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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第3部 魔導国家エンド
188/219

十余年後の双焔と勇者

 イグニス王国。王都の守りの要となる砦のひとつは既に魔導国家軍の精鋭部隊によって陥落していた。頼みの聖騎士も散り、駆けつけた異世界の勇者達も戦況を覆すには至らなかった……否、彼らは戦うことを選べなかったのである。


「あの二人と戦わずに済んで良かったね」


 ヒイロの言葉にアカは頷いた。元・クラスメイトである光ヶ丘(ひかりがおか)君と、(いおり)さん。その二人とはできれば戦いたくないと思っていた。砦にて邂逅した時は衝突やむなしかと思ったし、事実一触即発であったけれど庵さんが会話を望み、アカとヒイロがそれに応じた事で少し猶予が産まれた。


 その後、数時間にわたって思い出話に興じる中で最初は頭に血が上っていた光ヶ丘君がだんだんと落ち着いて来たことがわかったので、申し訳ないが戦うどころではないように揺さぶりをかけさせてもらった。


「私達の都合で話しちゃったって、報告しておかないとね」

「話したって……ああ、チート(呪いの)スキルのことか。まあ私達が伝えなくてもボチボチ気付く頃だったんじゃない? 現に何人か死んでるらしいし」

「たまたまかと思ってたって可能性はないかしら」

「ある日突然目を覚まさなくなるんだよ? 何かしらの理由があると思うのが普通じゃん。それがガッツリチートスキルを使っていた人ってなればそこに原因があると推測は出来ると思うけどなあ」

「まあ確かに」


 仲間(クラスメイト)が原因不明の死を迎えたら自分の身にも起こるのではないかと警戒するとは思う。だけど聞いた話ではクラス内でもいくつかのグループに別れてしまっているらしいので仲が良くない相手だったら詳しく調べたりは出来ないかもしれない。

 

「私達とは正反対だけどね」

「え? ……ああ、そういうことか。まあ、確かに」


 一瞬遅れてヒイロの言葉の意味を理解して、アカは考える。チート(呪いの)スキルによって寿命が著しく削られたクラスメイトと比べて自分達は果たして幸運と言えるのだろうか。


「少なくとも現在進行形で不幸ではない、か」


 隣のヒイロを見て呟く。


「なになに、また甘えてくれる感じかな?」

「甘えさせてくれるの?」

「勿論! アカがお望みとあらば」

「ふふふ、じゃあさっさと後処理を終わらせないとね」


 アカは笑って立ち上がる。制圧したとはいえここは敵陣の砦である。ここを拠点として使うためやるべき事は多い。ただでさえ同郷と数時間にわたって語り合い――これ自体が勇者との戦いと言えなくもないし、実際に怒られたらそう言い訳するつもりではいるが――他の者達に負担を強いている以上、ここからは人よりも働かなければならないだろう。


 アカとヒイロは勇者達が立ち去った方とは反対側の扉に向かう。


◇ ◇ ◇


 二つの月が照らす夜道を歩く二人の勇者。端正な顔立ちをした男と、その隣で彼を支えるように寄り添うこちらも美しい女性。


 二人の勇者は十余年ぶりに再開した同級生、今は双焔の魔女と呼ばれる二人と話をした結果、その場は一旦退く事を選択した。


「朱井さんと茜坂さん、苦労したんだね」

「…………」


 これまでも戦場に駆り出されて来たし、そうでない時は冒険者として魔物と戦ったこともある。だが今思えばそれはチートスキルの性能にものを言わせた、いわば安全な狩りのようなものであった。


「何度も困難を乗り越えて、時には死にかけて、それでも日本に戻る方法を探して旅を続けて……か。私たちにはできないね」


 庵花南(カナン)は隣を歩く光ヶ丘(ソウ)に語りかけた。


「そうだな。……だが、俺たちの努力まで否定する事はない。ただ、彼女達の歩んできた道のりは、俺たちのそれより険しかったって事だろう」

「それはそうだけど、それって結局チートスキル頼りじゃない? 呪いのスキル、か。本当のところ、どうなんだろうね」

「………………」


 カナンの言葉にソウも黙り込んでしまった。アカとヒイロから教えられたのは、チートスキルは使う事で寿命を縮めるという事実であった。


「ソウ君はあの話、信じる?」

「……分からない」

「だよね。あの場で戦いたくない二人がついた嘘かもしれないし」


 だが、二人には仮に戦いになっても構わないという覚悟を感じた。対話を望んだのはカナンの方であったのだから。その場で咄嗟に嘘をついて口裏を合わせたとも考えられるが、二人には確信があって話をした可能性が高いとカナンは思った。


