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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第178話 特待生試験とは

 特待生とは、入学時点で特別優秀であることを示した者がなる事ができる。魔導国家の将来を担う人材、または技術の発展に大きく貢献することが期待されるような者がそこへの入学を許される。


 カリキュラムは一般クラスとさほど変わらないが、興味の無い授業は受けなくても良かったり、研究成果を残せば最大で十年まで在学出来るなどより深く勉学、研究に勤しむ事が出来る。その中で必要とあれば、条件付きで国家機密となるような情報すら得る事が出来る。


「まあ、特待生試験の結果が振るわなければそのまま一般クラスに入学することもできるんだけど、あえてそれをせずに翌年再挑戦するって人もいるわ」

「再挑戦で受かるってこともあるんでしょうか?」

「あるからやる人が居るんだけど、それが特待生のちょっと特殊なところでね」


 特待生コースを卒業すると将来は約束されると言っても過言ではない。事実、現在魔導国家の政治を回している要職はほぼ全員が特待生クラスの卒業者だ。そうなると特待生クラスを出る事はそこを目指すための前提条件のようなものだという暗黙の了解が出来てしまっている。つまり、親が特待生クラスを卒業した上級貴族の子息などはここに入れて当然という空気が出来てしまっているのである。


「つまり、実力もないのに特待生クラスに入るボンボン貴族が居るっていうことですか?」

「ヒ、ヒイロ!」


 さすがに貴族(ウイユベール)の前でその言い方は、とアカが諌めるが当のウイユベールは気にしていない様子で答える。


「流石にそこまで露骨な事はしないでしょうね。仮に入れたところで実力が伴わなければ卒業は難しいわけだし」


 そんなわけで一部の上級貴族の子息にとっては一生を左右する特待生試験となるわけだが、これを突破するのは容易ではない。入れさえすれば将来が約束されるという事は、中級、下級の貴族であっても一発逆転可能とあれば当然その席を狙うし、純粋に研究者になりたくてそこを目指す者も少なくない。


 毎年多くの志願者が少ない席を争うのが魔法学園の特待生試験なのである。


「……と、ここまでが各クラスの説明ね。それで、さっきヒイロが聞いてきた特待生試験の内容なんだけど」

「はい、待ってました!」

「知らないわ」


 ズルッとヒイロがズッコケる。相手が貴族(ウイユベール)でなければ「知らないのかよ!」とツッコミを入れただろうが、そこは自制が効いてくれたようだ。


「というよりも、毎年試験内容が違うのよ。ペーパーテストは一般クラスと同じだけれど、そこで満点を取ろうと特待生試験においてはたいした意味はないわ」

「実技試験みたいなものがあるってことですね」

「ええ。毎年試験管も試験内容も変わるらしくて、試験に特化した対策が難しいっていうのが実情ね。だから何度も受けても合格できない人もいるし、そういう人でも試験管や課題との相性が良ければ合格できちゃうっていう事らしいわよ」

「じゃあ私達に有利な試験が来てくれればラッキーですね」

「そうだけど、あなた達に有利な試験って何?」


 そんなもの無いんじゃないかしら。こらヒイロ、そもそもアナタが言ったんだから、そこで期待に満ちた目でこっちを見るんじゃないよ。


◇ ◇ ◇


 初日の旅が終わり、無事に街に着いた一行は馬車を停めて宿をとった。ちなみにツートン王都から魔導国家首都までは街も多く、十日間の道中で野営が必要になるのはせいぜい二日ほど、それすら夜明けと共に街を出ればギリギリで日暮れ迄に次の街に着けるという位置付けだ。


 ツートン王都から魔導国家首都をつなぐ街道という事で、街の感覚が狭いし行商も活発である。こんな道のりで盗賊をやろうなんて馬鹿はほぼ居ないし、今日も何度も商人とすれ違いはしたけれど不埒な輩はお目にかからなかった。


