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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第176話 面会

 翌朝、朝一番でギルドの窓口に手紙を渡す。これが今日の夕方以降にムスコット伯の手に渡り、ムスコット伯から面会日を指定した返信を貰えるのが早くて二、三日後というのがナナミの見立てであった。


 なのでその日の晩にムスコット伯の遣いがアカ達三人の滞在する宿にやってきたことは驚きであったし、すぐにアカとヒイロの為に動いてくれたのだとありがたい気持ちになった。


 遣いの用意した馬車に乗りアカとヒイロはムスコット邸を訪問した。ちなみにナナミは宿でお留守番である。同行してくれた方が心強いが「面識のないアタシが同行するのを相手はよく思わないだろう」と言われてしまい、否定できなかった。


 ……。


 …………。

 

「まずは、説明してもらわないといけないな」


 屋敷の客間に通されたアカとヒイロを迎えたムスコット伯は、手渡された推薦状を置くと手を組んで二人を見る。先日とは違う圧力(プレッシャー)にビビりつつ、アカは当然こうなるわなと思った。


 そもそも先日屋敷で話をしてから数日しか経っていない。相手にしてみれば何故その時言わなかったと思うだろうし、


「魔法学園の特待生推薦状か。ウイユベール(ウチの娘)は一般クラスに入学予定なんだがな」


 ですよね、知ってます。ウイ様を差し置いて特待生を目指していますって言ったら当然面白くないよなぁ。


「私達、落ち人に関する情報を探しているんです」

「落ち人に?」

「はい。そしてそれを魔導国家で研究しているって事はわかっているんですが、私達がそこに関わろうとしたら……」

「ああ分かった。確かに特待生になり研究者に就くぐらいしか方法は無さそうだ。それなら前回言ってくれても良かったのだが」


 ムスコット伯は心得たとアカの言葉を遮った。確かにBランクにならなければ特待生の推薦を受けられないというルールは無いので先日の面会時に言っておけよというのは正論ではある。実はその時点では特待生のことなんて知らなかったんですとは言えず、黙り込んでしまう。


 そんなアカとヒイロに助け舟を出したのは横にいたアリアンナ夫人とウイユベール嬢であった。


「この間はアカも昏睡から目覚めたばかりでそこまで気が回らなかったんでしょう」

「お父様、ヒイロは私よりも何倍も魔法の扱いがうまいのだから、特待生になると言ってもそこまで非現実的ではないわ」

「アカも複数人のBランク冒険者相手に魔法で大立ち回りを演じていたから、実力は私が保証するわ」

「むぅ……お前達は二人の味方か。私とて別にサインしないとは言っていないのだが……」


 厳格なムスコット伯も、妻と娘の前ではタジタジである。そこが彼の人間的な魅力でもあるのだろう。


 ムスコット伯は、緩んだ顔を引き締めると改めてアカとヒイロの方を見る。


「実力については妻と娘の太鼓判もある事だし、そもそも君たちが特待生試験で無様を晒しても隣国貴族の私にとっては大した痛手にならない。逆に見事合格してくれればあちらの国でも名前が売れるので、これは私にとっても悪い話では無いのだが……」


 腕を組み何やら考え込むムスコット伯。アカとヒイロが何故落ち人の研究をしようとしているのか予想しているのだろうか……仮に訊ねられたらそこは「言えない」で通す予定だ。特待生を目指す目的については言わざるを得ないがその理由、つまり二人が日本に帰る手段を探すためという部分については明かせない。予め二人で相談してそう決めていた。


 しかし、そんな二人の思惑を軽く飛び越えてきたのがウイユベール嬢であった。


「それにしてもわざわざ特待生になってまで落ち人なんてマニアックなことを研究したいなんて、もしかして二人とも落ち人なのかしら?」

「ぶふっ!?」

「ちょっ、ヒイロ! 汚い!」


 ウイユベールとしてはその場の重い雰囲気を和ませようとジョークのつもりで言ったに過ぎない。だがまさかの方向から直球を投げられたことによるヒイロの反応は、正に肯定そのものであった。


「え……えええええっ!? ず、図星っ!?」

「…………」

「…………」

 

 俯き目線を泳がせるアカとヒイロ。どうしよう、こんな展開は流石に想定外すぎる。


「えーっと、ノーコメントで……」


 そして苦し紛れのヒイロの呟きは自白と変わらなかった。


 ……。


 …………。


「ウイ。お前も貴族の娘として言葉にして良いこととそうで無いことは弁えなさい」

「ご、ごめんなさい。だけど、まさか本当にそうだとは思わなかったのよ」

「そう思わなかったことも含めて思慮が足りないと言っているんだ。二人があえて落ち人の研究をしたいと言った理由、それがブラフか本心か、ブラフだとしたら、本心だとしたら、何故そう言ったのか。その理由を考えたか? だとすれば可能性の一つとしてあり得ると至ったはずだ」

「まあまあアナタ、ウイも悪気があったわけでは無いのだから」

「悪気の有無の話はしていないのだがな……」

「まあ私は二人の話を聞きながらもしかしたらそうかもなぐらいには思っていたから、間違ってもあんな風に直接聞いたりできないけどね。何も考えてないからこそ、あんな質問ができたと思えば逆に大したものじゃないかしら」


