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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第13章 いざ行かん、魔導国家
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第175話 魔導国家中枢への道

「まあ落ち人についての情報がトップシークレットだっていう歴史的な背景は理解しました。それで、これがどう繋がるんですか?」


 ヒイロが先ほど渡された推薦状をヒラヒラと弄ぶ。


「国の最重要機密に触れる事ができる人間なんて魔導国家でも一握り。上級の貴族でなく、それどころか他所の国からやって来たアンタ達が正攻法で情報を得るなんてまず無理だ」

「「私たちも落ち人です」ってカミングアウトしたらなんとかなりませんかね?」

「どこの世の中に研究対象(モルモット)にその内容を見せてやるバカ研究者がいるんだい」


 あっさり作戦を否定されたヒイロは「モルモット……」と呟いて撃沈する。


「え、まさか魔法学園に入って研究者になれって事ですか!?」

「その通り……と言いたいところだけど、それだと時間がかかり過ぎるし、そもそも魔法学園は平民にも門戸を開いているとはいえ、それは魔法を使う才能を持ちながらきちんとした教師が居ないせいで、その才能を腐らせるって事ができるだけ無いようにっていう理由であって、まあ余程優秀なら研究者が雑用として雇う事はあるかもしれないけれど平民が研究者になるって事は無いんじゃないかね」

「じゃあ八方塞がりじゃん!」

「それを何とかするためのモノがこの推薦状だよ。よく見てごらん」


 ナナミに促され、アカとヒイロは手元の紙をよく読んでみる。


「……ん? 特待生入学って書いてある」

「特待生って授業料が免除になるあれ?」

「気付いたみたいだね。魔法学園の特待生制度ってのは優れた魔法使いを重用するためのシステムで、入学時点で特に優れていると認められればなる事ができる。こっちは所謂エリートコースだよ、卒業後どころか在学中に国の重要ポストにつくなんてことも珍しくない」

「なるほど、そこで落ち人研究する部署を目指せば私達にもチャンスがあるって事ですね」

「簡単な道のりじゃないだろうけどね。ただ、闇雲に情報を探して彷徨うよりは断然マシだろうさ」

「流石師匠! 裏ルートを知り尽くしてますね!」

「褒め言葉として受け取っておくよ。……ただ、こっちも容易な道のりじゃない。まず特待生になるのが難しいね」

推薦状(これ)を持っていけばいいんじゃないんですか?」

「これは特待生入試を受けるための推薦状さ。魔法学園の特待生ってのはなれれば将来は約束された様なもんだから、それこそ国中のエリート達がこぞって受験にくる。何浪もしてる上級貴族もいるって世界だよ」

「あ、浪人生もいるんだ。何年も浪人するとか、そういう人は通常クラスで行こうとは思わないのかな?」


 ヒイロはこの世界に来た当時、まだ高校二年生だったので本格的に受験を考えては居なかった。模試を受けた際の偏差値から漠然と行けそうな大学をいくつか候補に挙げていたぐらいのものである。

 

「意地とプライドがあるんだろうね。まあ何回も落ちてるなんて輩は別にライバルにならないだろうけどね。それだけ狭き門だって事を肝に銘じておく様に」

「はーい」


 ナナミとヒイロのやり取りを横目に手元の推薦状を眺めていたアカはひとつの疑問を覚えてナナミに訊ねる。


「これ、推薦人の欄に師匠の名前がありますけど、いいんですか?」

「ああ、アタシは魔法学園(あそこ)ではちょっと名前が売れてるからね。直接の面識があるのはもう一部の人間になってはいるけど、それでもアタシの推薦を無視できない程度には影響力はあるんだよ」

「さすが!」

「えっと、これよく読むと推薦人はもう一人必要っぽいんですけどそこはどうするんですか? 師匠の後見人っていうライオルさんでしたっけ。その方に頼むんですか?」

「そう出来れば良かったんだけどね……」


 そう言ってナナミは辛そうな顔をする。アカはしまったと思った。そう言えば師匠がこの世界に来た五十年前の時点でライオル氏はだいぶ歳をとっていると言っていた。既に永遠の別れをしているのかもしれない。