 一行は宿の食堂で夕食を摂る。昼間の話をナナミにも共有すると、余裕を持って頷いた。


「まあアンタ達なら実技は問題ないだろうさ」

「師匠は今年の試験内容をご存知なんですか?」

「それは知らないけど、基本的には強い魔法が使えるものが有利になる試験だよ。そういうの、得意だろ」

「ナナミは特待生試験を受けた事があるの?」

「ええ、お嬢さま。もう五十年近くも前になりますけどね、私もあそこを卒業しているんです」

「五十年前!? あ、あなた何歳なの……?」


 ウイユベールは目を丸くしてナナミを見る。確かにナナミは四十路前後、三十台といっても通じるような見た目をしているので、いきなり五十年前に特待生だったと言われたら驚くだろう。


「正確な歳は忘れましたが、光属性魔法を極めた結果、肉体の老化をここまで抑えることが出来るようになったのですよ」

「ヒイロ、聞いた? 私、自分の属性が風なのをこれほどまでに悔しいと思った事はないわ」

「ウイ様、光属性魔法使いがみんな師匠みたいな若作り魔法を使えるわけじゃないんですよ」

「若作り魔法とは言ってくれるじゃないか」

「あ、こ、これは言葉の綾ってやつです!」


 ギロリと睨むナナミにヒイロは慌てて手を振った。


「でも光属性魔法使いが若返りの魔法を使えるなんて知らなかったわ。魔導国家では当たり前なのかしら?」

「これは若返りではなくあくまで老化の抑制。強化と自己回復を突き詰めた結果の副産物なんですよ。細胞の強化と修復によって身体を今の状態に保たせようとする力が強く働くっていう理屈ですね。魔導国家の中枢にはこんな魔法の使い方をする人間は居ないでしょうからあまり知られていないし、知っていてもやらないんじゃないですかね」


 光属性魔法の身体強化は回復の応用で身体を活性化させているらしく、それを極めているナナミは自然と老化がとてもゆっくりになっているということらしい。そして、そこまで身体強化に全振りする者はほぼ居ないという事である。


「ちなみに師匠、実技はお墨付きを貰いましたけど、筆記試験はどんな問題が出るんですか?」

「それこそきちんと勉強しておけば何も問題ないだろう。ちなみに特待生試験の筆記の足切りラインは正答率七割だよ。それ未満だとそもそも実技試験を受けさせてもらえないからね」

七割(70点)って聞くとまあそこまで難しそうには思えないかな」

「そうだね。前にウイ様から習った範囲からならまあそこそこ点が取れそうだし。平均点ってどのくらいなんだろう?」


 八割と聞いても焦らないアカとヒイロにウイユベールが指摘する。


「アナタ達、すごい自信ね。ちなみに例年、一般クラスの合格者の平均点は正答率四割前後らしいわよ」

「へっ!? 正答率四割が平均ですか!?」

「ええ。だから七割っていうのは実はトップクラスの成績って意味ね」

「そ、それはマズいっ!」

「師匠! 今年の問題用紙は持ってないですか!?」

「馬鹿タレ。それじゃあ試験にならないだろうに」


 急に焦り出すアカと、まず先にズルをしたがるヒイロにナナミは呆れてため息をつく。ウイユベールはそんな様子を楽しげに見ながら二人に助け舟を出した。


「仕方ないから残りの九日間、馬車の中でしっかり勉強を見てあげるわよ。ナナミにはずっと馬車を任せる事になってしまうけれど……」

「構いませんよ。この二人が学科で足切りされるよりマシですから。二人とも、しっかり勉強させてもらうんだよ」

「は、はい!」

「お世話かけます……」


 受験勉強か、この世界に来ていなければとっくの昔に経験して、今頃は大学生活をしていた頃なんだよなあ。そういえば今から元の世界に戻る事ができたとして、私は最終学歴が中卒になるのかな。魔法学園を卒業したって言っても日本での学位にはならないよなぁ。


「ヒイロ、またしょうもないこと考えてるでしょ?」

「わりと真剣に将来のことを考えてたよ」

「将来のことより、目の前の試験のことを考えてほしいのだけど」

「はーい」


 まあ、帰った後のことは帰ってから考えればいいか。そう結論付けたヒイロは気持ちを受験勉強に切り替えた。

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