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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第171話 王都の冒険者ギルド

 アカが眼を覚ました翌日。アカとヒイロはムスコット邸をあとにした。


「本当にもう大丈夫なのね?」

「はい、奥様。お世話になりました。旦那様にもよろしくお伝えください」


 屋敷の玄関ホールまで見送りに来てくれたアリアンナ夫人に挨拶をして別れを告げる。アリアンナ夫人の横では、ウイユベール嬢が寂しそうにヒイロを見ている。


「ヒイロ、また会えるかしら?」

「ウイ様は魔導国家に行くんですよね。私達の目的地も同じなので、いつかまた会えると思います」

「分かったわ。約束よ」

 

 ヒイロの答えに満足気に頷いたウイユベール。またね! と笑った。


 屋敷を出たアカとヒイロは貴族街を出て足早に平民街へ向かう。この辺りを平民が意味もなくウロウロしていると怪しまれたり、最悪変な言いがかりをつけられて捕まったりするらしいので無駄口を叩かずにさっさと移動した。


 ……。


 …………。


 ………………。


 門を越えて平民街に着くと、ホッとして緊張を解く。


「それにしてもヒイロ、ウイ様とずいぶん仲良くなったのね?」

「うん、まあ、二人で旅していたからそりゃあね。こっちも色々と大変だったんだよ。ウイ様ってば私にもっと気安く接しろだとか、冒険者になりたいだとか言ってきてさぁ……」


 アカだってアリアンナ夫人と二人きりで旅をしたのでそれなりに距離感は近付いた。しかしヒイロとウイユベールのそれは、明らかに近すぎるんじゃないか? そう邪推したアカがそれとなく探りを入れてみると、ヒイロは特に気にした様子も無く隠し事をするどころか堰を切ったように離れていた時のことを語り出す。


「……でね、夜は交代で見張りをするから寝てていいよって言われたりもするけど流石にそこまでさせて何があっても困るじゃん? でもしなきゃしないでウイ様のご機嫌を損ねるしで、結局いつでも飛び起きれるぐらいに気を遣いながら仮眠する感じになるからそれはそれで大変なんだよ」

「そ、そう……」

「そうなんだよ。私達は敵対貴族の専属冒険者には狙われなかったけど、それって結果論だしね。まあ私とウイ様は激流に落ちて流されたからその時点で死んだと思われている可能性はあるかなと思ったから、アカみたいに十日間も徹夜で見張りをしようとまでは思わなかったけどね」

「お、おう」

「あと最初はやっぱり何話したらいいか分からなくて困ったんだよ。ウイ様は「アカに接するみたいにしてくれればいい」なんて言うけどさ、私にとってアカはやっぱり特別だからはいそうですねとはいかないわけよ。仮にそうでなかったとしてもやっぱりウイ様とは身分も立場も違うし下手なこと言って日本の事を話しちゃったらって思うとあんまり喋らないほうがいいかなって考えちゃったりしてね。ほら、私たまに日本語がポロっと出ちゃうことあるし。だから最初の街に着くまでは会話もあんまり無くてねー。でもそれはそれで気不味いからしんどくてさあ。ウイ様が魔力操作の練習にハマってくれてからはそのアドバイスとかで会話もしやすくなったんだけどね」

「ほ、ほえぇ……」


 珍しく立板に水を流して話すヒイロにアカは相槌を入れる事しか出来なくなってしまった。


 特別におしゃべりなタイプではないヒイロがこれだけ話し続けると言うことは、ウイユベールとの旅の間それだけ溜め込んでいたのだろう。そしてその話からアカが推測した限りでは、どうやらウイユベールの方からヒイロも距離を詰めようとしてきたようだが当のヒイロはそれを無碍に扱う事も出来ずに苦心していたという感じだ。……少なくともヒイロがウイユベールに特別な感情を抱いているといった事はなさそうだとこっそり胸を撫で下ろした。


 しばらくヒイロの苦労話に付き合いながら街を歩くと冒険者ギルドに辿り着く。


「アカ、ムスコット伯爵から貰った報告書はあるよね?」

「うん。ここに」

「じゃあさくっと報告しちゃおうか」


 扉を開けて中に入ると、丁度出て行こうとする冒険者と鉢合わせた。


「あら、貴方たち……」

「「「あ! アカさん!」」」


 先日アカとアリアンナ夫人が襲撃された時に同じ場所にいて、その後夫人を街まで護衛してくれたと言う「緑の誓い」の四人であった。


 ……。


 …………。


 ………………。


 すっかり質の良い、中級者向けとも言える装備に身を包んだ緑の誓いの四人。アカはギルドの隅のテーブルで話を聞きつつ、改めて彼らに礼を言った。


「アカさんが元気になられて良かったです」

「そういえば奥様に聞いたけれど、貴女が私の傷を治してくれたのよね……ありがとう、助かったわ。それにみんなで奥様をこの街まで護衛してくれてたおかげで私もこうして目を覚ますことができたわけだし」

「いえ、私は簡単な傷くらいしか治せないので、もともと見た目ほど深い傷では無かったのだと思います」


 回復魔法を使ったと言うハルナが肩をすくめた。

 

「護衛についても、ただ一緒に王都まで帰ってきたってぐらいなんですよ。それだけだっていうのに翌日ムスコット様の遣いの方が謝礼を持ってきてくれて……俺たちもびっくりしてるんです」


