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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第162話 ヒイロと怪しい男達

「今日中には次の街に着くんだったかしら?」

「どうだろう。前の街を出て今日が七日目だから、今日か明日って事だとは思うんだけど」


 途中で雨が降りあまり移動できなかった日もあるので、その辺りのロスを考えると今日中には到着できないかも。そういうとウイは不満そうな顔をした。


「だったら雨の日の分の遅れを取り戻すために、ちょっと急いでみるっていうのはどうかしら?」


 慣れてきたとはいえ野宿が続くのは疲労が溜まる。一日でも早く街に着いて宿に泊まりたいと思うのは仕方のないことだろう。だがヒイロはウイの提案に首を振った。

 

「急いでも今日中に着く保証はないんだし、止めた方がいいと思うなぁ」

「ヒイロは今日も野宿でいいの?」

「そりゃ宿に泊まれるならそっちの方がいいけど。じゃあ走る? ウイがどうしてもっていうなら付き合うけど」


 荷物をヨイショと背負い直し、いつでも走り出せるよう構える。


「走るってどれくらい?」

「さあ。鐘一つ(三時間)二つ(六時間)か、街に着くまでかなぁ」

「……止めておきましょう」


 ウイは諦めた。そんな何時間も走るなんて出来るわけがない。


「ウイが賢明な判断をしてくれてよかったよ」

「はあ、今日も野宿ってわけね」

「まだそうと決まったわけでもないけどね。もしかしたら今日中に街に着く可能性もあるわけで」

「それもそうね! じゃあ無理のない範囲で少しだけ急ぎましょう!」


 パッと顔を上げたウイは、少しだけ歩くペースを早めるのであった。


◇ ◇ ◇


「そして今日も街に着かなかった、と」

「まあ結局こうなる予感はしていたわ」


 そろそろ今日の野営地を探さなければならない時間帯だが、残念ながら街の姿は見えない。なんだかんだでウイも今日の野宿には異論は無いようで、もはや慣れた様子で辺りをキョロキョロと見回し始めた。


 野営するなら、まずは安全の確保が第一だ。周囲の様子を窺いやすいことが大前提で、先日のように雨が降っている場合は屋根になるものがある場所がありがたい。川の近くは便利だけど、あまり近すぎると増水や鉄砲水の危険などもあるので歩いて数分程度の距離があるのが望ましい、など気をつける事はそこそこ多い。他の旅人が野営した焚き火の跡などが残っているとそこは誰かが安全に一夜を過ごした場所ということになるので使わせてもらったりする。


「そこにある切り株のあたりが丁度良さそうじゃ無いかしら」

「うん、良さそうだね」


 提案した場所を見てヒイロが頷くのを受けて、ウイは機嫌を良くした。まだまだヒイロには敵わないが、それでもこの旅を通じて自分ができる事が少しずつ増えてきているという自覚がある。

 今の野営地の選定だったり、枯れ枝を削って薪を作ったり、あとはヒイロと共にスープを作ったりもした。

 並行して訓練している魔力循環についても、早くも効果が出始めてきており確かに以前より体内での魔力の操作がやり易くなった思うし、自分自身にしかわからない程度ではあるが風魔法の威力も上がっている。


 もちろん旅は快適なものでは無いが、分かり易く自分の成長が実感出来ていることもあり、ウイとしてはこの非日常を自分なりに前向きに捉えることが出来ていた。


 それに、とウイは野営の準備をするヒイロを見る。


「ん? どうかした?」

「別に、何でも無いわ」


 そんなにまじまじと見つめたつもりは無いが、ヒイロはウイの視線に気付き首を傾げた。ウイは見つめていたのがバレたのが、何だか気恥ずかしくなって誤魔化すように手元に目線を移す。


 ぼけっとしているようで、こういう妙に勘の鋭いところはヒイロのミステリアスな魅力だと思う。


 国境付近の街の貴族であるウイは、これまで歳の近い友人が極端に少なかった。ゼロでは無いが、しかしそれは貴族としての付き合い方の範疇を出ない。心を許せないわけでは無いが、家と家の付き合いがある以上はなんでもあけすけに話すわけにはいかないのである。


 だから、こうやって何の遠慮なく言葉を交わせる存在であるヒイロといるのは掛け値なしに楽しいし、ある意味ではこの時間がもっと続いてくれればとすら思ってしまう。


 ヒイロは自分のことをどう思っているのだろうか。


 こうして遠慮なく接してくれるのは、ウイがそうするようにと懇願……もとい、命じたからである。だからきっと、自分の事は雇い主であるしか思っていないだろうし、王都に着いたらまた畏まった態度に戻ってしまうだろう。


