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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第164話 アカとアリアンナ夫人

 一方、アカとアリアンナ夫人はヒイロ達のように最初の街に着くまでに何日も野宿をするといった事態にはならず、襲撃地点から一日で街に到着――これはもちろん、ヒイロとウイが立ち寄った街とは全然別の街である――そこで馬車を調達して当初のルートに沿って王都を目指していた。


「襲撃される危険があるのなら、別のルートの方が良いのではないかしら?」

「迂回路だとちょっと遠回り過ぎますね。それに襲撃者が本気ならどのルートを通っても結局は襲ってくると思います」


 だったら最短ルートを通るのが結果的に一番危険が少ないと判断した結果である。


 馬車はこれまでのような屋根のあるしっかりしたタイプではなく、二人乗り座席を馬が引く簡素なものである。馬自体は大人しく軽く叩けば前に進んでくれるので乗馬経験のないアカであっても簡単な説明を受けたらすぐに馬車を動かすことが出来るようになった。


 このまま進めればあと二つ街を経由して十日足らずで王都へ着くことが出来る。十日であればなんとか体力も保つだろう。アカは周囲を警戒しつつ、馬に無理をさせ過ぎ無い範囲でムチを打った。


◇ ◇ ◇


 馬車での旅も二日目が終わろうとしている。野営に適した岩場を見つけ、馬とアリアンナ夫人を休ませる。


 焚き火に火を起こし、鍋に簡単なスープを作って振る舞う。


「こんな物しか用意できなくて申し訳ございません」

「十分よ。こんな状況で毎日温かいスープを飲めるだけでもありがたいわ」


 アリアンナ夫人は「いただきます」とお行儀良く手を合わせてスープを口に運ぶ。


「……今日も美味しいわ」


 そう言ってアカににっこりと微笑みかける夫人に、アカはお礼を言って自分もスープを飲んだ。有り合わせの素材を煮込んだだけのスープだが、こんなものでも文句を言わずに飲んでくれるアリアンナ夫人が有り難かった。


「明日には次の街に着く予定です」

「あら。じゃあまたベッドで寝られるわね」

「奥様に満足していただけるかは分かりませんが」

「ウフフ。確かにこの前の宿は少し狭かったわねえ」

「申し訳ございません」

「いいのよ。貴女は最善を尽くしてくれているのだから。それに、平民用の宿というのも少し、新鮮だわ」


 前の街では貴族用の宿ではなく、平民用の安宿――の中では出来るだけグレードの高い宿だが――に泊まった。


 貴族用の宿では襲撃の黒幕が待ち構えているかもしれないと思った事もあるが、単純にそんな宿に泊まるだけの手持ちが無いという事も大きい。アリアンナ夫人が伯爵から持たされていた金貨の入った袋は馬車と共に川に沈んだので、アカが肌身離さず持っていた財布に入っていたお金である。食料など、最低限の旅支度を整えつつ馬車を調達し、途中の街で平民用宿に泊まれるぐらいの額はあったがそれで殆どすっからかんになる見込みだ。


 そんなわけで残りの道中でも街に立ち寄った際は平民用の宿に泊まらざるを得ないのだが、アリアンナ夫人がそのことに不満を口にしないのは幸いであった。


「夜は冷えますのでこちらをどうぞ」

「ありがとう」


 アカが手渡した毛布を羽織り、夫人は体を横にして目を閉じる。整った顔立ちの夫人を見ながら、アカはこれからに思いを巡らせた。


 とにかく、今は夫人を安全に王都まで連れて行かなければならない。


 ……立ち寄った街で他の貴族に助けを乞うということも考えたが、夫人達を狙った者達が誰の手引きだったか分からない以上、全ての貴族が敵か味方か判断出来ない。


 冒険者ギルドに保護依頼を出すという手も考えたが冒険者(月桂樹)が裏切って夫人達を殺そうとした手前、ギルドから派遣される冒険者も安全な保証が無いので気が進まなかった。


