美味しかったんだろうと今さらながらに興味が出てきた。あとでヒイロに詳しく聞いてみよう。

(※第12章 第169話)

 

「試験の申込は明日の朝で大丈夫ですかね」

「ああ、途中に張り紙があったけど五日後に志望者全員で一斉に学科試験をするみたいだね。受付は前日までやっているはずだから明日でも余裕だろうさ」

「間に合ってよかったです」

「志望者全員ってことは、一般クラスの人も特待生と一緒にペーパー試験を受けるんですかね」

「そうなんじゃない? 同じ問題なら同じ日にやったほうが効率的だし」

「じゃあ当日までまた勉強しないとですね」

「そうね。うっかりヒイロが不合格になったら、この十日間ずっと馬車を引いてくれたナナミの働きを無駄にしてしまうわけだしね」


 さらりとプレッシャーをかけるウイユベールとあわせてニヤリと笑うナナミに、ヒイロは曖昧に笑って誤魔化した。いや、今の時点でもそれなりの点数は取れると思うけどさ。


 ……。


 …………。


 ………………。

 

「こんな時間まで勉強?」


 夜。月が高く上がり、街中が眠りについている。宿の屋上で月光浴をするヒイロに、アカが声をかける。

 

「まあ、落ちたら格好悪いしねぇ……」


 手元の教科書から顔を上げ、ヒイロは頬を掻く。そんなヒイロの隣にアカは腰掛ける。


「ヒイロって日本ではどうだったっけ?」

「んー、平均よりは良いかなってぐらい。私、試験勉強って問題集を何回も解くタイプだったんだよね。こうして教科書を眺めているだけだと覚えてるかやっぱり不安でさ」

「私もそうだけど。じゃあ問題出してあげるよ」


 そう言って教科書を取り上げると適当なページを開く。


「ここは……魔法理論かな。一片16(フィンガー)の立方体の岩プロックを作る魔道具がある。これが40MP(マナパウ)の土魔石で動く場合、削岩に必要な風魔石のMPの最小値はいくつになるか。ただし装置の概要は以下の図の通りとし、各素材の魔法抵抗は1.6MP/Fとする」

「待て待て、それって一番意味わかんないところじゃん!」

「一応計算すれば解けるし、物理の電気抵抗の計算っぽくない? ほら、装置の概要図とか模試で見たことある気がするし」

「いや、試験に出るなら魔法抵抗から出力を求める公式程度じゃないの? こんな応用の極みみたいな問題出されても困るわ……っていうかこういう時に出す問題って「魔導国家エンドの初代国王の名前は?」とかそういう簡単なのでいいんだよ」

「簡単だったらヒイロのためにならないじゃ無い」

「塩梅」


 笑いながらヒイロはアカから教科書を受け取り、適当なページを開く。


「じゃあ私から問題。王国歴331年にウェルシア連邦で起きた、」

「ツノマキ島の革命」

「……ですが、その先導者の」

「イースレイ辺境伯」

「……が、革命を起こした直接的な引き金となった」

「憲兵が罪のない子供を私刑に処したから」

「……その子供の名前は!?」

「載ってない」

「参りました! っていうかアカ凄いね」


 イジワルクイズのような問題を完璧に答えられてヒイロはお手上げのポーズをとった。アカはフフンと勝ち誇る。

 

「そりゃこの十日間、読み込んでいたからね」

「こんなの端っこに小さく書いてあるだけなのによく覚えてるね」

「私は真面目に勉強してたから」

「私だってやってたけどさぁ」

「ヒイロは、ウイ様とお喋りばっかりしていたからじゃない?」

「そんなにお喋りばっかりってわけじゃないと思うけど」

「そう。そうかもね」

「アカ、どうかした?」


 アカのらしくない態度に引っかかったヒイロは理由を訊ねる。


「別にどうもしてないけど」

「なんか怒ってる?」

「怒ってないわ」

「嘘」


 ヒイロはアカの正面に回り込みその顔を見つめるが、アカはプイと顔を逸らしてしまう。


「私、何かした?」

「だから別に怒ってないって」

「むぅ」


 アカは怒ってないって言っても、機嫌が良くないのは分かる。何年一緒にいるんだよ……っていうか、自分じゃなくてもアカってわりとこういうところ子供っぽいから機嫌が悪いのは分かりやすいと思う。


 こんな態度のまま部屋に戻ってウイ様に勘繰られるのもなぁ。ん? ウイ様?


「……もしかしてアカ、ウイ様にヤキモチ妬いた?」

「はぁ!?」


 思い切り振り返って眉根を寄せるアカ。図星かよ。


 そういえばこの十日間、馬車ではずっとウイ様が隣だった。なんかウイ様の距離が近くで肩がくっつく事があって、ヒイロとしては正直鬱陶しいなーむしろアカとくっつきたいなー思っていたけれど、かと言って払うわけにもいかないし……とされるがままだったのだけれど、アカから見たら他の女といちゃついているように見えたのかも知れない。


 それでヘソを曲げていると。なんだ、かわいいじゃん。


「別に私とウイ様はアカが心配するようなことは何もないよ?」

「べ、別に何も心配してないけど」

「ほらぁ、機嫌直しなよぉ」

「わわっ!」


 ヒイロはアカに抱きつくと、頬に手を添えて唇を重ねる。


「はむっ……んむ……んっ……」

「ん……、ぷはっ! こら、ヒイロ、」

「あむっ!」


 抵抗するアカの口を再び塞ぐ。アカは抵抗するそぶりこそみせるが、腕には碌に力が入っておらずフリでしかないのはバレバレである。その証拠にアカの口内にチロチロと舌を挿し込むと、アカもそれに応えるように舌を絡めてくる。


 暫く口付けを楽しんだヒイロは手をアカの身体に伸ばす。アカはビクッと反応して唇を離した。


「こ、ここで?」

「だって部屋には二人が居るし」

「そうだけど、人が来るかも知れないし」

「こんな時間にわざわざ屋上に来る人なんて居ないよ。……なら、辞める?」


 少し意地悪っぽく聞くと、アカはヒイロが欲しい反応を返す。


「やめちゃヤダ……けど、誰かに見られたら恥ずかしい……」


 そう言いながらヒイロの手を掴み、自分の服の下におずおずと差し込んだ。


「だから、着たままで……いい?」


 ああもうかわいいなぁ! ヒイロは頷く代わりに重ねた手で誘導された乳房をやや乱暴に揉みしだく。アカは嬉しそうに快感に震えると、お返しとばかりにヒイロの下半身に手を伸ばしつつ、再び唇を重ねてきた。

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