 しゅんとしてしまったウイユベールを慰めてしまっているのか貶しているのか、アリアンナ夫人は楽しそうに笑う。


「アナタ、この会話は?」

「まあ漏れてはいないだろう。盗聴の魔道具も無いはずだ」

「だったらアカもヒイロも、もうバレちゃってるんだから開き直って全部話しておしまいなさい。正直になれば、この人も悪いようにはしないわよ」


 アリアンナ夫人はそういうと、未だに俯くアカとヒイロに笑って見せた。


 ……。


 …………。


 ………………。


「なるほど、元々いた国に帰るための手段を求めているというわけか」

「はい……魔導国家にそれがあるという保証もありませんが、現状では唯一の手掛かりなので」


 観念したアカとヒイロから事情を聞いたムスコット伯は頷いた。


「確かにその目的なら魔導国家で研究職に就くのが一番の近道だろうな。だが、異なる世界から落ちてくる人の話は居るという話はあってもその逆は聞いたことは無いが」

「私達の世界に落ちた人は向こうで同じことを言っているかもしれないので。可能性は高くないと思いますけど……」

「フム。まあそういう事なら良いだろう」


 ムスコット伯はペンを手に取りサラサラと推薦人の欄にサインをすると、そのままアカとヒイロに手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます!」

「先ほども言ったが、君達が合格出来なくても私にさしたる痛手はない。とはいえこうして名を貸す以上、全力を尽くしてくれる事を望んでいるよ」

「はい! 勿論!」


◇ ◇ ◇

 

 その後少し話をして、アカとヒイロは屋敷を後にする。


 残された一家は茶を飲みながら先ほどの話を振り返った。


「まさか落ち人とはね。御伽話の存在だと思っていたが、いやはや分からないものだ」

「でもあの二人の不自然さを思うとそう言われれば納得できる部分も多いわ。そうよね、ウイ?」

「はい、お母様」

「ほう。例えばどんなところだい?」

「えーっと……、平民なのに頭が良かったりとか。護衛依頼の途中で一緒に勉強をしたんだけど、二人と歴史とか魔術史とかは全然知らないくせに算術だけ妙に得意だったわ」

「そうね。私も横で見ていて、あの二人は勉強の仕方が身に付いていると思ったわ。最初はどこかの貴族が身分を偽っているのかもしれないと思ったぐらいだもの」

「なるほどなるほど。元の国ではきちんとした教育を受けていたという事か。他にあるかい?」

「あとは、アカとヒイロって妙に距離が近い気がするけど、それも元の国の風習なのかしら」

「距離が近い?」

「ええ。さっきもだけど、こういう横長のソファに座る時ってなんとなくこのぐらいは離れるでしょう?」


 そう言ってウイユベールは隣に座る母親(アリアンナ)を見た。ソファから腰を浮かせて、半分ほど距離を詰めて座り直す。


「それが、二人の場合はこのぐらいの距離なのよね。これだとちょっと手を伸ばしたら腕とかが当たってしまうのにっていつも思っていたのよ。あれもニホン?っていう国の文化なのね」


 早速アカ達から聞いた二人の故郷の国の名前を出してうんうんと勝手に納得するウイユベール。アリアンナはそんなウイユベールを見て微笑ましく思った。あれはどちらかというとお互いを大切に想うもの同士、言ってしまえば恋人同士の距離感である。それが分からないようではこの子もまだまだね、そう思いつつも口にはしない。


 その後もあれやこれやでアカとヒイロとの思い出を振り返るウイユベールとアリアンナの話は盛り上がり、ムスコット伯は夜遅くまで解放してもらえなかった。


◇ ◇ ◇


 一方で宿に帰ったアカとヒイロはナナミに大いに笑われていた。


「ハッハッハ! 全部バレてしまったかい!」

「ウイ様にあんな形で図星を突かれるとは思ってもいなかったんですよ」

「天然か計算か、いずれにせよウイユベール嬢も中々に面白い子じゃないか」

「ウイ様は天然だと思うなぁ」

「まあウイ様があんなにストレートに訊いてくれたおかげで、いっそ話しやすくはなったけどね。ムスコット伯は初めから分かっていたみたいだったし」

「そりゃ「目的は言えないけど落ち人の研究をしたいです」と言えばなんとなく察しは着くさね。アンタ達みたいな小娘が貴族相手に駆け引きしようなんて土台間違いなんだよ」

「ええっ!? じゃあ昼間、師匠の前で私とヒイロがどうやってお願いしようか相談して「落ち人の研究をしたいってところまでは話そうか」って言った時にはこうなると分かってたんですか!?」

「まあね。だけどアンタ達の話を聞いてムスコット伯になら打ち明けても大丈夫だと思ったから黙ってたんだよ。魔導国家でもそのうちバレる時が来るだろうし、今のうちに少しずつ信頼のおける人間を増やしておいた方がいいよ」

「バレたらまずいんじゃないの?」

「とはいえ最後まで隠し通せるものでもない。今のうちからその時のことを考えておかないといけないよ」


 ナナミはヒイロとアカに言い聞かせるように助言した。

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