 結果的にアカは一人きりでアリアンナ夫人を護りぬく事を決断したのである。


 一人きり、か。


 星空を見上げ、どこかにいるはずのヒイロを想う。


 この世界に来てからはずっとヒイロと一緒だった。初めはただのクラスメイトとして。すぐに唯一の同郷として心の拠り所となって、一緒に旅をするうちに居なくてはならない相棒として。……そして今では、かけがえのない大切な人。


 そういえば一日だって離れたことは無かったなと思う。隣にいるのが当たり前過ぎて、こうして一人きりで座っていると心にぽっかりと穴が空いているような喪失感を感じる。


「ヒイロが居ないと、寂しいよ……」


 パチパチと鳴る焚き火に目を落とし、アカは小さく呟いた。


◇ ◇ ◇


 真夜中。岩場の陰を何かがガサリと音を立てて通った、気がした。何かが居る?


 アカはメイスを掴んで立ち上がった。


 音がした方へ注意を向けるが何も見つからないし、特に生き物の気配も感じない。


 気のせいか?


 神経質になっている自覚はあるが、しかし気のせいだと決めつけた結果これがアリアンナ夫人を狙う刺客の類だったら目も当てられない。


「仕方ないか」


 アカは周囲に気を配りつつ、右手に魔力を集める。十分な魔力を込めたところで、音がしたと思った辺りに火の玉を投げ込んだ。


 火の玉は着弾するとゴウッと燃え上がり周囲を照らしつつ地面を焦がす。


「もしもさっきの音が囮なら、念のためこっちも撃っておくか」


 先ほど音がしたのと反対方向にも同じように火を放つ。人が隠れるならあの岩場の裏あたりかな?


 炎はアカが怪しいと思った付近を燃やすが、しかしどちら側にも刺客はもちろん動物なども居なかった。


 暫く炎を維持していたが、これ以上炙っても何も出てこないだろうと判断して魔力を断ち消火した。


「……やっぱり神経質になり過ぎか」


 アカは警戒を弛め、再び焚き火の側に腰掛けた。日が昇るまで、夜はまだまだ長い。


 ……。


 …………。


 ………………。


「あの程度の音に気付くのか。あの警戒網を突破するのは骨が折れるな」

「いっそのこと全員で同時かかれば良く無いか? ターゲットに毒ナイフ(これ)を刺せば良いだけだろう」

「必殺の距離に詰めるまでに確実に気付かれるだろうな」

「人数差で押し切れる」

「だがこちらも無傷とは行くまい。経験不足の小娘だと思っていたが、なかなかどうして手強そうじゃないか」

「あの炎は厄介だな。火の玉(ファイアボール)だが威力も速さも一級品だ」

「どうする?」

「……たった一人で睡眠も取らずに常に周囲を警戒し続けている。流石に王都までは保たないだろうし、もし気力で保たせたとしても、後半は精度が落ちるだろう。隙が大きくなったところで総攻撃を仕掛けるのが確実だな」

「弱気すぎるんじゃ無いか?」

「確実にターゲットを始末するなら万全を期すに越した事はない」

「そうだな。月桂樹だったか? Bランク冒険者四人を返り討ちにする実力者相手だ。油断はすべきでは無いだろう」


 ……。


 …………。


 ………………。


 朝になり、アリアンナ夫人が目覚める。


「奥様、おはようございます」

「ええ、早いのね。アカも少しは眠ったかしら?」

「はい。少しだけ仮眠をさせて頂きました」


 寝てないと言えば心配させてしまうだろう。さらりと嘘を吐き、温め直したスープを夫人に手渡す。


「ありがとう。夜の間に何かあった?」

「いいえ、奥様。特に問題はありませんでした」

「なら良かったわ」


 こちらはまあ、嘘にはならないかな。物音がした気がするけど結局何もいませんでしたって事だし。


 自分もスープを飲むと、馬にも忘れずに野菜を食べさせたアカ。


 さて、今日は次の街に到着予定だ。暗くなる前に到着出来るようにさっさと出発しよう。

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