「………………だとしたら、」

「え?」

「その話が本当だとしたら、俺たちはあとどれくらい生きられる?」

「それは、分からないよ。こうやって話すだけでも通訳スキルが勝手に発動してるって事だから寿命は減り続けているってわけでしょう」

「ああ、そういうことになるのか」


 思えば久しぶりに日本語を聞いた。勇者達は通訳スキルによって頭の中で考えた日本語が勝手にこちらの世界の言葉、共通語になって口から発せられるし、耳から入ってくる共通語はスキルを通して日本語で理解できる。だが弊害として自分の言葉は勝手に共通語に変換される。日本人である勇者同士での会話あってもである。なので音としての日本語という意味ではアカとヒイロが話す言葉が十数年ぶりに耳にした。それによる郷愁の念もまた、ソウとカナンの心を締め付ける。


「……それで、こうして戦わずに帰って、王都に着いたらどうしようか」

「分からない。だが、寿命の話はみんなと共有しないといけないだろう」

「みんな、信じてくれるかな」

「イグニシア王女を問い詰めてみるか?」

「答えてくれると思う?」

「どうかな。意外と「話していなかったか?」とかいってしれっと肯定したりして」

「……有り得そうだな」


 森で待機させていた馬を見つけたソウとカナンは颯爽と跨り、王都へ向けて駆け出した。


◇ ◇ ◇


 用意されたやや小さな個室でアカとヒイロは窓の外の二つの月を眺めていた。


「双月まであと十日くらいかな?」

「次の双月で、この世界に来て何年だったかしら」


 二つの月が同時に満月となる現象をこの世界では双月と呼び、街では祭りが開催されたりする。一年に二回、春と秋に訪れる双月であるが、アカとヒイロがこの世界に迷い込んだのは奇しくも秋の双月の日であった。なので秋の双月を迎える度に、また一年経ったと二人は実感するのである。


「十二か十三か、十四ぐらい……?」


 ヒイロが「旅立つまでに一年で、そのあと魔導国家までが三年くらいだっけ?」などと呟きながら指を折っている。


「もう分かんねぇや。自分たちの年も二十歳くらいまでは数えてたんだけどね」

「年齢はあえて数えないようにしていた時期もあるからねぇ……」


 お手上げのポーズをするヒイロにアカも同調した。多分十二、三年だとは思うが、あまり暦を気にしてこなかったし、特に魔導国家に着くまではこの世界に共通の暦が無いと思っていたぐらいであるのでアカもこちらに来て何年経ったかはっきりと断言出来ない。


「なんか、大人っぽくなってたね」

「庵さん達? そうかな……言われてみればそうかも」


 クラスメイトに再会するのはこれが初めてでは無いが、正直顔をよく覚えていないどころか名前も一致しないぐらいの者も多い。そんな中、クラスの中心であった庵花南と光ヶ丘爽のことは二人とも何となく覚えていた。二人とも相変わらず整った顔立ちであったが、よく言えば大人っぽくなって……こうは言ってはなんだがくたびれたOLやサラリーマンのような雰囲気を醸し出していた気がする。


「……ボサボサの髪と無精髭のせいって気もするけど」

「それは私も思った。でも確かに、みんな歳をとるわよ。十年だもの」

「私達もこんなに老けちゃって。でも大丈夫。歳をとってもアカが好きだよ」

「何言っているのよ」


 下らない冗談を言ったヒイロに軽くチョップをする。


「アカは? 歳を取っても私を好きでいてくれる?」

「当たり前でしょ」


 そういうとヒイロは()()()()()()()()()()()()エヘヘと笑った。


 十余年か……魔導国家で見つけた、日本へ帰るための小さな可能性。果たしてそれを手に入れることは出来るのだろうか。


 アカはヒイロの頭を優しく撫でながら、改めて先ほどクラスメイト達に話した冒険譚、とりわけ魔導国家での思い出を振り返る。

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