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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第166話 アカと襲撃者たち

「今夜仕掛けるぞ」

「向こうも来るなら今夜だと分かっているだろう」

「だが明日には王都に到着してしまう」

「やむを得ないか」


 遠くから付かず離れず、アカとアリアンナ夫人を観察し続けた襲撃者達。結局ここまでの十日間、アカが決定的な隙を見せることが無かったため、もう少し様子をみようと言い続けてここまで来てしまった。


 しかしこのままアリアンナ夫人が王都へ到着すれば自分たちの任務は失敗。自分たちは依頼人である貴族に処分されてしまうだろう。こうなればリスクが云々と言ってはいられない。十日間、決定的な隙こそなかったが相手は一度も眠っていない。交代で休んでいた自分たちとは違い体力は限界のはずだ。


 そう思っての決断だった。


 そして最後の野営地で予想外の事態に戸惑う事になった。


「なんだアイツらは」

「他の冒険者か? ついてないな」


 野営地で標的達は他の冒険者と合流していた。警戒心の強い標的の護衛が手を出して、そのまま潰しあってくれれば儲け物と思ったがそうはならずに同じ火を囲んで休む事にしたようだ。


「どうする、先にあっちから殺すか?」

「……様子をみよう」


 一人だけでも厄介なところ、さらに他の冒険者までいたら流石に勝機は薄い。最悪仕事を投げ出して逃げる事も考えつつ、襲撃者達は様子を窺った。


「おい、あの冒険者達はド素人じゃないか?」

「俺もそう思う」


 しばらく様子を見ていた襲撃者達は、緑の誓いが新人冒険者であることを見抜いた。


 アカに振舞われたスープを全員が口にしたこと。見張りをするシセイだが、実際はポーズだけでろくに周囲を警戒している様子はないこと。ハルナとペペィが眠らずにアカと談笑していること。アナーシが武器をすぐに持てる位置に置かずに眠っていること。


 これらのひとつひとつが、緑の誓いが野営に慣れていない事を雄弁に語っていた。それに気付いてさらに観察すれば、その装備は安物の駆け出し用のものがほとんど使われた様子すらない綺麗な状態であるという事も理解する。


 まさか昨日が冒険者デビューの新人であるとまでは思わ無いが、碌に戦った経験のない素人である事を悟った襲撃者達は緑の誓いは脅威にならないと判断した。自分たちが直接襲われれば反撃をする可能性もあるが、そうでなければ目の前で殺し合いが行われたとしても固まって何も出来ないだろう。


「行こう」


 襲撃者達は武器を持って四方に散った。


◇ ◇ ◇


 ゴウッ!


「ぐはっ!」


 アカが放った火の玉(ファイアボール)を落ち着いて交わした男だったが、なんと火の玉は避ける動きに合わせたかのように軌道を変える。男は予想外の軌道に対応できず、正面から火の玉を食らいそのまま吹っ飛んだ。


 これはもちろん、アカが魔力で炎の動きをコントロールしたからである。襲撃に備えて予め手元に魔力を集中させていたため、最初の一発目だけは二十メートル以上の距離があってもその挙動を完璧に制御する事ができたのだ。


「くそっ!」

「怯むな!」


 仲間がやられた事に驚きつつも、残った襲撃者達はそのままアカの元へ駆ける。男達も必死であった。


 残り三人か。


 最初の一人を無力化したアカは残り三方向から迫る者達の襲撃に備える。一対三では勝ち目が薄い、近づかれる前に最低あと一人、減らしたい。


 ちらりと緑の誓いの四人に目を向けるが、急な襲撃に理解が追いつかないのか、完全に硬直してしまっていた。邪魔こそしないけれど、戦力にはならないな。


 だったら!


「せいっ!」


 アカは再び火の玉を作り出し、迫る男の一人に撃ち出す。火の玉の大きさはサッカーボールほど、その速さもまた一流ストライカーのシュートぐらいだろうか。豪速球が男に迫る。


 しかし男は盾を斜めに構えてそのまますれ違うように斜めに跳躍して火の玉を躱わした。距離はおよそ十メートル。手のひらを警戒していれば打ち出される角度とタイミングを計ることは可能であり、まっすぐ飛んでくる攻撃を避けることはさほど困難ではない。


 焦って雑に魔法を撃ってしまった事を自覚したアカはほぞを噛んだ。あっという間に男達は近距離攻撃の射程に踏み込んでくる。


「はぁっ!」

「死ねっ!」


 前後から挟み撃ちのように剣が振り下ろされる。片方をナイフでいなし、もう片方は身を捩ってギリギリかわしたアカはカウンターでメイスを振るった。


「ふんっ!」


 ガンッ!