「……えっと、じゃあこの欄はどうすれば?」


 誤魔化す様に聞くと、ナナミは顔を上げて、注意事項の欄を指した。


「ここに書いてあるだろ。推薦人は基本的に魔導国家に所属する貴族以上とするべしって」

「魔導国家のお貴族様に伝手があるんですね」

「そんなもん無いよ。少なくともアンタ達を特待生試験に推薦してくれるような貴族とはね」

「ええっ!?」

「この推薦状に名前を書くってのは、家名を背負わせて試験に送り込むってことさ。そこで推薦した人間が情けない結果を残したら名前を貸した貴族には少なからず醜聞になる。どこの馬の骨とも知らない小娘達に名前を貸してくれる貴族なんて普通は居ないだろう」

「ああ、そういう感じなんですね。その家の代表者になるみたいなノリなわけか」


 先ほど何浪もしている者もいると言っていたが、それはそれは大層家名を貶めているというわけか。怖い世界だなあとアカは思った。


「じゃあこの欄はどうすればいいの?」

「ヒイロ、アンタが自分でそこにサインしてくれる貴族との伝手を作ればいいんだよ」

「ええっ!?」

「アタシがBランク冒険者を目指せって言っていたのはまさにそのためさ。貴族と伝手を作れるのはBランクからだろ。そこで依頼を受けて貴族に気に入られて、そこにサインしてもらうように頼めばいいのさ」

「そんな回りくどいことのためにせっせとランクを上げさせたんですか!?」

「回りくどいも何もそれ以外に方法が無いんだから仕方ないだろ」

「でもBランクだからって貴族からの依頼をほいほいと受けられるわけじゃ無いわけで。……ああ、でも王都(ここ)ならまだある程度マシなのか」

「何言ってるんだい。アンタ達はもう立派な伝手を持ってるじゃないか」

「伝手って……もしかして、ムスコット伯のことですか?」

「ああ。アタシも最初は王都でコツコツと仕事をしながら貴族と繋がりを持つしかないと思ってたけど、聞けばアンタ達のことを随分と気に入ってくれているみたいだからね」

「師匠、ムスコット伯はツートン王国(この国)の貴族様であって魔導国家所属の貴族じゃないですよ」


 ヒイロが指摘にナナミは不敵に笑ってみせる。


「この国は魔導国家と隣接してる友好国だからね。第二推薦人としてならツートン王国の貴族でも受け入れてもられるんだよ。これはそこの注意書きには書いてない裏ルールみたいなもんだけどね」

「そんな裏ルールまであるのかよ」

「まあ魔導国家の貴族でもない者が特待生試験を受けようと思うなら、ある程度の情報収集能力も必要って事だね。アンタ達はアタシが付いてて良かっただろう? そういう縁を作るのも実力の内さ」

「うーん、褒められてる?」

「私とヒイロが褒められてるっていうよりは師匠の自画自賛じゃないかしら」

「カカカッ、アカも言うようになったね! まあなんとでも言うといいさ、とにかくさっさとムスコット伯に連絡を取ってそこの第二推薦人の欄に署名して貰っておいで。急がないと今年の試験に間に合わなくなるよ。一年無駄にしたくはないだろう」

「試験っていつなんですか?」

「春の双月が一年の区切りだから、遅くともその十日ぐらい前には試験は終わってるね」

「アカ、春の双月まであとどのくらいだっけ」

一ヶ月(三十日)くらいかしら。そこまで焦る程でもないんじゃない?」

ツートン王都(この街)から魔法学園がある魔導国家の王都まで、馬車で十日は掛かるからね。そう考えたらもう何日も余裕はないだろう」

「それもそっか。じゃあ明日にでもムスコット伯に会わないと!」

「ヒイロ、平民が貴族に会おうと思ったら貴族街にごめん下さいと訪ねて行くわけにはいかないんだよ。冒険者ギルドを通して面会希望の手紙を出すのがルールだ。その返事が来るまでに二、三日は見たほうがいいし、そこですぐに予定を空けてもらえるかどうかもお貴族様次第さ。まあアンタ達の頼みならムスコット伯は無下にはしないだろうけど、それでも貴族としての仕事はあるだろうし、何日かは待たされるだろうね」

「ええっ!? じゃあもう本当にギリギリじゃないですか!」

「そういうこと。そもそも今年の試験に間に合うとは思ってなかったからね。たまたまムスコット伯に気に入ってもらえたって聞いたから急げばなんとかなるかなってのが正直なところだね」


 この機会を逃せば次の特待生試験は一年後である。アカは慌ててペンを取り、ナナミの指導に従ってムスコット伯への面会希望の手紙をしたためるのであった。

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