 それは仕方のない事で、今がとても特殊な状況であることはわかっている。しかしだからこそこの仮初の友情を、かけがえのないものとして育みたい。ウイはそう思うのであった。


◇ ◇ ◇


「ウイ、慌てずに聞いて」

「ヒイロ?」

「私達を取り囲もうとしてる奴らがいる。人数は分からないけど、あちこちから音が聞こえる」

「えっ!?」


 慌てて顔を上げたウイをヒイロは手で制する。


「だから落ち着いてって」

「え、ええ……。動物とか、風の音って事はないかしら」

「それもあり得るけど、一応最悪を想定しておかないと」

「仮に人だったとして、他の冒険者って事はないの?」


 ウイは先日野営地を共にした冒険者達を思い出して訊ねる。


「それは無さそうかな。だったらこっそり取り囲んだりしないで正面からやってくるだろうし」

「まさか私やお母様を狙っていた刺客……っ!?」

「そうかもしれないし、ただのならず者かもしれない。いずれにせよ、私たちにとって有り難くない相手だとは思う」


 ヒイロはそう言うとメイスを掴んで立ち上がった。


「ヒイロ?」

「ウイは私が守るから、ここから動かないでね」


 ウイを庇うようにその前に立って、ヒイロは潜む者を見極めるように夜の闇を睨みつける。


 ……。


 …………。


 そのまま暫く時間が流れる。何も現れないのでやはりヒイロの気のせいだったのかもしれないとウイが考え始めた時だった。


 ヒイロが見ていた方から、一人の男が歩いてくる。


 本当に居た! ウイは驚きヒイロを見た。しかし本当の驚きはその直後に訪れる。


「なぁ、アンタたち……」

「ふっ!」


 ウイ達に話しかけようとした男にヒイロは躊躇なく火の玉を放った。「は?」という間の抜けた上げた男はあっという間炎に包まれる。


「ちょっとヒイロッ!?」

「ウイは動かないで!」


 問答無用で人を攻撃したことに驚いたウイをヒイロが制する。男はそのまま倒れ込み、パチパチと音を立てて燃え続ける。


「てめぇっ!」

「何しやがるっ!」


 男の後ろと、さらにウイの後方から野太い声が聞こえたかと思うと剣を持った男達が飛び出してきた。


 ヒイロは無感情にメイスを振ってウイの後ろから迫る男を殴りつける。メキッ! という音が聞こえたかと思うと、男は一撃で頭が潰されて吹き飛ばされた。


「殺してやるっ!」


 ウイを守ったせいで、もう一人の男の接近を許してしまったヒイロ。その背中に凶刃が迫る。


「ヒイロッ!」


 慌てて声を上げるウイ。しかしヒイロは落ち着いて手元に炎を発する。ボウッと弾けた炎に一瞬で焼かれた男はその場で立ったまま絶命する。


「邪魔」


 ヒイロは目の前の焼死体を乱暴に蹴飛ばした。死体は十メートル以上吹っ飛んで、グシャリと崩れ落ちた。


「あ、あ……」


 目の前の光景に理解が追いつかず、ウイは腰を抜かしてしまう。ヒイロはまだ暫く周囲を警戒していたが、辺りから人の気配がなくなったと判断して肩の力を抜いた。


「もう大丈夫かな。ウイ、ケガは無い?」

「え……? え、ええ……」

「そう、良かった」


 ヒイロはニコリと微笑むと、ウイの横に倒れていた――ヒイロがメイスを叩きつけて頭をカチ割った――男の死体の足を持つとそのまま引きずって二つの焼死体の元へ持っていく。


「風向きは……大丈夫か」


 そのまま全ての死体に火をつけて燃やし尽くした。人の肉の焦げる嫌な匂いがその場に漂うが、風はウイが座っている方とは逆に吹いているので不快な思いをさせることは無いだろう。


 後始末を終えてウイの元へ戻ると、ウイは肩を抑えて震えていた。


「お待たせ……大丈夫?」


 ヒイロの呼びかけに、ウイは小さく頷いた。


「ここだとあれが目に入っちゃうし、ちょっと場所を移動しようか」


 既に炭になっているとはいえ死体が見えている場所でスープを飲む気分にもならないだろうと思って提案する。


 ちゃっちゃと荷物をまとめるヒイロに対して、ウイが絞り出すように声を発した。


「ヒイロは、躊躇なく人を、殺せるのね……」

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