 リーダーのシセイはそういうと、キョロキョロと周りを見てから声を潜めてアカに伝える。


「ただそれだけなのに、金貨二枚(200万円)ですよ? 全然大した事はしていないのにこんなに貰っちゃっていいんですかね?」


 気付くと残りの三人も少し困った表情をしている。


「ギルドを通していない貴族様との仕事とその報酬だから、受け渡しが済んだなら問題ないはずよ。もっと寄越せって言うなら、本来はその場で交渉すべきだったとは思うけど……」

「逆ですよ! 多すぎてビビってるんですって! 貰ったお金で全員の装備を揃えて、それでもまだ半分以上残ってて……だけど俺たちの実力だとまだ一日かけても銀貨一枚(1万円)に届くかどうかってぐらいなんです。やっぱり貰い過ぎだったんじゃ無いかって思えてきて、だけどもう半分近く使っちゃったから今さら返せないしどうしようって思ってたんです」


 シセイの言葉に頷く残りのメンバー。そういえば彼らはあの日が初めての冒険者活動だったのか。しばらく活動していくうちに改めて金貨二枚を稼ぐことの大変さに気付き、怖くなってきたということだろう。


 駆け出しの初心者が大金を手にして、身持ちを崩さずにきちんと装備を揃えて残ったお金を手元に残しているというのは好ましい事だ。そういった印象の良さや、なんだかんだ助けてくれた恩もあるのでアカは彼らの今後の活躍を期待しつつ答える。


「ムスコット様は器の大きな方なので、一度渡した謝礼を返せなんて言わないわ。そもそも貴方たちにとっては大金でも彼らにとってはそこまでの金額でも無いでしょうしね。返そうなんてとんでもなくて、寧ろ奥様からの感謝の気持ちという事で気持ち良く使わせて頂くのが礼儀だと思うわ」

「そ、そうですかね?」

「ええ。だけど今回のことは信じられないほどの、それこそ並の冒険者には一生に一度も訪れないような幸運が重なっての事だったと考えたほうがいいわ。二度と同じことは起こらないと肝に銘じておきなさい」

「そ、それは勿論! じゃあありがたく使わせて貰います……というか、もう使っちゃってますけど。改めてムスコット様にお礼は言わなくても大丈夫でしょうか?」

「平民が貴族に会いたいと言っても門前払いね。貰ったお金で買った装備を活用して仕事をこなしつつと実力をつけて、いつかムスコット様お抱えの専属冒険者になれれば直接お礼を言う機会もあるんじゃないかしら」

「なるほど!」


 アカの言葉に緑の誓いの四人は顔を明るくして頷いた。


「じゃあ俺たち、それを目標に頑張ります! アカさん、ありがとうございました!」


 新たな目標を定めた四人は早速今日の依頼をこなそうなと、決意を込めた顔をしてギルドを出て行った。


「……みんながみんな、ああいう冒険者ならいいのにね」


 アカと緑の誓いの会話を黙って聞いていたヒイロが呟いた。アカは全くね、と笑った。


 ……。


 …………。


 ………………。


 報告カウンターで受付嬢に報告書を渡す。


「ムスコット様の護衛依頼ですか。確かに報告書を受領しました」


 受付嬢が報告書に目を通していく。

 

「これでようやく私達もBランク冒険者だね」

「そうね。師匠にも報告しないと……そういえば師匠ってもうこの街に着いているのかしら。、私達の到着も最初の予定よりだいぶ遅れたし師匠の方が先に着いているかもしれないわね」

「着いたらギルドで待ち合わせようって話してたけど、さっきぐるっと見回して居なかったからまだ着いて居ないんじゃないかな」

「流石に一日中ここで待ってるってことはないと思うんだけど。朝か夕方に覗きに来るぐらいじゃない?」

「ああ、アカのいうことも一理あるね。じゃあ夕方また来てみようか」


 そんな会話をするアカとヒイロに、受付嬢が申し訳なさそうに口を挟んだ。


「あのぅ……ちょっとよろしいですか」

「はい、なんでしょうか」

「こちらに記載されていることなんですが、間違いないでしょうか? 他のパーティ(月桂樹)が裏切って依頼主を殺そうとしたとか、他の貴族の専属冒険者が暗殺しようとしたとか……」

「はい、本当です。ムスコット伯爵にご確認頂いても問題無いです」


 アカが答えると、受付嬢は困ったように眉根を寄せる。


「あの、この内容だと流石にギルド幹部に報告が必要となりますので、この場で承認は出来かねますね……」

「ええっ!? ムスコット伯の太鼓判もあるのに!」

「ヒイロ、落ち着いて……じゃあ、明日とかにまた来ればいいですか?」

「いえ、おそらくこれはお二人からも話を聞かせて頂く事になると思います。申し訳ございませんが少しお待ちいただいてよろしいですか」


 受付嬢はそう言うと、立ち上がって後ろにある扉を開けてロビーから出て行ってしまった。ちなみにここは王都の冒険者ギルドだけあってかなり大きく、報告カウンターも複数ある。なので他の冒険者の報告が滞るという事は無いのだが、受付嬢が慌ただしく出て行ったことで周囲がざわつき、その原因となったアカとヒイロは思い切り注目を集めてしまったのであった。

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