 しかしアカの振るったメイスは男の剣に阻まれてしまう。そのまま追撃が前と後ろ、さらに追いついた三人目から繰り出された。


「くっ、」


 たまらずアカは後ろに飛び退く。その先には目覚めたばかりのアリアンナ夫人が退避しており、自然と夫人ほ方にゴロゴロと転がる形になる。


「アカッ!」

「大丈夫で、……痛っ!」


 男達は二人纏めてといった様子で手に持った小刀のようなナイフを投げてきた。アカは飛び起きて幾つか弾いたが、どうしても叩き落とせなかった二本はついて脚を延ばして自らの身体で受け止めざるを得ない。


 強引に止めたナイフがアカの右足の甲と太ももに深く突き刺さる。右足に力が入らなくなり、アカは地面に倒れ込んでしまう。


 アカは思った以上に身体が衰弱している事を自覚する。正直、目の前の男達は大した実力者ではない。強さだけなら先日戦った月桂樹とさほど差はないと思われる。


 先ほど躱わされた火の玉も、防がれたメイスの反撃も、いまのナイフを叩き落とすのだって、体調が万全ならいずれもアカに最善の結果をもたらしてくれる筈であった。それが成せないほどに今のアカは弱体化している。


「よしっ、やったぞ!」

「油断するな、このまま押し切るんだ!」


 男達はそのまま武器を振りかぶって飛び込んでくる。


 アカは倒れた姿勢のまま、無我夢中で口を大きく開き残った魔力を込めて炎をぶっ放した。


「なっ!?」

「あ、熱……」


 目の前に迫っていた二人は正面から炎に突っ込み、一瞬で全身が炎に包まれる。


 だが一番後ろにいた男は――先ほど火の玉を躱したやつだが――間一髪、横に飛び退き直撃を避ける。


 もう一発っ!


 男の方を向き、再び炎を噴こうとしたアカであったがその視界に入ったのは剣を振りかぶってこちらに走ってくる緑の誓いのシセイだった。


「やめろぉーっ!」


 余計な事をっ!


 ここで炎を噴いたら彼を巻き込んでしまう。思わずアカは炎を吐くのを躊躇する。その一瞬はアカにとって致命的な隙を産み出した。


 男は後ろから迫るシセイに目もくれず、剣をまっすぐに突き刺出すようにアリアンナ夫人に向かって全力で突っ込んできた。


「奥様っ!」


 アカは辛うじて動く左足に力を入れて夫人の前に飛び出す。ドン、という衝撃と共に、腹部に鈍い痛みが走った。


 ……。


 …………。


 ………………。


「やっと死んだか。手間をかけさせやがって」


 男は身体を起こすと、アカの腹を貫通していた剣を乱暴に抜いた。アカの腹からは大量の血が流れており、見るからに致死量である。


「まさか三人殺られるとはな」


 最後に相手が身を挺して標的を庇ってくれなければ自分も危なかったかもしれない。やぶれかぶれに貴族の婦人を狙った一撃を防ごうと目の前に飛び出してきたのは予想外動きではあったが結果的にそれが決着をつける一撃となったわけだ。


「さて、アンタに恨みはないがこれも仕事だ」


 男は血糊を飛ばしつつ、アリアンナ夫人に剣を向けた。夫人は気丈に男を睨みつけている。


「お、おい! お前、なんでこんな事をっ!」

「うるせぇな」


 剣を構えて怒鳴りかかるシセイだったが、男はちらりと目を向けただけで意に介すことはない。一目で碌に剣も振れない雑魚だと見抜いたので放っておいても問題無いと判断したためだ。


「俺の標的はこっちの貴族だけだ。邪魔しないなら見逃してやるかはすっこんでろ」


 そう言って改めてアリアンナ夫人に向き直った男は剣を構えた。そのまま踏み込んでその首を跳ね飛ばそうとしたところで、その視界が赤く染まった。


 ……。


 …………。


 ………………。


「っ!!!!」

「な、なんだこれっ!?」


 突如顔が火に包まれ、男は倒れ込む。シセイは驚愕の声を上げた。


「うああああ! 熱い! 息もできないっ!」


 男の表情は苦痛に歪む。火を消そうとゴロゴロと転がるがその火は勢いを弱めない。


「た、焚き火の炎が急に動いてアイツの頭に……?」


 目の前の光景に立ちすくむシセイ。そこに、ようやく足が動いた残りの仲間達が駆け寄る。

 

「シセイ! 大丈夫!?」

「ああ、俺は大丈夫だが……」

「アカさんっ!?」


 ハルナが倒れ込むアカに駆け寄った。


「ひどいケガ……、安静にして下さい!」

「ま、だ……ヤツを、殺すまで、は……」


 アカは息も絶え絶えに手を掲げて焚き火の火を操っていた。自分を殺したと気を抜いた相手の頭に、近くで燃えていた焚き火の火を操って纏わせた。しかし残されたわずかな魔力では火力を増すことは叶わず、男の頭を吹き飛ばすには至らない。ならばこのまま焼き殺すしかないと火が消されないように必死で火を維持していた。


「うわわあああ……あ…………、あ……ぁ……、……」


 結果的に男は生きたまま顔を焼かれ続け、地獄の痛みのなか最後は窒息死するという最期を迎える事になった。


「……はぁ、はぁ……、奥様は……」

「私は無事よ。アカ、もう大丈夫」


 それは、良かった。アカは掠れた視界にアリアンナ夫人の無事を確認すると、そのまま意識を失った。

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